大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 9月30日 ベランダからの景色

2015-09-30 19:25:23 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 9月30日 ベランダからの景色



 小さい頃だった。
俺の父親は出張の多い仕事で家を空けることが多かった。
母親が何かの病気で手術することになって、その間、一ヶ月ぐらい祖父母の家に預けられていたことがあった。
 祖父母の家は政令指定都市だが中央から離れていて、まだ周囲には田んぼが残ったようなところだった。
割と直ぐに同じような年頃の友達が出来て、近所の公園でよく遊んでいた。
 ある日いつものように公園に行ったら、何故かその日は誰もいなくて、

“ まあ、そのうち誰か来るだろう。”

と、ひとりでブランコ漕いで遊んでいた。
 すると、同じ年ぐらいの知らない男の子A君がやってきて、その子も一人だったから、一緒に靴飛ばし( 立ち漕ぎしながら靴を遠くに飛ばしたもん勝ちって遊び)をした。
 しばらく遊んで、時間も遅くなって来てA君が、

「 もう家に帰るけど、俺んちに来ないか?」

って言われて、一緒に付いて行った。
 そこは5階建てか6階建てか忘れたけれど、それぐらいの高さの古い社宅だった。
エレベーターがなくて階段で競争しながら駆け上がって行った。
 最上階のA君の家に入ったあと、ベランダに出て町を見渡して、

「 あそこがさっきの公園だよ。」

って教えて貰った。
 その公園から目で辿って祖父母の家も見つけた。
俺んちは一戸建てだったし、祖父母の家も一戸建てだったから、社宅とかすごく珍しくて面白かった。
 その日はそれだけだったけれど、

「 今度来た時は、屋上に連れてってあげるよ。」

って言われて、なんかワクワクして楽しみにしていた。
 でも、その日、祖父母と夜ごはんを食べながら、A君との約束の話をしたら、祖父母ともに首を傾げていた。

「 その辺に社宅なんかない。」

って言うんだ。

「 あったってば、自分の足で階段駆け上がったし。
ベランダからの景色も目に焼き付いてるし。」

 でも翌朝、祖父と一緒に記憶を辿りながら、家から少し離れたその辺りを探したけれど、本当に一戸建てか2階建てのアパートしかなかった。

“ そんなはずない!”

と思って、なんだか説明できないような感情が襲ってきて、悔しくてわーわー泣いた。
 しかし、結局その日の昼に父が迎えに来て、

「 母が元気になったよ!」

って言われたら、もう嬉しくて、そんなことはすっかり忘れてしまった。


 中学に入った年に祖母が亡くなり、そのお通夜の時にそのことを思い出して、祖父に、

「 本当に社宅に上って、ベランダから町を眺めた。」

って話したら、祖父もその時のこと覚えていて、実際のところどうなのか分からないし怖がるといけないと思って黙っていたけど、社宅はあったらしい。
 ただし、その5年も前に取り壊されていたそうだ。
その社宅で何があったのか分からないけれど、取り壊しになったあと、しばらく子供の幽霊が出るという噂話はあったらしい。
 だけど、その話を聞いても俺は何故か怖いと言う感情にはならなかった。
A君との思い出は現実だったのか夢だったのか分からないが、俺に兄弟がいないせいか、すごく楽しくて今思い出しても、ベランダから見た景色もA君の笑顔も覚えている。
だから、もう思い出の一つとして残しておくことにしている。








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