20200407
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>春庭漢字話2020春(1)漢字学習中
中学校国語教師3年大学留学生の日本語教育を30年続けてきて、それなりに辞書を引く回数も多いので、雑誌新聞を読んでいて、「これは初めて読む漢字」にあまり出会わなくなりました。明治時代の漢文訓読式文体とか、専門用語でもないと、よほどの「難読漢字」クイズに出るもの以外、読めるようになっています。それでも、めったに使わない熟字訓などが出題されると読めなくて「ほほう、こんな難読熟字訓があったのか」と思うのですが、日常生活で使うことはないので、たいてい翌週のテレビクイズの時間までには忘れてしまいます。
難読クイズなどでなく、一般の文章を読んでいて、久しぶりに読めない漢字を見つけました。
「UP(東京大学編集2005年11月号)」の表紙裏に、日本造船史専門の先生が書いた文章の中です。帆船のイラストについての説明文です。
幕末の浦賀奉行所が1853年に起工し、1854年に竣工した「鳳凰丸」の解説に「三檣の洋式軍艦」と書かれていましたが、「檣」が読めなかったのです。帆船のイラストから、マストのことだと推察する。漢和辞典の木偏13画を引いてみると読みは漢音「しょう」呉音「ぞう」。三檣はさんしょう。意味は3本マスト。
「薔薇」の読みがバラのほか音読みで「ソウビ・ショウビ」であることから推察すれば「檣」はソウ・ショウであろうかと推察がついたはず。漢字の旁は音声を表すので。木偏がついた専門用語なので、なにか船関係の特別な読み方があるかと想像しましたが、旁の原則通り「檣」は「薔」と共通した読みでした。
さて、春庭が2000年から20年間続けてきた日本語教育研究のうち語彙論文字表記論復習として行っていたワークショップをご紹介しましょう。対象は日本語教師資格をとりたい日本人受講生です。「木偏の漢字思い出し」「サンズイの漢字思い出し」などの課題で頭に中に思い浮かぶ漢字を書いていく、というワークです。
日本語教育概論を受講する日本人大学生に、「日々、漢字に目に触れさせていることの重要性」を意識させるために、行ってきたワークショップです。
ワークその1.ふたりペアをつくり、A4の裏紙(コピー失敗紙の再利用)を渡します。紙を半分に折り、右側左側に交互に「木偏」の漢字を書いていく。相手が書いたのと同じ漢字を書くことはできない。5分たって、「やめ」の合図でペンえんぴつを置く。
ワークその2 書画カメラ(Elmo)で各ペアの漢字を映し、何文字書くことができたか確認。(書画カメラがない教室の場合。黒板またはホワイトボードに、紙に書いた字をペアで書き写す)漢字数を数えて、一番書けたペアに「漢字記憶賞」をあげる。
ワークその3 古新聞1枚ずつペアに渡す。それを半分に切って、右ページ左ページをそれぞれが眺め渡し、木偏がつく漢字を探し出し、さきほどのA4裏紙に続けて書いていく。文章を読んでいると速度が落ちるから、読まずに眺め、漢字だけを拾い出す。さきほどから何字増えたかを数える。
ワークその4 再度、書画カメラにペアの漢字を映し、新聞から何字拾い出すことができたか、数える。一番たくさん拾い出すことができたペアに「漢字探索賞」をあげる。
頭の中に思い出さなかった漢字が、新聞の中に見つけると、あれまあ、これもあった、これも木偏とたくさん見出せます。木偏やサンズイの漢字は数多い。
賞といっても、〇型やハート形の付箋に手書きで書き込んだだけの賞状です。ノートを持っている学生にはノートに貼らせる。ノートを持たない学生は、教師が配布したプリントの余白などに貼らせる。(カタカナ語クイズや、和語クイズなど、日本語学の復習としてさまざまなクイズによって、ノートにはさまざまな付箋賞状がふえていく仕組み。たわいのない賞ごっこですが、クイズで一番になると学生は単純に喜びます。
学生に伝えたかったこと。
