日々の恐怖 10月31日 ヘルパー(5)
それらの、物の隙間に、女の子が身を隠してるように見えた。
驚いたのと、逃げるのと、一番階段側の部屋のドアに、紺のトレーナーとジーパン履いてる女の人が立ってたのは同時だったように記憶してる。
私とその女の人はかなり近接してたはずなんだけど、不思議と記憶では5、6歩離れてるように感じられた。
もう、超ダッシュ。
一目散に階段駆け下りて、駆け下りてる最中、そっと肩に手を置かれたような気もしたけど、わき目も振らず。
靴を履いて、戸を引き開けて、何も見ないようにしてるつもりだったけど、戸を閉めるときに、チラッと見てしまったんだ。
玄関の上がり口に、女の人が、猫が伸びをしてるような姿勢でいるのを。
不思議と、2階で見たときは顔がのっぺらぼうっていうか、顔だけぼかしがはいってるようにしか思い出せないのに、玄関の上がり口では、黒髪に肩までくらいの長さで、ムースか何かで結構かっちりウェーブがかってて、顔の形や表情まではっきり思い出せる。
その日はそのまま、
「 もう仕事できない!」
って言い張って、別のヘルパーが時間をずらして訪問したらしい。
私はそのままその会社を辞め、二度とホームヘルパーをやる気はない。
制服とかあったから、クリーニング出して会社に戻しに行った。
同行した先輩ヘルパーさんがいて、気まずかったけど、挨拶した。
そのときに聞いた話。
あの家では何人か怖い思いをしてて、おばあちゃんはいい人なんだけど、いけるヘルパーが限られてしまう家らしい。
詳しい事情は知らないけど、仏壇には若い女の人と小学生くらいの女の子の遺影が飾ってあるらしいです。
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