20190518
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>樹木希林映画(1)あん
樹木希林が昨年亡くなり、別居しながらも不思議な夫婦の縁を結んでいた夫の内田裕也もあとを追うように亡くなりました。
昨年来、樹木希林へのコメントは山のようにでていましたから、特別に大ファンというのでもない私はことさらに感想も述べることはなかったのです。ただ、夫婦のありかたという面からいうと、世間に知られた夫婦関係のなかでは一番うちに近いかな、という感覚は持ってきました。いつもいっしょにいるわけではないけれど、、、、という。
ただ、モテモテの内田裕也には常に世話をしてくれる女性がそばにいて、樹木希林はその女性に感謝を忘れなかったということですが、残念ながら、非モテのタカ氏には世話をしてくれる人はいない。で、事務所は散らかり借り放題、服はよれより、ごはんはコンビニ弁当。でも当人は一人の気楽な生活を好んでいるのですから、それもよし。世の中には「家族の団欒」向きじゃない男性と、うっかり結婚してしまう人もいるってことで。
連休中に、樹木希林の映画を続けて見たので、前に見た『あん』を思い出しました。感想をメモしておこうと思います。
樹木希林が悠木千帆だったころ出演していた『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』や『ムー一族』などを見てこなかったのでわからないけれど、たぶん、はっちゃけたお婆さん役もすごかったと思います。30歳そこそこから老婆役をこなしていました。
私が樹木希林を「いいな」と思ったのは『夢千代日記(続・新も)』(1981~1984)の菊奴あたりからです。70年代のはっちゃけ老婆も見ておけばよかった。「ジュリー!!」と身もだえるのは、ギャグでみたことがあるだけ。
テレビドラマ『いとの森の家』で2016年に第42回放送文化基金・演技賞を受けたときの表情や歩き方、樹木希林の存在そのものが作品のテーマを体現していると感じました。
無縁死刑囚の遺骨引き受けを続ける一人暮らしの老女。アメリカ帰りで、日本の世間的な付き合いや価値観とは一歩距離をおいている。このお婆さん「おハルさん」には、実在のモデルがいたそうです。
世間が「悪いことしたから死刑になった人」を排除し、この世にないものとして扱うことへの、静かな思いが伝わってきました。昨年樹木希林が亡くなったあと追悼放送されたのを録画できなかったのが残念です。私が見たのは、ミャンマー赴任中のbs放送でしたから、録画できなかった。もう一度見たいドラマです。
数シーン出演の脇役でも存在感を示すことができた樹木希林ですが、主演作品はそう多くない。2007年に『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』で第31回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞。2013年に第36回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受けた『わが母の記』。2016年 第39回日本アカデミー賞優秀主演女優賞『あん』。
『あん』を見たのは、だいぶ前の放映です。もう一度見たいと思っていたけれど、これも追悼放映を取り損ねました。DVDもあるでしょうけれど。
『あん』の主人公徳江役、すばらしい演技でした。
「いとの森の家」のおハルさん役もそうですが、陰を含んだ役の表現が抜群にいいと思います。

原作:ドリアン助川 監督:河瀨直美 主演:樹木希林 2015年公開
第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門オープニング作品
以下、ネタバレ含む紹介です。
オーナー(浅田美代子)にやとわれた、どら焼き屋の店長千太郎(永瀬正敏)は、市販のあんを使ってやる気もなくどら焼きを焼いています。女子グループから無視されている中学生の女の子ワカナ(内田伽羅=樹木希林の孫)は、店をひいきにしてくれますが、いつもはたいして流行らず客足もまばら。刑務所帰りの彼にはほかに働く場所もないので、しがない店をだらだらと続けています。
働きたい、という徳江が店にやってきます。徳江が作る餡の味に驚いた仙太郎は、徳江を雇うことにして、餡作りをまかせます。餡の味が評判になり、店は大繁盛。しかし、あるうわさから客足は急激に遠のきました。
仕事を終えた徳江が帰っていく先は、元ハンセン病患者が老後を過ごすホームでした。ハンセン病は伝染病ではなく、治療法も確立していて久しいのに、過去の「頼病患者忌避」を変えようとしない世間の人々。
徳江は事態を知り、店に来なくなります。千太郎とワカナは徳江が暮らしていたホームを訪ねていき、徳江の友達佳子(市原悦子)に会って話を聞きます。
店をやめた後の徳江は、、、、
元ハンセン病患者の隔離政策はまちがったものだったし、本人に不同意で実施された障害者や疾病者への不妊手術について、現在訴訟が起こされています。首相は、「旧優生保護法を執行していた立場から、真摯に反省し、心から深くおわび申し上げます」と陳謝のことばを述べたけれど、人生を踏みにじられた人への救済、一時金320万円ですまされないと思います。
「このような事態を二度と繰り返さないよう、全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、政府としても最大限の努力を尽くす」ということば、ほんとうに実行してほしい。まだまだ障害のある人や疾病者への社会の目は厳しいです。
日常生活のなかで、まだまだゆえない差別が続いています。
私たちは、病気や障害によって差別されてきた人々とどう向き合い、どうかかわっていけばいいのか。それを声高にではなく、『あん』の画面は、桜の花の美しさや、雨上がりに木から湧き出る蒸気の生命感によって、河瀬監督は静かに描いていました。
樹木希林が立ち上る木の蒸気に寄り添って立つとき、その絵だけで、人間の尊厳を守ることも、それができてはいないことも訴えていたように思いました。
