「でかしたぞ!」思わず声をあげてしまった。それは白蓮(ハス)がわずかに開いたのを見たときだった。
昨年、豊川のK氏から鉢ごといただいた蓮が見事に花を咲かせた。一鉢から、紅色3・白色2と
合わせて紅白5花も大輪を開いたのである。K氏は「水だけ絶やさずにやってくれればいいですよ」
と言っていたので、その通りにしただけだったのだ。
最初は、鉢に泥が水とともにネットリと溜まっているだけだったが、6月の終わりごろから7月に
かけて、みるみる葉っぱが20から30枚ほど出だし、またたくうちにわたしの胸のあたりまでの高さに
達した。そして、いつのまにかその大きな葉っぱの陰から次々と蕾を昇らせたのである。そして、
先のごとくに5花咲かせたのだ。
その後引っ越しなどあって、一戸建ての庭からマンションのベランダへと環境が変わったので、
やや心配だったのだが、「今年も頼むぞ」と願いを込めて、日々水を絶やすことなくやってきた
のである。そのかいあってか、昨年同様みるみる葉っぱを20から30ほど伸ばし始めたのである。
そして待望の蕾が昇り始めたのだった。
計3個の蕾で、昨年よりは2つ少なかった。しかも3つとも紅く色づいているではないか。先に出た
蕾2つは大きくなるにつれ、蕾のうちから真っ赤になって、案の定、紅い花になった。
今年の花は昨年に比べると一回り小ぶりである。それでも十分に美しく、最初の花が開いたときは
覗きこんで、「おはよう!わたしが…」と、言おうとして、言い淀んでしまった。「こんにちは
赤ちゃん」のノリで言おうとしたのだが、当然ママではないし、「パパよ」と言おうとして、
これもおかしいと言い淀んでしまったのである。お気の毒なのは、世に出て、初めて見た人間の
顔が、むさいオヤジのわたしであったことである。まあ…その点はおゆるしいただく他はない。(笑)
最後の3つ目の蕾も、うっすらと紅みを帯びているのだ。確かに紅い花も十分にきれいなのだが、
それに白が加わって咲くと、それこそ得も言われぬ美しきハーモニィーを奏でるのである。
「また紅かなあ…」とちょっとあきらめムードだった。
その最後の蕾はグングン伸びて先の2花を追い越し、ベランダも越して、ひょいと外を覗くように
頭を出した。「こいつちょっとオチャメなやつだぞ」と思っていたが、蕾は前の紅2つより大きく
膨らみ、2つがついに散ってしまってからもなかなか開かなかったのだ。そして依然として、
紅みを帯びていた。やっぱり紅かなあ…と思っていたある日、会社から帰って車を降りてベランダを
見ると、あの蓮の蕾が、半開きになっていたのである。そして真っ白な中をのぞかせていたのだ。
このときに思わず出た言葉が「でかしたぞ!」だったのである。
この白蓮は先の紅蓮よりはるかに大きく、花弁のふちを薄紅に彩りながら、純白の本体と黄色の
花粉を中央に散りばめて、昨年のにも負けない大輪を咲かせたのである。
最高の感動の瞬間だった。白蓮は幸運なことに最初に我がむさいな顔を見ることなく、マンション
からの景色を眺めたのである。やんちゃで、好奇心旺盛で、ちょっとへそ曲がりの美しきヤツ
だった。
大きくて、あでやかな割には繊細で、品性を備え、香りもすばらしく、あたりを幸せの芳香で
包んでくれるのである。それに何といっても蕾から咲くまでのあいだに大きな感動があるのだ。
点数にすると100点満点、言うことなし!。間違いなく一番好きな花である。