さらばゴッキー

寝室で寝転がって、のんびりTVの
野球観戦をしていると、驚いたような
顔をした身内の一人が手招きをする
のである。

トイレを指差し、「ゴゴ、ゴキブリ…」
と、低い声で言うのだ。

そっとトイレのドアを開けてみると、
電気は点いていて、便器の横の床に、
まんじりともせず、ゴッキーが
這いつくばっているのが見えた。

はばかりながら、我が家にゴッキーは
10年以上前に宅急便の段ボールから
飛び出して以来、見ていないのである。

そのゴッキーもあっという間に姿を見なく
なってしまったのだ。

我が家は余程住み心地が悪いとみえて、
その後も全く見ていないのである。

そのままそっとトイレのドアを閉め、
どうしたものか…と目まぐるしく頭を
回転させたが、我が家にはゴッキー用の
殺虫剤がないのだ。
そこで、小蝿や蚊を一噴霧で撃墜できる
アルコール噴霧器を使おう…と考えたのだ。

早速噴霧器を構え、そっとトイレのドアを
開けると、まだ動かずじっと同じ位置に
いるではないか。

そーっと噴霧器を向けると、ちょっと
動いたが、そのままの位置にいたので、
一気に噴霧した！

ヤツは一瞬怯んだように見えたが、
コソコソとこちらのドアの出口に
向かって来たかと思うと、一目散に
廊下に走り出たので、連続噴射を
浴びせつつ追いかけた。

しかしヤツは、怯むことなくワタシの
仕事部屋へと入っていったのである。

さらに噴霧を浴びせながら、追いかけるが、
ラックの下に少し空いている隙間に
逃げ込んだのでしまったのだ。

どうしてくれようかと思ったが、
もう奴の姿は見えないのだった。

そこで思いついて、掃除機を持って来て
細めのノズルを付け、逃げ込んだ辺りの
隅から隅まで全面を吸いまくってみた
のである。

掃除機を開けて、ゴミ袋に耳を当てて
みるが、こそりとも音がしない。

幸いゴミ袋は、ゴミが入ると口が
自動的に閉じるような作りのなって
いるので、逆走の心配は無さそうだ。

さりとて、袋を破って確認するのも
何だかなあと思って、そのまま
掃除機から取り外して、ビニール袋に
三重に包んで蓋つきゴミ箱に捨てた。

まあ…一応やれるだけのことはやったので、
ちょっと胸を撫で下ろした。

後で、ゴッキーの最終逃走地の我が
仕事部屋を覗いてみたが、全く気配は
無かった…。

しかし、身内はまだ心配らしく、トイレに
行くたび、廊下の灯りのスイッチを入れて
周りを見渡して入っている。

その後、ゴッキーの気配を感じないまま
夜が明けた。

きょうは燃えるゴミ出しの日なので、早々と
昨日ゴッキーを捨てた可燃ゴミ袋の口を
しっかり縛ってゴミ出し所の網の中に放り込んだ。

正直、こうして外に廃棄するまでは落ち着か
なかったのである。

やれやれ…とやっと胸を撫で下ろした
のだ。

部屋へ戻ると、身内が目を見開いて廊下
に立っているではないか、そして震える手で
トイレを指差しているのだ。

そっとトイレのドアを開けると、すでに
トイレの電気は点いていて、その明かりの中、
きのうと同じ位置、同じ向きをして、ゴッキーが
鎮座ましましていたのである！！！！！


今日の一句

ゴキブリと　深夜に競う　鬼ごっこ
　　　　　　　　　　　　　　Issei