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ぽかぽか春庭「解決!シャーロックホームズ青い紅玉事件」

2022-02-26 00:00:01 | エッセイ、コラム
20220226
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>2021おことば拾遺(4)解決!シャーロックホームズ青い紅玉事件


 コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの中の短編の一つ「青い紅玉」について、2004年に書いた文をUPしました。
 「青い紅玉」とは、「土砂降りの青天」「広大な狭隘地」のような矛盾した形容詞と名詞の結びつきじゃないのか、と論考したのです。(ひまつぶし)

 語の意味の拡大縮小などの面から見ても、「青い紅玉」は、落ち着かない表現だと述べました。
 シャーロックホームズシリーズの原題では「The Adventure of the Blue Carbuncle) 」だったのですが、2004年当時、日本で手に入る翻訳本では、訳者により「青いガーネット」「青い柘榴石」「蒼炎石」などの邦題が用いられていました。

 ところが、最近娘といっしょに見たテレビシリーズのシャーロック・ホームズでは、ホームズは、原題通りの「青いカーバンクル」と言っており、「青い紅玉」という矛盾した形容の語は使われていなかったのです。

 ガチョウに飲み込ませた青いカーバンクル。私には犯人捜し以上に「青い紅玉」という語の探索にいっしょうけんめいだったのですが、2021年のテレビ放映であっさり解決しました。
 そもそもコナン・ドイルがこの短編を構想したときは、「青いダイヤモンド」だったのを、途中で変更したので、いろいろ矛盾が出てしまったらしい。

カーバンクル(Carbuncle)とは。by ウキペディア
  • 赤い宝石の総称。ラテン語で「小さな炭」の意味。ルビーなどを指すことが多い。
  • 磨き丸く仕上げられたザクロ石(ガーネット)のこと。特に鉄礬柘榴石(アルマンディン)。
 以下は、2004/01/21の春庭コラム「へぇへぇへぇなる平成(へぇなる)言語文化教育研究」というタイトルのもと、かきつらねたアホ考察です。「青い紅玉」の原題が「 the Blue Carbuncle」である、ということがわかれば、↓の解釈あれこれは、単なるひまつぶしになりました。よって、以下の分は読まなくてもいいんですが、2004年には、↓のような考察こねまわしが、自分を納得させるためには必要だったのだ、ということを思い起こすための、再録です。
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 探偵小説、推理小説はゆっくり楽しみに読みたい。だれが犯人なのか、トリックはどうか、のんびりゆったり読むために、今はがまんがまん。
 ホームズもポアロも、仕事リタイアしてから読むと決めているのに、当方のオバカ息子のために、シャーロックホームズシリーズの『青い紅玉』を読むはめに。

 息子の中3英語の冬休みの宿題。ホームズシリーズの中の「青いダイヤモンド(オックスフォード版の中高生向け編集)」を読んでレポートを書く、というもの。思いっきりやさしい英語で書いてある短編を読み、英語の質問に英語で答えるという宿題だ。
 しかし、冬休みが終わっても、息子は当然のごとく、国語の宿題も社会の宿題も未提出。

 息子は、学校のランキング上位常連。なんのランキングかというと、遅刻率最高、宿題未提出率「学年トップの記録」を更新中。
 しかし、息子も息子なら、母も母。2003年12月の終業式に息子が欠席してしまったのは、母が悪い。母は12/19に年内の授業をすべて終えて、すっかり冬休み気分。12月23日が休みだったゆえ、終業式が12月24日だったことを忘れてしまった。ネット三昧をしていて、息子が起きてきたときは、終業式が終わっている時刻。
 「なんで起こさないんだよぉ」「だってぇ、もらって来てほしいような通知票でもないし。昨日は休日だし。こんな中途半端な時期にご生誕あそばさなくってもねぇ。いっそイギリスが実際の誕生日と関係なく、季節のいいお出かけどきに女王公式誕生日を設けているのをまねして欲しい」「僕の終業式欠席は、イギリス女王のせいか?」「我家の女王のせいだよ。悪かったね」

 どの教科も学年掉尾を飾っている息子であるが、英語も当然苦手。
 中学校時代の私にそっくりな「つづり字音痴」。持ち帰ってそこらに捨ててあった英語スペリング小テストを拾ってながめたら、「いとこ=kazun」「娘=dotar」「三月=maach」なんぞという答案で、おおいに笑えた。つづり字のまちがいまで遺伝するとは思わなかった。で、「スペルぐらい覚えなさいよ」と叱るにも笑いながらになり、叱る効果がない。

