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ぽかぽか春庭「パラオ語になった日本語」

2020-10-11 00:00:01 | エッセイ、コラム
20201011
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>再録教師日誌(5)パラオ語になった日本語

 春庭の日本語教師日誌を再録しています。
 何度か同じ話題を書いてきたので、「またあの話か」と思う方、すっとばしてください。
 パラオ共和国アンガウル州で日本語が公用語として定められている、という話のつづきです。
 学生の発表から得たことを次の授業に生かして使う、春庭流リサイクル授業の記録。

ぱパラオ語になった日本語は春庭コラムのなかの人気記事で、いまでも閲覧が続いています。地域図ちきのほうがいいかたはそちらをご覧ください。

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2012/07/28
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>2012年前期(2)パラオ語になった日本語
 
 日本語は、1億3千万人の使用者があり、世界の中では使用人数が多いほうの言語です。
 しかし、英語やスペイン語アラビア語などが、母語として話されている国のほかに、多くの地域で「公用語」「共通語」として認められているのに、日本語は国外で使用されることがごく少ない。

 ブラジルサンパウロの日本人街とか、ハワイ日系社会などで日本語を話す地域があることはあるけれど、「公用語」として認めている国はありません。
 と、日本語教師養成クラスで話しました。

 日本国は、日本語を「公用語である」と公式には規定していません。したがって、「日本語を公用語としている国はない」という私の説明にまちがいはなかったのですが、別々の大学でふたりの学生が、「日本語・公用語」とふたつの語をならべて検索し、「先生、日本語を公用語としているところ、ありました!」と、報告してくれました。

 「国」で公用語としてるところはなかったのですが、国の一部「州」で、日本語が公用語となっていたのです。

<つづく>

2006/07/29 土
ニッポニアニッポン語教師日誌>前期もめでたくこれにておひらき(7)日本語トリビア
・公用語としての日本語

 パラオ共和国のアンガウル州。
 アンガウル島は、パラオ諸島の南、ペリリュー島の南西に位置し、パラオを取り囲むバリアリーフのさらに南にある周囲8kmの小さな島です。
 アンガウルは、パラオ共和国の州のひとつになっています。
 住民の数は200人前後。パラオ語、英語のほか、日本語が公用語になっています。

 たった200人の人口ではあっても、日本の国外で「公用語」として日本語を位置づけていた地域があったことに気づいた学生、大感激でした。
 私も、「公用語としている国はない」とずっと思いこみ、「国としての公用語ではないけれど、日本語を公用語としている地域がある」ことに思い至らなかった不明をただされ、へぇ、へぇと机をたたきました。

 日本が南方諸島を信託統治し、日本語教育を行った島のなかでも、パラオは、日本語教育が好意的に受け止められた地域のひとつです。

 60年前の太平洋戦争中、パラオのペリリュー島などで日米軍が戦いました。しかし、他のアジア諸国太平洋地域での戦いと異なり、パラオでは戦争による民間人死者がでませんでした。そのため、戦後も日本への友好感情がパラオ国民に続いたのでしょう。

 パラオ共和国、第4代の大統領は、日系のナカムラ クニオ氏でした。

 現地のことばを抑圧し、日本語を強制した「苦い日本語教育」の記憶が残っている地域もアジアの中に多いですが、パラオ共和国のアンガウル州で、公用語として位置づけられていたこと、日本語教師にとってはうれしいことです。

 多くのアジア地域で、日本語教育は不幸な歴史を持っています。
 日本語教師はアジアの近代史を深く学び、アジアの歴史を背景に感じつつ日本語教育をおこなう配慮が必要です。

 私の担当した留学生のなかにも、「祖父母が日本軍に殺された」「親戚の土地や財産が接収され、無一文になってしまった」などの「一家の歴史」を、親から伝え聞いてきた学生がいました。

 親日的な国があることはとてもうれしいし、公用語として日本語をつかっている地域があることは誇らしくもあります。
 一方で、日本語教育の歴史をみつめなおし、アジアの歴史にコミットメントしてくことも日本語教師の役割のひとつだ、と私は感じています。

 学生に「ツカミ」として出すクイズのひとつ。
 クイズ。世界の中で、日本語を公用語として決めている地域、国はあるでしょうか。あるとしたら、どこでしょうか。日本の公用語については、あとで述べますが、日本以外の地域を答えてください。
 学生は、ブラジルの日本移民が多い地域じゃないか、などと推理します。

 正解は。パラオ共和国アンガウル州。
 アンガウル島という小さな島で人口200人足らず。そのうち、日本語を話せるお年寄りは、現在ではほとんどいなくなりました。戦前、日本が委任統治をした太平洋諸島で日本語教育を受けた人々がいます。日本軍人や統治者から過酷な扱いを受け、日本を深く恨みに思う人が残された島も多い。その中で、日本語教育を受けたお年寄りを尊重し、州の公用語として法的に決めた島があるということは、おそらく、アンガウル州で日本語は、よいイメージを保って教えられたのだろうと、ほっとします。

