日々の恐怖 4月3日 青い袖(5)
悲鳴に驚いた弟が先生に近づいた時、もう一度、
「 許さない。」
と聞こえた。
耳を両手で塞いでいてもハッキリ聞こえたという。
声を信じられなかった先生は次の日病院で目と耳の検査をした。
しかし、検査結果は特に異常なしだった。
正直言って私は逃げたいほど怖かったが、それよりも妙な気分だった。
こんな子供じみた話を、大人の先生が子供の自分に真剣な目で話すのが、とても奇妙に感じたのだ。
今思うと私は、母以外の大人は幽霊なんて信じやしない、と勝手に決めつけていたからだろうと思う。
先生は、今度は死体遺棄事件の話をはじめた。
そこで私は、もう引っ越してしまった神社で一緒に遊んでいた友達の一人が、実は先生の姪だったと知ってとても驚いた。
その子は私と弟の幼馴染みで、弟の不思議な言動をよく知っていた。
友達はそれを、叔母である先生に時々話していたのだ。
つまり先生はずっと以前から、姪から弟の話を聞いていたのだった。
しかし先生は姪の話に出てくる不思議な男の子が、弟だとは知らなかったし、当然子供の戯れ言だと思って全く信じていなかった。
最近姪と話した時に突然弟の名前が出た事に驚いて、それで男の子と弟が同一人物であることを知ったと言うのだ。
そして今までデタラメだと思っていた、
アイスを6回も連続で当てたり、財布を拾って一割もらったり、車の中に死にそうな人がいた話が、全部本当の事に思えてきたのだと言った。
もちろん私はそれが全部本当の事だと知っていたので、先生にそう言った。
すると先生は、担任になって弟と接する内に、弟が落とし物の持ち主をすぐに言い当てたり、なくし物を探し当てたりと、弟の勘が異様に鋭い事には気が付いていたのだと言った。
先生自身も弟に、車の鍵と財布を拾ってもらった事があると。
だが先生は眉間に皺を寄せて、とにかく弟には不思議な何かは感じているが、それを認めてしまうと、あの声が気のせいだと思えなくて、それが怖いと言った。
その時私は、弟が誰かに怖がられるのがとても怖いと思った。
このままでは先生にまで怖がられてしまうと考えて、その日の夜に、覚えている事のすべたてを弟に話した。
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