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ぽかぽか春庭「くれなずめ」

2021-11-07 00:00:01 | エッセイ、コラム

20211019
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2021秋映画(4)くれなずめ

 「キネマの神様」と2本だてでしたから「くれなずめ」も見ました。ついでだから。

 作品紹介
 松居大悟監督が、自身の体験を基に描いたオリジナルの舞台劇を映画化。高校時代に帰宅部でつるんでいた6人の仲間たちが、友人の結婚披露宴で余興をするため5年ぶりに集まった。恥ずかしい余興を披露した後、彼らは披露宴と二次会の間の妙に長い時間を持て余しながら、高校時代の思い出を振り返る。自分たちは今も友だちで、これからもずっとその関係は変わらないと信じる彼らだったが……。

成田凌;吉尾和希、主人公。高校時代は清掃係
高良健吾;藤田欽一、舞台演出家
若葉竜也;明石哲也、欽一の劇団に所属する舞台俳優
浜野謙太;曽川拓、清掃係後輩。唯一の家庭持ちサラリーマン
藤原季節;田島大成、清掃係後輩、会社員
目次立樹;水島勇作、地元のネジ工場で働く。

 以下ネタバレ含みます

 高校時代から集まっては青春をともにしてきた仲間たち。「じゃまた」とわかれて、次にまた会う。
 そのひとりが若死にして、仲間に「じゃまた」と言えなくなっても、仲間たちは心のなかでいないことを納得できていない。皆同じ思いで、いないはずの吉尾をこころのなかで生かしている。彼がもういないことを納得しなければいけないと、承知していながら。
 ラストシーンは、壮大な脳内ファンタジーで吉尾を見送ります。

 松居監督の実体験をもとにした脚本だということですが、展開についていけない人も多かったのではないかと思います。高校生時代、5年前、2年前の時空が交差するのですが、ぼんやり見ていると、2年前と5年前の違いがわからなくなる。高校生時代はさすがにわかりますが。

 私は、前田敦子の、威勢の良い高校清掃委員、そして「私は今幸福だ」と叫ぶシングルマザーもよかったから、それだけで他の減点を相殺。現実にシングルマザーになって頑張って子育てしている姿がかぶってしまうので。


 さて、この映画で1番私の興味をひいたのは、俳優でもなく監督の采配でもなく、タイトルでした。

 監督の造語だという「くれなずめ」。
 聞いたことないでしょ、くれなずめ。「くれなずむ」という動詞は知っているけれど。

 無生物主語の動詞も、擬人的に命令形が作れます。
 川よ流れよ!とか。しかし、気象のような自然現象を表す動詞は命令形をつくりにくい。

 とくに主語的な語がついている語たとえば、「夕暮れる」のような自然現象。擬人的に夕暮れろ、とか夕暮れよという命令形は使いにくい。夕暮れるはまだ「夕暮れないうちに帰らないと」、などと無理矢理否定のナイ形にできるが「くれなずむ」は「くれなずまない」というナイ形にもならない。

 動詞連用形は名詞として用いることができますが、「くれなずむ」は「くれなずみ」を名詞として使うことも難しい。

 「くれなずむ」のように、命令形も連用名詞形も否定形も作れない動詞を脳内リサーチしたのですが、私の脳は粗雑だから見つけることができませんでした。

 元・再帰動詞論の論者だった春庭、久しぶりに語彙形態論を考察する時間を持って、通勤電車での暇つぶしができました。言語学も、論文締め切りに追われることなく暇つぶしとして楽しむなら、よい娯楽。

 松居監督、造語タイトルを世間に出してくれてありがとう。
 次の作品は、タイトルではなく内容で興味を惹かれる映画に出会いたい。

<おわり>
コメント
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