 ここで、戦前戦後の日本語教育史をざっと解説するのですが、「日本が15年戦争をしていた間、アジアで侵略や過酷な占領政策を行った」、という話に深入りはできません。近代史は、明治維新から大正デモクラシーまでしか扱わなかった、という高校が多く(大学入試に現代史の出題が少ないから)、この話をし出したら、1学期かかっても終わらない 加害の歴史も含めて歴史の真実を追究し続けなければ、次の世代は育たない、というのが私の考え方ですが、被害の歴史は語りたがるのに、加害の歴史は子ども達に教えられてこなかったのは事実です。
 (私にとっては、太平洋戦争は「歴史」ではなく、「父と母の経験したこと」として身近でしたが、歴史として学んだのは、二度目の大学での「近代史」の授業でした。15年戦争という用語もこのとき初めて知りました。。15年戦争、という用語は、現在も学校教育の現場では用いられていません。)

 日本語を母語として愛していくためには、この国の歴史の真実を、加害も被害も知ってこそだと思っています。国への偏った愛は愛ではない。一方的な賛美だけをよしとすることは、結局この国を貶めることになりかねない。真実を知ったうえでの日本語愛だと思っています。

 パラオ共和国アンガウル州の「日本語公用語」についても、小さな島ながら、世界の中で、日本語を公用語と定めた島があることの意義について話して終わります。しかし、それ以上、深入りしてはきませんでした。
 しかし今期、パラオの日本語について興味を持った学生が、さらに発展した発表をしてくれました。題して「パラオ語になった日本語」

 「パラオ語になった日本語」というタイトルのサイトがあり、パラオ語の中に外来語として残存した日本語があることを調べた学生の発表。他の学生にも印象に残る発表だったようです。

 アジア各地に残された日本語のうち、たとえば、インドネシア語には「ロームシャ」という日本語由来の外来語があり、労務者の意味だ、ということなどを学生に紹介してきたのですが、パラオ語になった日本語がどれほどあるのか、具体的に授業で取り扱ったことはありませんでした。

 パラオ諸島は、スペイン、ドイツの植民地となり、次いで日本が委任統治してきたので、パラオ語語彙の中にスペイン語由来の外来語、ドイツ語由来の外来語が混じっており、パラオ語外来語の中の25%が、日本語由来のことばです。

<日本語がそのまま通じる挨拶語>
・ヨロシク ・ アリガトウ ・コメン(ゴメンナサイ) ・マタアシタ(また明日)

<名詞>
・アナタ ・アメ(雨) ・アブラ(ガソリン) ・エモンカケ( ハンガー) 
・カツドー(活動=映画) ・ゴミ 
・サシミ ・シゴト(仕事) ・シューカン(習慣) ・ジャマ(邪魔) ・シンパイ(心配) ・スコウジョウ、ショーキ(飛行場) ・センセー(先生) ・センキョ(選挙)
・タンジョウビ(誕生日) ・チチバンド(ブラジャー) ・ツナミ(津波) ・デンキ(電気) ・デンワ(電話) ・トクベツ(特別) ・トーボー(逃亡)
・ニツケ(煮付け)
・バショ(場所) ・ベントー(弁当)
・ヤスミ(休み) ・ヤッコチャン(オウム) 

<動詞>
・アバレテ(怒っている) ・ツカレナオス(ビールを飲む) ・ツカレテ(疲れた)
・ハラウ(払う) ・バラス(バラバラにする) ・ワスレテ(忘れている)
(例文)「あなた、つかれて」=意味「あなた、つかれたでしょう。お疲れさん」

<形容詞>
・アジダイジョウブ(美味しい) ・アチュイネ(暑いね) ・オイスィー(美味しい) ・サビスィー(寂しい) ・サムイネ(寒いね) ・ヤサスィー(優しい) ・

<その他の表現>
・アッテル(お似合い) ・アリマス ・アタマサビテ、アタマホコリ(だめな状態) ・アタマグルグル(混乱している状態) ・イッショニ?(一緒に) 
・クダサイ ・ゼンゼンワカラナイ ・タメス(試着時など) ・ドーセ  ・チョットマッテクダサイ ・ショウガナイ ・モシモシ ・モンダイ(問題ない)
(例文)「あなた、ためす」=意味「どうぞ、ご試着ください」

 いかがでしょうか。現代日本語には、英語由来の外来語が多くなっているので、「ブラジャー」をブラジャー以外の用語で呼ぶ人はいないでしょう。パラオ語の中に「チチバンド」というブラジャーを表す日本語が残存していることなど、面白いなあと感じます。また、現代日本語では「映画」と言うものを、戦前の言い方で「活動」というのも、なにやらなつかしい感じ。

 学生発表によって、パラオ語の中のニホン語を確認することができました。

~~~~~~~~~
20201011
 学生の発表によって、さまざまな新しいことばや異文化を知ることができてきました。
 留学生にさまざまな国の文化について知るころも、日本人学生から新しい若者言葉や流行語仕入れるのも面白いことば収集でした。
 テレビで使われるようになることばは、すでに流行も終わっている場合が多いので、若者から仕入れたことばは、すでにすたれているかもしれません。
 今年の流行語、おそらくコロナ関連がどっと入るでしょうね。クラスターとか都市封鎖ロックアウトとか。

 教えることも楽しみはありますが、学生から多くを学べる仕事、ありがたかったと思います。
 日本語学校への就学生、4月入学予定学生も10月入学予定学生も来日できない、という年になってしまいましたが、これからも学生とともに日本語の豊かさを味わっていきたいです。

<つづく>
コメント
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