一体どのくらいの確率なのか。わたしが遭遇した鬼ヤンマの運命劇は…。
まず目の前にめったに見ない鬼ヤンマが突然現れたこと。
それが電車の架線に止まったこと。
実は前回の「悲しきカンガルー」の記事にはまだ続きがあって、豊川から
悄然として帰ろうと電車に乗り、特急に乗り換えるべくホームで待っていた
時に起こった出来事なのだ。
何をどう迷ったのか突然1匹のヤンマがホーム上空に現れ、わたしの目の前の
電車が行き来する架線に止まったのである。止まるといっても大きなヤンマは、
架線に掴まって翅をひらきダラリとぶら下がったのである。わたしはホームの
線路際まで近づきジッと見ると、体には黒と黄色の斜めの縞がくっきり入った
間違いなく鬼ヤンマである。
いま鬼ヤンマに出会うことすら稀有な確率なのに、それが目の前の架線に
ぶら下がり、恐るべき命運劇を待っていたのだ。そのままではやってきた電車の
犠牲になるのは火を見るより明らかである。
その内にアナウンスが流れ、反対車線の電車がやってきた。鬼ヤンマが
止まっている隣の架線をこすりつつ電車が轟音を響かせて走り抜けてゆく。
鬼ヤンマは微動だにせずにぶら下がったままだった。「バカヤロー逃げろよ」
わたしは鬼ヤンマをなじった。昆虫の中でも特に鬼ヤンマは好きなのだ。
やがて又アナウンスが流れ、ついに鬼ヤンマがぶら下がっている架線に
特急の通過電車がやってくるのだ。
わたしは鬼ヤンマに向って「オーイ!逃げろー」「オーイ!」と両手を振って
知らせようとやっきになって叫んだが、知らん顔である。近くにいた人たちは
「なんだこのオヤジ」と思ったに違いないのだが、そんなのかまっていられない、
大好きな鬼ヤンマの危機なのだ。
そしてとうとう特急電車がやってきた。もはやなすすべもなく見ていると、
さすがに掴まっている架線が振動するのか鬼ヤンマがパッと架線から
手を離したのである。「オッ!」と、わたしが声を出したその瞬間、
「ガーッ」という轟音と共に電車が走り抜けて行った。
遅かった…。もっと早く手を離して飛び去っていれば…。なにせ特急電車である。
電車が去った後に鬼ヤンマの残骸でも拾ってやろうと架線の下あたりから
ホームにかけて探してみたが、その欠けらも気配すらもなかった。
ただかすかな電車の過ぎ去る音の余韻と静寂が広がるのみだった。
だーれもこの惨劇には気づいていなかったのである。わたしはその残骸の
欠けらも拾わなかったことで、もしや…あのまま運よく…夏の青空に広がる
もくもくとした雲の上を見つめた。
まず目の前にめったに見ない鬼ヤンマが突然現れたこと。
それが電車の架線に止まったこと。
実は前回の「悲しきカンガルー」の記事にはまだ続きがあって、豊川から
悄然として帰ろうと電車に乗り、特急に乗り換えるべくホームで待っていた
時に起こった出来事なのだ。
何をどう迷ったのか突然1匹のヤンマがホーム上空に現れ、わたしの目の前の
電車が行き来する架線に止まったのである。止まるといっても大きなヤンマは、
架線に掴まって翅をひらきダラリとぶら下がったのである。わたしはホームの
線路際まで近づきジッと見ると、体には黒と黄色の斜めの縞がくっきり入った
間違いなく鬼ヤンマである。
いま鬼ヤンマに出会うことすら稀有な確率なのに、それが目の前の架線に
ぶら下がり、恐るべき命運劇を待っていたのだ。そのままではやってきた電車の
犠牲になるのは火を見るより明らかである。
その内にアナウンスが流れ、反対車線の電車がやってきた。鬼ヤンマが
止まっている隣の架線をこすりつつ電車が轟音を響かせて走り抜けてゆく。
鬼ヤンマは微動だにせずにぶら下がったままだった。「バカヤロー逃げろよ」
わたしは鬼ヤンマをなじった。昆虫の中でも特に鬼ヤンマは好きなのだ。
やがて又アナウンスが流れ、ついに鬼ヤンマがぶら下がっている架線に
特急の通過電車がやってくるのだ。
わたしは鬼ヤンマに向って「オーイ!逃げろー」「オーイ!」と両手を振って
知らせようとやっきになって叫んだが、知らん顔である。近くにいた人たちは
「なんだこのオヤジ」と思ったに違いないのだが、そんなのかまっていられない、
大好きな鬼ヤンマの危機なのだ。
そしてとうとう特急電車がやってきた。もはやなすすべもなく見ていると、
さすがに掴まっている架線が振動するのか鬼ヤンマがパッと架線から
手を離したのである。「オッ!」と、わたしが声を出したその瞬間、
「ガーッ」という轟音と共に電車が走り抜けて行った。
遅かった…。もっと早く手を離して飛び去っていれば…。なにせ特急電車である。
電車が去った後に鬼ヤンマの残骸でも拾ってやろうと架線の下あたりから
ホームにかけて探してみたが、その欠けらも気配すらもなかった。
ただかすかな電車の過ぎ去る音の余韻と静寂が広がるのみだった。
だーれもこの惨劇には気づいていなかったのである。わたしはその残骸の
欠けらも拾わなかったことで、もしや…あのまま運よく…夏の青空に広がる
もくもくとした雲の上を見つめた。