スマホのメールなどで、知っている漢字しか使わないでいると、新しい漢字に出会うことが少なくなってしまう。毎日、新聞でも漫画でもいいから、文字に目を触れさせていれば、思い出せる漢字が多くなる。どうか、月に1冊、週に雑誌一誌でいいから、紙の文字に目を触れていてほしい。テレビやインターネットのテロップなど、時間とともに消えていく文字ではなく、読めない字があったら立ち止まれる媒体の文字に、目を触れさせることが大事。
やってみてください。今回のお題は「女偏の漢字を思い出す限り全部書いてみよう」
漢和辞典には女偏、女を部首に持つ漢字は900もあります。900字のうち、いくつくらい思い出せるでしょうか。
春庭がソラで思い出せたのは。
人を表す字: 女、娘、姉、妹、妻、嫁、婿、姑、姪、姫、妃、嬢、婆、娼婦、妓
イ形容詞ナ形容詞:姦しい、好きな、嫌いな、妄な(みだりな)、妙な
動詞:妬む、嫉む、始める、 妊娠する、娶る、
もう、限界。900分の25。
でも、漢和辞典を開けば、常用漢字でも、如く、奴、妨げる、妾、姓、委、娯、姿、、、などなど、まだまだあります。
外出自粛が要請され、高齢者はどうしても家の中に引きこもりがちになります。人と会うときには2m以上離れて話をしろ、ということになると口数も少なくなり、脳の働きはどんどん衰えます。
こんなとき、ブログ友yokoちゃんが日々実践している漢字書き取りは、とても有効な脳トレーニングだと思います。さきほどの課題のように、部首ごとの漢字を書いてみるのもよし、漢字練習帳を開いて1ページごとに書くもよし。
家の中に閉じこもっている間、漢字復習をしていれば、どれだけボケ防止になったかと思うのに、さはさりながら。私自身は、ぼうっとテレビ見てすごしていました。
毎日漢字書き取りを続けているyokoちゃん、すごいなあと思っています。春庭など、毎日忘れ去る漢字のほうが多くなり、頭の中はスカスカになる。
頭の中がスカスカなので、過去ログで埋めていこうという4月です。
次回からは、漢字について、かって書いたものの再録です。
「女偏の漢字」について。
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>春庭漢字話2020春(1)漢字学習中
中学校国語教師3年大学留学生の日本語教育を30年続けてきて、それなりに辞書を引く回数も多いので、雑誌新聞を読んでいて、「これは初めて読む漢字」にあまり出会わなくなりました。明治時代の漢文訓読式文体とか、専門用語でもないと、よほどの「難読漢字」クイズに出るもの以外、読めるようになっています。それでも、めったに使わない熟字訓などが出題されると読めなくて「ほほう、こんな難読熟字訓があったのか」と思うのですが、日常生活で使うことはないので、たいてい翌週のテレビクイズの時間までには忘れてしまいます。
難読クイズなどでなく、一般の文章を読んでいて、久しぶりに読めない漢字を見つけました。
「UP(東京大学編集2005年11月号)」の表紙裏に、日本造船史専門の先生が書いた文章の中です。帆船のイラストについての説明文です。
幕末の浦賀奉行所が1853年に起工し、1854年に竣工した「鳳凰丸」の解説に「三檣の洋式軍艦」と書かれていましたが、「檣」が読めなかったのです。帆船のイラストから、マストのことだと推察する。漢和辞典の木偏13画を引いてみると読みは漢音「しょう」呉音「ぞう」。三檣はさんしょう。意味は3本マスト。
「薔薇」の読みがバラのほか音読みで「ソウビ・ショウビ」であることから推察すれば「檣」はソウ・ショウであろうかと推察がついたはず。漢字の旁は音声を表すので。木偏がついた専門用語なので、なにか船関係の特別な読み方があるかと想像しましたが、旁の原則通り「檣」は「薔」と共通した読みでした。
さて、春庭が2000年から20年間続けてきた日本語教育研究のうち語彙論文字表記論復習として行っていたワークショップをご紹介しましょう。対象は日本語教師資格をとりたい日本人受講生です。「木偏の漢字思い出し」「サンズイの漢字思い出し」などの課題で頭に中に思い浮かぶ漢字を書いていく、というワークです。
