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ぽかぽか春庭「映画しゃぼん玉」

2017-08-22 00:00:01 | エッセイ、コラム
20170822
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>家族映画・愛という名の(1)映画しゃぼん玉

 夏休み、映画館へ行ったり(いつもの飯田橋ギンレイホールですが)、撮りためておいた映画放映の録画を見たり、遠出の避暑などはできない夏休みながら、少しは心あそばせる空間を楽しみました。

「シャボン玉」 原作:乃南アサ 監督:東伸児 主演:市原悦子 林遣都
 ギンレイの予告編を見て、「都会の青年が、偶然辺鄙な田舎に行く。都会生活で疲れ汚れた心が洗われ、「よい人」に生まれ変わる」、そういう「心あったか系」なのかと思って本編を見ました。半分は予想通りの展開でしたが、予想と違ったのは、思った以上に「辺鄙な田舎」の景色が心に染みたこと。

 思いがけなかったことが、もうひとつ。最後のエンドクレジットに出てくる出演協力者や撮影協力者の名字、多くが「椎葉」と「那須」であったこと。同じ名字、親戚知り合い同士が住む村なのだろうなあと思いました。

 椎葉村の人口は、2,704人だそうです。平成大合併で「村」が少なくなっていますが、それは「村」が存続していくのが難しいということ。村のままで生き残っているのは、独立してやっていける経済基盤が村にあるということです。

 椎葉村は存続している「村」の中では5番目の面積を持っています。しかし、ほとんどは、九州山地中央部の標高1000~1700m級の山々に囲まれて耳川・十根川の谷。日本初の大規模アーチダムである上椎葉ダム、という環境で、可住面積は村域の4%。
 しかしながら、飛騨の白川郷、四国徳島のの祖谷とともに「日本三大秘境」として知られ、私も椎葉村の名は知っていました。ただし、「しいばむら」じゃなくて、「しいばそん」であるってのは知りませんでした。

 乃南アサは、椎葉村を訪れて、「しゃぼん玉」を書き上げました。主役は、すえ婆を演じた市原悦子と都会から逃れてきた林遣都なのですが、椎葉村の段々畑の景色や霧に包まれる村のたたずまい、平家祭りのようすなどが第二の主役といえます。以下、ネタバレ含む「しゃぼん玉」の紹介です。
 伊豆見翔人(林遣都)は、親の愛を知らずに育ち、通り魔や強盗傷害を繰り返すうち、「ナイフで脅してもっと簡単に金をとろう」と思います。しかし、脅すにとどまらず、実際に人を刺してしまいます。ヒッチハイクで逃げるイズミは、トラックの運転手に嫌われ、山の中に置き去りにされます。どこともわからない山奥。

 そこでうめき声を聞いたイズミ。バイクの事故で動けなくなっている老婆を助けます。
 老婆スマは、イズミを「命の恩人」として、面倒を見ます。

 おスマ婆の家の玄関には飼い犬の「ごん」がいますが、これがタレント犬ではなくて、地元の人の飼い犬だそうで。いわば、シロート犬。柴犬チョコが、とてもよい味を出しているました。

 もうひとつ、画面で「いい味」なのが、おスマ婆が作ったり、近所のおばちゃんたちが持ち寄る郷土料理。ほんとうにおいしそう。素朴な、地元に人にとってみればなんでもない椎茸やイモや、地元の食材が並ぶ食卓、食べてみたくなりました。

 ただ1点、「田舎の好かんとこ」がありました。イズミの心に大きな影響を持つ都会帰りの美和(藤井美菜)。10年ぶりに村に帰ってきた美知が、なぜ帰ってきたのか、村中が知っているってこと。「大きい声じゃ言えないけれど、通り魔にあったんだって」と、小さい声で村中が話している。村の人は温かい気持ちで美和を迎え入れているのだろうけれど、私なら、だれがどうしたかを村中が知っているところへ帰りたくならないだろうな。

 おスマの息子(相島一之)が、都会に出ていったのも、そういう田舎の息苦しさから逃れたい、ということもあったでしょうし、おスマも一度は息子のそういう気持ちが理解できたから都会へ出したのでしょう。都会ですさむ息子におスマは「都会に出たいというのを許したのは親のまちがいだった」と謝るのです。息子は別れ際に「達者でな」の一言も言わないのに。

 おスマ婆は、素性わからぬイズミを「坊は、ええ子じゃ」と、迎え入れる。最初は「金とって逃げよう」と思っていたイズミでしたが、冷蔵庫の中の「隠し金」を手にするも、それがおスマ婆に残されたなけなしのお金であることを理解します。。村の人々は、イズミを「都会に出て行ったおスマの息子の子」と思って受け入れます。近所のシゲ爺の山仕事を手伝ったり、平家祭りの準備に加わり、イズミは変わっていきます。

 林遣都、NHK朝ドラ「べっぴんさん」のドラマー役もよかったけれど、なんといっても、「バッテリー」から10年見つづけて、成長ぶりがうれしい。
 でも、「都会暮らしをしていたのなら、こんなイケメンは、ひったくり犯なんぞやる前にスカウトされちゃうよな」という気もしないではない。もし、イズミがテレビドラマの凶悪な犯人みたいな人相だったら、「坊はええ子じゃ」と言ってもらえたかしら、と思うのは、容貌差別になるんだろうな。

 椎葉村村民のブログを見ると、「『しゃぼん玉』村内試写会の様子」だとか、わかります。旅番組で把瑠都も村を訪れたのだとか。

 小説のタイトル「しゃぼん玉」を変えずにそのまま映画のタイトルにしたのだから、一度くらいはシャボン玉が飛ぶシーンがあるのかとおもったのですが、最後までシャボン玉はでてきませんでした。シャボン玉、「一回り半」みたのですが。

 家族を描くのは、映画の永遠のテーマ。小津の「東京物語」山田洋次「家族」など、家族映画わんさかとあるなかで、私の心に残っている家族は、マルチェロ・マストロヤンにとジャック・ペランとおばあさんの小さな家族を描いたイタリア映画「家族日誌」
 1962年制作1964年日本公開ですが、私が見たのは1970年以降。ストーリーも忘れているのに、その哀しみと慈しみに充ちた家族愛がずっと心に残っています。

 おスマ婆とイズミは、血のつながりがない「家族」です。でも、心のつながりで家族は成り立ちます。

<つづく>
コメント (4)
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