以前、アサリとトマトを使ったボンゴレロッソ(赤)を
作ったくだりを書いたが、それから数日たって、
白ワインを使うボンゴレビアンカ(白)を作った。
これが大好評で、身内らから絶賛の声を
もらってしまった。
これで調子に乗りたいところだが、ちょっと
心に引っ掛かることがあったのだ。
というのも、スーパーで買ってきたアサリを、
風呂場で砂吐きをさせたのだが、一晩経って
そ~っと掛けていた新聞紙をめくると、
ぴゅっぴゅっと水を吐き、だらりと伸ばしていた
脚を引込め出したのである。
それが何とも可愛くて、思わず可哀相に
なってしまったのだ。
ウ~っと殺生の罪悪感が胸元を
よぎっていく…。
しかしながら、そんなことを言っていては
何も食べれなくなってしまうのも事実である。
ままよ…丘に上がってもしぶとく生き抜く
アサリの生命力を我が心身の糧の一部として
いただくこうと覚悟を決めた。
ニンニク油で炒め、白ワインを振りかけて
蒸し焼きにし、心して粛々としていただいた
のだった。
正直、アサリの身はふっくらとして、寸前まで
宿していた命の温みを感じ、確かに得も言われぬ
旨さを賜ったのである。
生きて行くことは他の命を戴いていく
ことにほかならない、それを拒絶すれば
こちらの命が灯らない…。
生きるという原罪の悲しみはそこに
あるのかも…という原点に戻らされてしまった。
蒸し浅蜊食えば潮騒遠く聴く
issei