劇団昴公演「アルジャーノンに花束を」
20170702
ぽかぽか春庭日常茶飯事>2017十七音日記梅雨的花束(2)アルジャノンに花束を
友人のアコさん、「演劇を楽しむ視覚障害者の会」の活動を続けています。実家への帰省のおりは、大好きなお芝居を観るために東京によっていきます。
大塚駅前で待ち合わせ、えみちゃんといっしょにガイドヘルプをしました。えみちゃんはアコさんの友達(晴眼者)です。今回の観劇は六本木俳優座で上演される劇団昴の公演『アルジャーノンに花束を』です。
アコさんえみちゃんは、大塚のビジネスホテルに泊まりました。朝食付きではなかったので、チョコレートを少し食べただけでチェックアウトしたというので、早めにお昼ご飯にしたい、ということだったのですが、11時すぎに六本木に着いたあと、六本木ミッドタウンの中を、「ここは高い」などと言いながらうろうろ歩いて、名古屋コーチンの鳥料理店に決まったときは11時半。私はカツ丼と鳥蕎麦セット。アコさんは、親子丼鳥蕎麦セット。
開演時間の13時半まで、六本木アマンドの近くの喫茶店に入りました。私はタリーズコーヒーでいいよと言ったのですが、水戸在住のえみちゃんが「せっかく東京に来ているのだから、どこにでもあるチェーン店より東京にしかない喫茶店に入りたい」というので、ビルの6階にある珈琲茶館・集という喫茶店に入りました。
珈琲一杯980円だったので、日頃マックの100円コーヒーを飲んでいる身としては、「ひぇー、高い」と思いました。コーヒー豆は「ブラジル ミナスジェライス州セラード イエローブラジル豆を旬に摘み取った最高級品」という豆の説明がメニューの「今月のスペシャル」欄に書いてありました。えみちゃんは「東京じゃ,こういうコーヒーを出している」と,水戸の友達に知らせたいと,メニューの説明書もコーヒーカップも写真に撮っていました。
アコさんが「コーヒーカップはどんな柄?」とたずねたのでカップに描かれた花の模様の説明をしてカップを持ち上げてみたらウエストウェッジ製だったので、アコさんに、「こりゃ、私には普段使いが出来ないウエストウェッジ製だから、きっと980円にはコーヒーにカップ代も入っているんだよ」と解説。
「アルジャノンに花束を」は、13時半開場、14時開演です。私は今回飛び入り参加だったので、当日券を買うために13時に俳優座へ行きました。前売りで前列に席をとったアコさんたちとは離れた席ですが、当日券が買えました。
14時開演。劇団昴にとって、『アルジャノンに花束を』は、上演回数400回近くに上る、「ドル箱台本」で、主役のチャーリー役は、若手男優のあこがれの役なのだそうです。今回のチャーリィ・ゴードン役は、町屋圭祐。富良野塾22期生。2010年にJOKO演劇学校卒業後、劇団昴に準劇団員として入団。劇団員に昇格後、順調にキャリアを積んできました。
・アリス・キニアン/槙乃萌美
・ストラウス博士/ 宮本充
・ニーマー教授/ 金子由之
・フェイ・リルマン/望月真理子
他
『アルジャーノンに花束を』。
私は、1968年制作の映画『まごころを君に』を70年代に見て、その後、テレビで放映されるたびに見ています。70年代の映画関係者は「アルジャーノンに花束を」というタイトルじゃ客を呼べないと考えたのでしょうけれど,今ではテレビ放映するときも「まごころを君に」だけじゃ,視聴率取れません。ちゃんとアルジャーノンという名前を出さないと。おそらく,世界でミッキーマウスの次に有名なネズミの名前です。
テレビで翻案された山ピー主演のドラマも見ました。でも、ダニエル・キイスの原作を読んだことがありません。アコさんは、何度も昴の上演を見ているし、原作も読んでいます。
舞台は、簡素な装置。背面にドア。下手に窓と隣の部屋に通じる踊り場と外階段。カーテンでの舞台変換のほかは、ベッドやテーブル、床屋の椅子などが、出し入れされて場面を表します。
2015年春に放送された山下智久主演のテレビドラマを見て、昴のお芝居にやってきた母子がうしろの席にいて、間の休憩時間にドラマと異なるところをあれこれ言い合っていました。ドラマでは,原作のパン屋が花の配送センターに変わるなど、違っていました。
私は娘息子と全10回のテレビドラマを見て、よく出来た脚本と思いましたが、最初の何話かは「馬鹿なふりをしているだけの山ピー」にちょっといらつきました。天才チャーリーのところは良かったし,最後のところはもう山ピーに感情移入しているので,下手だとも思いませんでしたけれど。
町屋圭祐は、前半の無邪気で素直なチャーリーと最後の退行したチャーリーと、手術後の天才チャーリーが自然な感じに演じ分けられていて、とてもよかったです。
原作は、チャーリー自身の報告書によって物語がすすんでいきますが、舞台は小さい録音機にチャーリーが報告を吹き込む、ということになっています。
原作のタイトルにもなっているラストの一文も、舞台に残された録音機にチャーリーが吹き込んだアリスへの伝言として残されます。
「どーかついでにあったらうらにわのアルジャーノンのおはかに花たばをそなえてください」
この最後の一文こそ,タイトルの所以なのでしょうけれど,テレビドラマでは,山の中におはかが作られたので,ついでに花を供えてください,というチャーリーのせいいっぱいの願いが遠くなりました。
チャーリーの「心の友」であった、ねずみのアルジャーノン。高い知能を得たものの、豊かな感情を伴わない知能は、結局アルジャーノンもチャーリーも幸福にしなかった。でも、チャーリーが心に得たものは、最後の一文にあらわれています。
ラストシーン,三百人劇場のときの演出ではできなかった演出かな,と思うところがありました。舞台背面の全面に雨が降ったのです。水を使う演出では,「水族館劇場」がピカイチだと思いますが,昴の演出も,チャーリーの涙を感じてよかったです。
舞台終了後、演出家と役者によるアフタートークショウがありました。脚色&演出の菊池准さんのお話を聞きたくて、私も客席に残って聞きました。装置も初演のときとほとんど変わっていないそうです。20年前の初演と,今回の公演の間に,昴直属の演出家による公演もあったのだけれど,今回は,初演と同じ菊池さんの演出で見ることができてよかったです。
トークショウ終了後、ストラウス博士役の宮本充さんと写真をとってもらいました。
劇場の外は雨。おお,ラストシーンの雨にあわせて降ったのかな,と思いました。
「雨が強くならないうちに」と思って,「終演後のお茶」を省略して知人宅に泊まるというアコさんを赤羽駅まで送リ,タクシーに案内しました。
雨の日の観劇。心の中のアルジャーノンに、あじさいを花束にして供えました。
<つづく>