日本語教育概論を受講する日本人大学生に、「日々、漢字に目に触れさせていることの重要性」を意識させるために、行ってきたワークショップです。
ワークその1.ふたりペアをつくり、A4の裏紙(コピー失敗紙の再利用)を渡します。紙を半分に折り、右側左側に交互に「木偏」の漢字を書いていく。相手が書いたのと同じ漢字を書くことはできない。5分たって、「やめ」の合図でペンえんぴつを置く。
ワークその2 書画カメラ(Elmo)で各ペアの漢字を映し、何文字書くことができたか確認。(書画カメラがない教室の場合。黒板またはホワイトボードに、紙に書いた字をペアで書き写す)漢字数を数えて、一番書けたペアに「漢字記憶賞」をあげる。
ワークその3 古新聞1枚ずつペアに渡す。それを半分に切って、右ページ左ページをそれぞれが眺め渡し、木偏がつく漢字を探し出し、さきほどのA4裏紙に続けて書いていく。文章を読んでいると速度が落ちるから、読まずに眺め、漢字だけを拾い出す。さきほどから何字増えたかを数える。
ワークその4 再度、書画カメラにペアの漢字を映し、新聞から何字拾い出すことができたか、数える。一番たくさん拾い出すことができたペアに「漢字探索賞」をあげる。
頭の中に思い出さなかった漢字が、新聞の中に見つけると、あれまあ、これもあった、これも木偏とたくさん見出せます。木偏やサンズイの漢字は数多い。
賞といっても、〇型やハート形の付箋に手書きで書き込んだだけの賞状です。ノートを持っている学生にはノートに貼らせる。ノートを持たない学生は、教師が配布したプリントの余白などに貼らせる。(カタカナ語クイズや、和語クイズなど、日本語学の復習としてさまざまなクイズによって、ノートにはさまざまな付箋賞状がふえていく仕組み。たわいのない賞ごっこですが、クイズで一番になると学生は単純に喜びます。
学生に伝えたかったこと。
スマホのメールなどで、知っている漢字しか使わないでいると、新しい漢字に出会うことが少なくなってしまう。毎日、新聞でも漫画でもいいから、文字に目を触れさせていれば、思い出せる漢字が多くなる。どうか、月に1冊、週に雑誌一誌でいいから、紙の文字に目を触れていてほしい。テレビやインターネットのテロップなど、時間とともに消えていく文字ではなく、読めない字があったら立ち止まれる媒体の文字に、目を触れさせることが大事。
やってみてください。今回のお題は「女偏の漢字を思い出す限り全部書いてみよう」
漢和辞典には女偏、女を部首に持つ漢字は900もあります。900字のうち、いくつくらい思い出せるでしょうか。
春庭がソラで思い出せたのは。
人を表す字: 女、娘、姉、妹、妻、嫁、婿、姑、姪、姫、妃、嬢、婆、娼婦、妓
イ形容詞ナ形容詞:姦しい、好きな、嫌いな、妄な(みだりな)、妙な
動詞:妬む、嫉む、始める、 妊娠する、娶る、
もう、限界。900分の25。
でも、漢和辞典を開けば、常用漢字でも、如く、奴、妨げる、妾、姓、委、娯、姿、、、などなど、まだまだあります。
外出自粛が要請され、高齢者はどうしても家の中に引きこもりがちになります。人と会うときには2m以上離れて話をしろ、ということになると口数も少なくなり、脳の働きはどんどん衰えます。
こんなとき、ブログ友yokoちゃんが日々実践している漢字書き取りは、とても有効な脳トレーニングだと思います。さきほどの課題のように、部首ごとの漢字を書いてみるのもよし、漢字練習帳を開いて1ページごとに書くもよし。
家の中に閉じこもっている間、漢字復習をしていれば、どれだけボケ防止になったかと思うのに、さはさりながら。私自身は、ぼうっとテレビ見てすごしていました。
毎日漢字書き取りを続けているyokoちゃん、すごいなあと思っています。春庭など、毎日忘れ去る漢字のほうが多くなり、頭の中はスカスカになる。
頭の中がスカスカなので、過去ログで埋めていこうという4月です。
次回からは、漢字について、かって書いたものの再録です。
「女偏の漢字」について。
<つづく>