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ぽかぽか春庭「愚行録」

2017-08-24 00:00:01 | エッセイ、コラム
20170823
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>家族映画、愛という名の(2)愚行録

 飯田橋ギンレイホールで8月6日に見た「愚行録」。「シャボン玉」と併映でした。
 ほんとうは「沈黙」と併映だったはずが、出演した小出恵介のリアル愚行のために、先延ばしになっていました。6月中には、不祥事の相手女性と示談が成立して、まあ、いいだろうってことで上映決定。

 我が家は、NHKドラマ「スリル」録画をこの夏に見ていましたから、「小出恵介不在感」はなしですが、無期限活動停止は、どのくらい続くのでしょう。これまで「いい人」の役が多かったから、ダメージ大きいんでしょうね。
 週刊誌で報道されたときは、17歳の未成年女性に飲酒と「不適切な関係」を強要した、ということでしたが、女性本人とその母親が、インスタグラムで、「イケメン俳優と関係を持った」ということを自慢していたことやら、喫煙写真を投稿していたため、ネットでは「小出恵介はハニートラップにひっかかった」ということになっているみたいです。

 リアルな愚行、ミーハー芸能界ウォッチャーとしては面白いんだけれど、相手女性の素性やら素行やらがつぎつぎに暴かれていくのを見ていると、17歳の愚行の代償は大きいのでは、と、人ごとながら心配。なによりも17歳で一児の母親なんですから、通信高校を退学したという今では、子育てをしっかりとしてほしいです。育児放棄などにはなりませんように。
 小出恵介の愚行のあと始末、まだしばらくはかかりそう。

「愚行録」原作:貫井徳郎 脚本:向井康介 監督:石川慶 出演:妻夫木聡 満島ひかり 
 以下、ネタバレを含む感想です。

 映画冒頭に乗り合いバスが出てきます。乗客の顔のひとつひとつ。それぞれがひとつひとつの人生を抱え、たまたま乗り合わせたバスにいる。
 脚本オリジナルのシーン。主人公の週刊誌記者(社員ではなく、契約記者?)田中武志がバスの座席に座っている。つり革に捕まっているサラリーマン風の男が、義侠心を起こしたのか、田中に「隣に立つ高齢女性に席を替わるよう命じます。田中はしぶしぶながらも立ち上がり、席を譲る。バスの前方出口に向かう田中は足をひきずっており、車内で派手に転びます。席を替わるように命じたサラリーマンは、身体に障害を持つ人に過酷な命令を出したことになり、ばつの悪い思いをします。
 よろよろとバスを降りた田中。足を引きずりながら進みますが、バスが立ち去ったのを確認するとスタスタ進んでいきます。足の障害は演技でした。

 この冒頭シーンで田中武志の性悪な性格もわかるし、「高齢者に席を譲れ」と命じる一見親切そうな行為も、健康に見えた若者が、実は足の悪い人だったことが見えていなかった一方的な偽善になることを示唆して、人間の本性はどんでん返しの連続であることも暗示していてとてもいい付け足しだと思います。
 タイトルの「愚行」、愚かな人間の愚かな行動録。

 1年前におきたまま未解決になっている「エリートサラリーマン一家、親子3人惨殺事件」の再取材をデスクに申し入れる田中武志。しぶるデスクに、上司は「田中は、妹が育児放棄で逮捕されているので、心を他のことに向けたいのだ」と、理解を示し取材を許可します。妹光子はシングルマザーで女の子と暮らしていましたが、子の世話を放棄し、衰弱させてしまいました。「ちょっと育児が下手だっただけ」という光子は、精神鑑定を受けることになります。国選らしい女性弁護士は、武志がもらした「光子は父親から性的虐待を受けていた」という告白を信じて、光子の子は父親からの暴力の結果なのではないかと疑っています。

 田中の取材が進展すると、エリートサラリーマンと美人妻の理想的家族と見えた田向(たこう)夫妻。実は、学生時代は別の面を持っていたことが判明します。
 一見真面目そうな田向浩樹(小出恵介)は、女性を利用し、他者を不幸にしても自分に有利な状態を作り出す男でした。
 妻の友季恵は、清楚で明るいだれからも讃仰される美人。しかし、学生時代の友季恵には、別の一面がありました。したたかで計算高く、自分の幸福をつかむためには他者を陥れることも平気な人であったことが、田中からインタビューを申し込まれた同級生や知人の証言でわかっていきます。

