日々の恐怖 4月17日 雷
引越し屋で働いてるんだけど、取り壊し予定の家の玄関から家具を運び出すのに四苦八苦していると、客(家の住人で70代近い爺さん、一人暮らし)が、道路に面している通路の突き当りの土壁を指差し、
「 この壁がなければ家具の出し入れもしやすいでしょう、ここ、壁薄いし・・・。」
その突然の申し出に、
「 いや何とかしますから・・・。」
と断ったのだが、爺さんは、
「 いいから、いいから・・・。」
と、カケヤやバールを持って来てガンガン土壁を壊し始めた。
放置して作業する訳も行かず様子を見ていると、爺さんが、
「 あ・・・・・!?」
と声をあげた。
見ると、壊れ掛けた土壁の隙間に大量の紙が詰まっている。
爺さんがそれを引っ張り出すと、梵語らしきもの(漢字じゃなかった)がびっしりと書かれたA5サイズくらいの紙が十数枚あった。
それに驚いた爺さんが血相変えて家の中をひっくり返し始めると、梵語みたいな文字の紙が家(木造平屋建て)の見えない場所から出るわ出るわ。
畳の裏、天井裏、縁側の床板の裏、一枚一枚全て手書きで、全て微妙に違う文字が書いてあった。
奇妙なのは、一昨年に工事したと言う真新しい玄関前の側溝のコンクリ蓋の裏にも貼ってあった。
さらに、紙には明らかに古いものとそうでないものが混ざっていたし、
「 前に見たときは、こんな物は貼ってなかったんだけどねぇ・・・。」
と爺さんが首をかしげるような場所にもいくつか見つかった。
こちらとしては、爺さんの相手をしていると仕事が終わらないので、怪訝な顔の爺さんを無視し、大急ぎで玄関から荷物をトラックに積み込んだ。
家自体は20年くらい前に空家だったのをそのまま買い取ったらしいから、前の住人の情報は皆無だったようだ。
そして、とどめは引越し先の新築の平屋建てに、俺たちのトラックが到着する直前に雷が直撃していた。
被害はそれほどでも無かったようで、無事、爺さんはそのまま入居した。
自分の貧弱な想像力で考えると、
あの家にまつわる何かを封じている何者かが、家を手放した後も住人に気付かれないようアフターケアをしていたのでは?
あの落雷で、新しい家にその何かも引っ越ししたのか?
まあ、この程度が限界でした。
とにかく不気味な経験であったことは確かです。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