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ぽかぽか春庭「先行保有者優先の法則」

2017-04-16 11:30:02 | エッセイ、コラム
20170416  
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>春の辞書(3)先行保有者優先の法則

 各出版社が発行している出版情報誌。岩波書店「図書」講談社「本」 新潮社「波」集英社「青春と読書」は、割合に手に入りやすく、 朝日新聞社「一冊の本」 角川書店「本の旅人」文藝春秋「本の話」筑摩書房「ちくま」小学館「本の窓」は、タイミングが合えばもらえる。春秋社「春秋」未来社「未来」有斐閣「書斎の窓」は、ほかにもらえるものがないときに、本屋にあればもらう。

「タダ」と「無料」が好きなので、大型本屋に行くと、これらの図書情報誌をもらってきます。薄くて軽いし、私がよく失敗する「コーヒーボトルのふたをちゃんと閉めていなかったために、カバンの中にコーヒーがこぼれて、本が茶色に染まる」という失敗をしても、無料の本なら、またもらおう、とあきらめられる。薄くて軽いし、通勤読書には最適です。

 普段読む機会が少ないジャンルの本について、著者が熱く語っていたり、対談があったり、販促本といえども読み応えがあります。一冊百円なのだから、定期購読しても年間で1200円程度ですが、なぜかお金を出さないで読めるところがありがたい。貧乏読書のお助け本。いつもは読まないジャンル本の著者や、最近はさっぱり読んでいない著者に出会えます。

 講談社「本」の2月号。昔はよく読んだけれど、最近はほとんど読んでいない社会学の大沢真幸の文章を久しぶりに読みました。「社会性の起源」という連載の第38回。「食をめぐる葛藤の弁証法的解決」というタイトルです。

 私が子供のころから不思議に思っていた「人間行動の不思議」が、さらっと解決。そうか、人間って、そうなんだ、とわかって、スッキリです。
 社会学や霊長類学を学んだ人にとっては、基本中の基本の用語みたいですけれど、私はこの年になるまで知らず、初めて知って脳細胞活性化されました。

 昔。駅前のパチンコ屋の前を通ったとき。早朝から開店を待つ行列ができていました。ある人が、並んでいる順番を離れてトイレに行きたくなりました。するとその人は読んでいた新聞を一枚そこに敷いて前後の人に「オレ、またここに来るから」と声をかけてその場所を離れました。おそらくは初めて出会ったのであろう行列の前後の人たちは、その新聞紙を見て納得し、新聞の主がその場にいなくなったのに、行列を詰めたりすることなく、新聞紙の場所を「だれかがそこにいる」ものとして扱っていました。
 私はこれを見て、「新聞一枚で場所を確保できるのはなぜかなあ」と、子供心に不思議に思っていたのです。

 今も、花見や花火大会の時、ビニールシートなどで場所の確保をする人々がいます。ビニールシートや新聞紙などを広げ、ある一定の場所を「ここは私たちの領分です」と、示しておくと、たとえ、そこに人がいなくても、あとから来た人は、そのシートをどかして自分たちのシートを広げることをしない、という光景を見て、「だれもいないのに、どうしてビニールシート一枚敷いてあるだけで、そこの場所は、ビニールシートを敷いた人のものになるのだろう」と、疑問に思っていました。法律で決められているのでもないのに、このたった一枚のビニールシートは、「確固たる占有」を示していました。

 人間と共通の祖先を持つ猿のうち、たとえば、ニホンザルの場合。群の優先順位が決まっていて、ボス猿が最初にエサを手にすることが多い。しかし、もし下位の赤ちゃんザルであっても、一度エサを手にすれば、それをボス猿が無理矢理奪い取ることはしない。エサは、最初に手にしたものが口に運ぶ権利を有するからです。
 「先行保有者優先の法則」が類人猿の暮らしの法則です。
 ただし、ニホンザルらは、親子兄弟であっても、「食事を共にする」ことはない。それぞれが手に入れたエサを互いに背を向けるようにして個々に食べる。

 と、書かれた霊長類の食事についての説明を読み「先行保有者優先の法則」という霊長類の原則を知って、「そうだったのか」と納得がいきました。
 子供の頃からずっと不思議に思っていたこと「最初にビニールシートを敷いた人がその場所を占有できる」の理由があったのです。

 霊長類の食事の仕方で、他とことなるのは類人猿です。たとえば、ゴリラの家族は、向かい合い目と目を見合わせ、食べ物を分かちあいながら食べます。ヒトも、狩猟民族などは、獲物の肉を狩猟した者が先に食べてしまうことはなく、必ずいっしょに暮らす者たち全員と分かち合います。家族仲間で共に分かち合うこと、これが類人猿の特徴。

 人が社会を構成するにあたって、「仲間と分かち合う」ことが類人猿の大切な「暮らし方」であるけれど、「他者と競い合う場では、『先行保有者優先の法則』を担保する」

 「先行保有者優先の法則」という霊長類が保持してきた原則が、「花見のビニールシートによる場所取り」なのか、とわかって、スッキリしました。

 コンビニでもどこでも食べるものは手に入るようになって、孤食を厭わない若者も増えているそうです。が、やはり類人猿は仲間と顔を見合わせ、分かち合って食べるのが本来の暮らし方だなあと納得し、争いを少しでも減らすために「先行保有者優先の法則」という、原則を霊長類が持てたことが、群れの中で争いあうことを回避する知恵となり、より安定した食の確保によって霊長類の脳が発達してきたのだなあと、納得しました。

 無料本一冊で、霊長類の「先行保有者優先の法則」を知り、長年の疑問が解決できました。

<つづく>
コメント (6)
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