 とてもリアルで、身につまされることのひとつが「キャンパス・カースト」
 文応大学(たぶん慶応大学がモデル)には、2種類の学生がいます。幼稚舎小学校からエスカレーターの内部進学組と、大学から入学の新参組。内部進学組は固い結束を持ち、大学から入学の人間を仲間と認めることはない。内部進学組は、親代々の「家柄」「資産」「社会的地位」がそろっている坊ちゃまお嬢ちゃま達です。大学入学組のような「一般庶民」を、上から目線で見下しています。

 外部出身の学生では、人あしらいの巧みな友季恵のような「特別な美人」が、ようやくその結束の中に入っていける。友季恵は、内部組の男子学生達に「ちょっとした気晴らし」を用意することを忘れてはいません。友季恵は、彼らに「公衆便所」として扱われる「まわせる女」を差し出すのです。友季恵の周囲には、大学進学組から「内部進学組」に「昇格」した友季恵にあこがれる女子大生達が取り巻いていましたから、その中のひとりを彼らの「おもちゃ」にすることなど朝飯前。ちょっとかわいい子なら、自分も友季恵のようになれるかも、と勘違いしてしっぽを振って「まわされる」だろうから。

 文応大学の坊ちゃんたちのようなコネクションを持たない稲大(たぶん早稲田大学がモデル)の田向浩樹は、ふたりの女子大生を手玉にとることでコネを作り出し、一流企業への足がかりを作ります。
 両者を知るカフェ経営者の宮村淳子はじめ、ふたりの学生時代を知る友人知人たちは、次々に田向夫妻の仮面を剥がしていきます。

 田中武志が追う一家惨殺事件と田中光子の育児放棄事件は、最初はバラバラに展開していますが、カフェのオーナー宮村淳子が「あとで思い出したんだけど」と付け足すことで、結びついていきます。宮村は「田向友季恵に強い恨みを持つ同級生を思い出した」と武志に告げ、ブラックカードを引き寄せます。

 映画のキャッチコピーでは「三つの衝撃」が観客に用意されているという。一家殺人事件の真犯人。真犯人に気づいてしまった同級生の運命。光子が育児放棄をした赤ん坊の父親。
 最終シーンでこれらの三つが結びつくと、観客は「イヤミス(嫌な気分になるミステリー)」を味わうことになります。

 田中武志。妻夫木聡が演じるのですから、一見いい人風。しかし、武志が決して「よい人」だけでないことは、冒頭のバスシーンで示されています。このシーンがなかったら、単純な私は、イケメン妻夫木を「妹を案じるやさしい兄」だと信じてしまう。そう、妹を案じることにかけては、人一倍の兄なのだ。
 精神が壊れてしまっているような、アンバランスな妹光子。満島ひかりの演技、純粋さと狂気の狭間にいる悲しい女性を見事に演じていました。
 父親に虐待を受け、母親には見捨てられた兄妹。兄と妹のふたり家族愛の末がこの結果。
 身内によってつらい思いを抱えていく家族も世の中にはたくさんいるんだろうなあ。

 小出恵介の愚行だけでなく、世の中愚行だらけです。「また、バカやっちゃった」と笑い話にできる程度の愚行もあるし、他者を不幸にする愚行、人間存在を深い闇に落とす愚行もあります。
 そんな愚行の積み重ねで世の中は成り立っているのでしょう。

 私もまた、愚者のひとりです。
 とは言っても、電車の中シルバーシートに大股広げて座って、ケータイゲームに没頭するワカゾーに文句の一言も言えずに、じっとにらみつけるだけのバーサン。心の中では「バカモンがあ。この白髪が目に入らぬかあ」と叫んでいるんですけれど。たまに気の弱そうなワカゾーのとき、白髪ババの目力に押されて、席を譲ってもらえることも。あはは、よほど鬼の形相してたんでしょうなあ。そこの気弱な君、婆さんに席ゆずっておけば、きっといいことあるから。

 いずれにせよ、くれぐれも愚行にはご注意を。あ、とりあえず、なにをなにするときは、相手が20歳以上であることを確認しておこうか。

<つづく>
コメント (6)
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