<つづく>
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>樹木希林映画(1)あん
樹木希林が昨年亡くなり、別居しながらも不思議な夫婦の縁を結んでいた夫の内田裕也もあとを追うように亡くなりました。
昨年来、樹木希林へのコメントは山のようにでていましたから、特別に大ファンというのでもない私はことさらに感想も述べることはなかったのです。ただ、夫婦のありかたという面からいうと、世間に知られた夫婦関係のなかでは一番うちに近いかな、という感覚は持ってきました。いつもいっしょにいるわけではないけれど、、、、という。
ただ、モテモテの内田裕也には常に世話をしてくれる女性がそばにいて、樹木希林はその女性に感謝を忘れなかったということですが、残念ながら、非モテのタカ氏には世話をしてくれる人はいない。で、事務所は散らかり借り放題、服はよれより、ごはんはコンビニ弁当。でも当人は一人の気楽な生活を好んでいるのですから、それもよし。世の中には「家族の団欒」向きじゃない男性と、うっかり結婚してしまう人もいるってことで。
連休中に、樹木希林の映画を続けて見たので、前に見た『あん』を思い出しました。感想をメモしておこうと思います。
樹木希林が悠木千帆だったころ出演していた『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』や『ムー一族』などを見てこなかったのでわからないけれど、たぶん、はっちゃけたお婆さん役もすごかったと思います。30歳そこそこから老婆役をこなしていました。
私が樹木希林を「いいな」と思ったのは『夢千代日記(続・新も)』(1981~1984)の菊奴あたりからです。70年代のはっちゃけ老婆も見ておけばよかった。「ジュリー!!」と身もだえるのは、ギャグでみたことがあるだけ。
テレビドラマ『いとの森の家』で2016年に第42回放送文化基金・演技賞を受けたときの表情や歩き方、樹木希林の存在そのものが作品のテーマを体現していると感じました。
無縁死刑囚の遺骨引き受けを続ける一人暮らしの老女。アメリカ帰りで、日本の世間的な付き合いや価値観とは一歩距離をおいている。このお婆さん「おハルさん」には、実在のモデルがいたそうです。
世間が「悪いことしたから死刑になった人」を排除し、この世にないものとして扱うことへの、静かな思いが伝わってきました。昨年樹木希林が亡くなったあと追悼放送されたのを録画できなかったのが残念です。私が見たのは、ミャンマー赴任中のbs放送でしたから、録画できなかった。もう一度見たいドラマです。
数シーン出演の脇役でも存在感を示すことができた樹木希林ですが、主演作品はそう多くない。2007年に『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』で第31回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞。2013年に第36回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受けた『わが母の記』。2016年 第39回日本アカデミー賞優秀主演女優賞『あん』。
『あん』を見たのは、だいぶ前の放映です。もう一度見たいと思っていたけれど、これも追悼放映を取り損ねました。DVDもあるでしょうけれど。
『あん』の主人公徳江役、すばらしい演技でした。
「いとの森の家」のおハルさん役もそうですが、陰を含んだ役の表現が抜群にいいと思います。

原作:ドリアン助川 監督:河瀨直美 主演:樹木希林 2015年公開
第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門オープニング作品
以下、ネタバレ含む紹介です。
オーナー(浅田美代子)にやとわれた、どら焼き屋の店長千太郎(永瀬正敏)は、市販のあんを使ってやる気もなくどら焼きを焼いています。女子グループから無視されている中学生の女の子ワカナ(内田伽羅=樹木希林の孫)は、店をひいきにしてくれますが、いつもはたいして流行らず客足もまばら。刑務所帰りの彼にはほかに働く場所もないので、しがない店をだらだらと続けています。
働きたい、という徳江が店にやってきます。徳江が作る餡の味に驚いた仙太郎は、徳江を雇うことにして、餡作りをまかせます。餡の味が評判になり、店は大繁盛。しかし、あるうわさから客足は急激に遠のきました。
仕事を終えた徳江が帰っていく先は、元ハンセン病患者が老後を過ごすホームでした。ハンセン病は伝染病ではなく、治療法も確立していて久しいのに、過去の「頼病患者忌避」を変えようとしない世間の人々。
徳江は事態を知り、店に来なくなります。千太郎とワカナは徳江が暮らしていたホームを訪ねていき、徳江の友達佳子(市原悦子)に会って話を聞きます。
店をやめた後の徳江は、、、、
元ハンセン病患者の隔離政策はまちがったものだったし、本人に不同意で実施された障害者や疾病者への不妊手術について、現在訴訟が起こされています。首相は、「旧優生保護法を執行していた立場から、真摯に反省し、心から深くおわび申し上げます」と陳謝のことばを述べたけれど、人生を踏みにじられた人への救済、一時金320万円ですまされないと思います。
「このような事態を二度と繰り返さないよう、全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、政府としても最大限の努力を尽くす」ということば、ほんとうに実行してほしい。まだまだ障害のある人や疾病者への社会の目は厳しいです。
日常生活のなかで、まだまだゆえない差別が続いています。
私たちは、病気や障害によって差別されてきた人々とどう向き合い、どうかかわっていけばいいのか。それを声高にではなく、『あん』の画面は、桜の花の美しさや、雨上がりに木から湧き出る蒸気の生命感によって、河瀬監督は静かに描いていました。
樹木希林が立ち上る木の蒸気に寄り添って立つとき、その絵だけで、人間の尊厳を守ることも、それができてはいないことも訴えていたように思いました。
<つづく>