今年の夏、玄関先の薔薇の植木で3センチくらいの
カマキリの子供を見つけた。
もしかしてカマキリがここに卵を産んだのかなあと、周りを見回したが
その一匹だけしかいなかった。指先でつつくと、ビックリしたようにして
玄関ドア横の壁にピョンと飛びついた。
以来その薔薇の植木を見るたび見かけるようになった。どうやらその植木に
住み着いているようだ。
やがて秋になってあいつは大きくなっていて、まだ全身緑色だったが、
依然としてその植木の薔薇に乗っかっていた。以前カマキリを描いたとき
取り寄せた資料によると、なんと7回も脱皮をしてその度に大きくなるらしい。
「よほど気に入ってんだなあ」と、もはやその薔薇こにいるのが当たり前に
なっていた。
ところがある日、忽然とその薔薇の植木から姿を消したではないか。
ちょっと寂しい気がしたが、まあいいかと少しホッとしたとろもあって、
そのまま植木に水をやっていたら、「ゲゲッ」なんとあいつは何を思ったのか、
玄関脇に置いてある娘の自転車の買い物カゴの中にいるではないか。
これじゃあ娘が怖がって自転車に乗れないではないか、「オイそんなとで
何やってんだ」と声をかけると、ゆっくりこちらに首をまわしてわたしを見た。
それがなんとなく可愛らしかったのだが、「まあこの際だ、あいつとおさらばするか」と
背中をつまんでちょっと離れた草むらに「アバヨお前はもう自由だ」と、
一声かけて放してやった。
それっきりさすがにヤツはあの薔薇の植木から姿を消したのだ。
あれから約2ヶ月経って、ヤツのことなどすっかり忘れていたのだが、きのう
「エーッ」と驚いた。あいつがまたあの薔薇の植木の上にいたのである。
実際にそのカマキリがあいつかどうかはわからないのだが、わたしはヤツと確信した。
翅がすっかり茶色の枯れ草色になって威風堂々とオオカマキリに
なっていたのである。
わたしは思わず声をかけた、「おかえり!」。