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ぽかぽか春庭「フロリダ・プロジェクト真夏の魔法」

2018-10-07 00:00:01 | エッセイ、コラム


20181007
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>事実と真実(3)フロリダ・プロジェクト真夏の魔法

 「フロリダ・プロジェクト真夏の魔法」は、2017年のショーン・ベイカー監督作品。ベイカーは、共同者はいるものの、本作の制作脚本編集監督を担当しました。残念ながら第90回アカデミー賞では、ウィレム・デフォーが助演男優賞にノミネートされたのみ。
 9月24日飯田橋ギンレイにて鑑賞。

 描写の事実説明としては、「アメリカ社会の中の貧困層の生活」これで済むのかも。
 「アメリカンドリームからこぼれ落ち、巨大資本主義の底辺をはい回る人々。ときにホームレスのように、教会のたきだしで食をみたし、子どもが高等教育を受ける機会は最初からない。生活は苦難の連続で、そこから何十年も抜け出せなくなっているという人々」を描いていいます。
 The Florida Projectとは、カルフォルニア州で成功したウォルトディズニーが、さらに大きな「夢の国」建設をフロリダ州でめざしたときの、社内での呼び名です。

 仕事を失い、その日暮らしを続ける母ヘイリー(ブリア・ビネイト)(と、6歳の娘ムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)。定住の家もなく、安モーテルの一室に住んでいます。カラフルなモーテルや土産物やが立ち並んでいるフロリダディズニーランドの近く。「夢の国」のすぐ裏側で繰り広げられる生活を、ムーニーの目を通して描いています。「貧困から抜け出せないダメ母との暮らし」という事実と、「子どもの目にうつる真実」。

 以下、ネタバレ含む紹介です。

 アメリカは世界一豊かな国、と世界中の人が思っています。豊かな国の夢の象徴がディズニーランド。夢の国です。

 GNP国民総生産の世界1位は当然アメリカ。2位は中国、3位はニッポン。しかし、国民一人当たりの年収( GDP÷人口=一人当たりのGDP)になると話が違ってきます。
 1位ルクセンブルグ、2位スイス、4位のマカオはテラ銭収入でしょうが、4位5位6位欧州勢で、アメリカはようよう8位。日本25位、中国にいたっては、74位。14億人の人口の中、10億人は飢えスレスレの生活です。

 アメリカの8位というのも、平均すればそうなるということで、実際には、上位の500家族がアメリカGNPの半分以上を独占しているのだそうです。(トランプ一族もこの500ファミリーにふくまれているのでしょうね)3億人が残されたパイを奪い合う
 アメリカ経済は、大企業への減税、福祉削減というカンフル剤で、ようやく世界一の経済大国のメンツを保っているのです。

 低所得者向けの住宅ローンサブプライムの破綻が話題になったことは記憶に新しい。アメリカのプライム層(貸付金が確実に返済できる上位層)につぐ、とされたサブプライム層(プライム層よりは年収が少ないが、中の下、下の上くらいまで)という層に貸し付けられた住宅ローンが不況によって焦げ付き、多くの中間層、中流、下流の人々は、ローン破綻によって住宅を失う人が続出しました。
 アメリカには、個人が成り上がる自由はあっても、「なり下がった」人々を救済する方法はありません。

 フロリダ州ディズニーリゾートには、ひとときの夢の国を楽しもうとする「4つで1700ドル」のチケットを買える層が押し寄せる。そして、その外側一帯には、夢の国のおこぼれにありつこうとして建てられた安ギフトショップや安モーテルが立ち並んでいます。
 ヘイリーが娘ムーニーの手をひいてとぼとぼ歩く道は、「七人の小人通り」

 モーテルは、「魔法の城マジックキャッスル」やら「未来世界フューチャーワールド」などといったディズニーっぽいネーミングをもっており、ピンクやパープルのカラフルな色彩をほどこしてあります。(いかにも夢の国の亜流の感じがするとっても俗っぽい色だけれど)
 名前はディズニーっぽいけれど、友人が間違って予約してしまったという新婚さんの若い妻が「こんなところ泊まりたくない」と、泣き出すような環境のモーテルです。

モーテルマジックキャッスルと管理人ボビー


 住まいを失った人々は、そんなモーテルをすみかとしています。ホームレス一歩手前。
 一晩38ドルの料金を払っても、モーテルは一定の期間がすぎると退去を命じられます。あくまでも宿泊客であって居住することは認められていないのです。

 モーテルの一室でぐうたらとすごすヘイリーと、なにかしらおもしろいことをみいだそうとしているムーニー。


 ヘイリーは、10代で娘を生んだ若い母親。娘への愛情は持っているけれど、ニート(学歴なし、職業訓練なし)の状態では、安定した職業にはつけませんでした。前の仕事を首になってからは、偽香水を売り歩いたりしてかつかつの生活を送っています。モーテル代を管理人のボビーに取り立てられても、払うすべなし。

 ヘイリーの娘ムーニーにとって、モーテル周辺はすべて遊び場。ムーニーのいたずらの数々は、活力にあふれ、冒険に満ちています。



 しかし、空き家の暖炉に火をつけて遊んだいたずらは、ムーニーをしだいに現実のつらい生活に追い立てる結果となっていきます。
 ムーニーの仲良しだった男の子スク―ティは、母親によってムーニーと遊ぶことを禁じられ、助け合ってきた母親同士も仲たがい。

 それでも、ムーニーは、おばあちゃんと隣のモーテルに越してきた女の子ジャンシー(ヴァレリア・コット)と冒険を続けます。「サファリへ行こう」と、近所の放牧地で牛を見るのも冒険のひとつ。
 カメラは、ムーニーの目線に設定されているので、大人たちは見上げるカメラワークでとらえられています。

 ヘイリーは偽香水の販売も「敷地内で商売するな」と禁じられ、ついに最後の職業に手を染めます。大音量を響かせて部屋の音が届かないようにしたバスルームで、ムーニーおふろ遊びをしている間に、できる仕事。

 管理人ボビー(ウィレム・デフォー)は、オーナーの指示通りしっかりと管理を実践していますが、ヘイリーとムーニーにはそれとなく気遣いをみせてくれます。小児愛好者っぽいじいさんが子供たちに近づいたときも、敢然と追い払います。



 しかし、ヘイリーをよく思わない誰かからの通報で、警察と「児童家庭局」の役人がモーテルの323室にやってきます。母から引き離されることを察したムーニーは、役人を振り払って走り出します。走っていくその先は、、、、。



 天才子役ブルックリン・キンバリー・プリンスがこれからどう成長していくのか、という楽しみもできました。多くの天才子役が大人になるまでにポシャルのですが、ブルックリンちゃん、育ってほしい。

 この子役も含めて、私は第90回アカデミー賞にさまざまな賞でノミネートされた作品の中で(私が見たものの中で)、いちばん好きかも。

 飯田橋ギンレイで同時上映の『君の名前で僕を呼んで』は、作品賞ノミネートされていましたが、悪いが途中で何回か眠ってしまった。アメリカのフツーの人々にとっては、このゲイカップルの恋が美しく新鮮に見えたのかもしれないけれど、、、、日本にある数々のボーイズラブの漫画作品をアメリカ人に読ませてあげたい。

 「君の名前~」の監督は、「主演ふたりは、契約上全裸になってもいけないし、性交シーンをとるのも禁止だったから」と言い訳しているが、そういう俳優は使わなければいいんであって。
 ファッションの仕事をしていたブリア・ビネイトをインスタグラムから見つけ出し、ヘイリー役に起用したショーン・ベイカーに一票だね。

<つづく>
コメント (4)
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