 ホームズ短編の宿題について息子の主張。「翻訳が出版されているんだから、ホームズなんて、日本語で読めばいい。英語でわざわざ読む気がしない」と、ぬかす。「じゃ、せめて日本語で読みなさいよ」と、翻訳を探した。
 しかし、訳本を探すのにちょっと手間取った。「青いダイヤモンド」というタイトルがホームズシリーズにないのだ。ダイヤモンドでみつからないので、「青い~」がつく短編を探した。
 創元推理文庫とパシフィカ社「シャーロック・ホームズ全集」の両方とも阿部知二の翻訳で、「青い紅玉」という短編があった。

 オックスフォード編集版のタイトルの「青いダイヤモンド」が、翻訳の「青い紅玉」か、どうか、内容がおなじものか確認しなければ、買っても息子は読まない。自分の楽しみのためならどんな分厚い本でも読み通すが、宿題となると、絶対にいやというへそ曲がりの息子だ。(DNAのおそろしさ)
 ダイヤモンドを金剛石というのは知っていても、「紅玉」と訳されたのは読んだことがなかった。手持ちの漢和も国語も、紅玉といえば「ルビーの意」としか出ていない。それで、万が一にも「青い紅玉」がりんごの話とか、別の短編だったら、宿題の助けにもならないので、先に私が読んでみることに。

 オックスフォード版「ブルー・ダイヤモンド」。文章はやさしくなっているが、内容は結局、翻訳の「青い紅玉」と同じだということがわかった。最初のページで同じ内容ということはわかったが、そこはホームズワトソンコンビ、結局ラストまで読んでしまった。短いし。
 ああ、私の老後の楽しみを、宿題のためにひとつ前取りしてしまった。

 それにしても、なぜダイヤモンドが紅玉になったのか。ルビーでなく、ダイヤモンドを紅玉と翻訳した時期があったのか、訳した阿部知二が、「ダイヤモンド」というカタカナの語の語感が気に食わず、紅玉というタイトルに変えたのか。
 阿部知二の「ダイヤモンド」嫌い。ダイヤモンドに恨みでもあったのか。彼女がダイヤに目がくらみ、貧乏な阿部をふって、金持ちに走ったとか。あ、それは『金色夜又』だ。(ちなみに、「きんいろよまた」と読むのではありません)

 と、悩んでみたが、春庭は語彙に弱い。ホームズ探偵が語彙探索を行った結果、コナン・ドイルの原作原題では、「Blue diamond」ではなく、「Blue garnet」であることが判明した。青いガーネット、青いざくろ石というのが原題。

 日本ではざくろ石の名で親しまれ、ガーネットといえば赤と思われている。しかし、ガーネットは「ガーネット族」という広い範囲の宝石を指す。その色は赤に限らず、大別するならば、赤ガーネット、緑ガーネットがある。
 赤ガーネット:パイロープ、アルマンディン、スペサルティン。
 緑ガーネット:(グロッシュラー)、アンドラダイド、ウバローバイト。
 ドイルがホームズシリーズに登場させたのは、この緑ガーネット、グロッシュラーの類であったのだろう。
 
 しかし、中学生用のオックスフォード編集「レベル1」は、みだし語400語習得レベルの版だったため、garnetという語が基礎語彙の中に含まれていない。そこで、オックスフォードは、タイトルという重要な部分を「青いダイヤモンド」と改変した。そして、ドイルの原題が「青いガーネット」であるということは、私の見た範囲では、オックスフォード編集版のどこにも書いてなかった。

 阿部知二は、ガーネットを「ざくろ石」と訳さずに紅玉とした。ルビーだけでなく、赤いガーネットを紅玉と訳すことは可能だったのだろう。そのために「青い紅玉」というタイトルになった。「青いざくろ石」だったら、ひっかからない。紅玉を形容する言葉が「青い」!!

 私が、ホームズも何も関係なく「青い紅玉」という言葉を見たら、紅玉りんごがまだ赤く色づいていなくて、青リンゴのうちにもぎとるのかなあ、などと、想像してしまう。
 芸者になるまえの「半玉」を、まだ熟さないうちに賞味するのは男の甲斐性だったそうだが、私は熟さない紅玉は、アップルパイにも使いたくない、などと、話はとめどなく脱線。「青い紅玉」について、であった。

 「青みがかった赤」とか、「赤っぽい青」というのは、色の形容として可能。「青ざめた白い肌」もよろしい。また、「黄色い紅花」は可。紅花は「染料の紅をとるための花」であって、花びらの色は黄色だ。
 「黒い白衣」も、形容矛盾ではない。この場合の「黒い」は、黒色を意味するのではない。古くて洗濯もしていない、汚れて黒ずんだ作業用の白衣が想像できる。
 
 「赤い白墨」「緑色の黒板」などは、被修飾語の白墨・黒板などの、指し示す物(指示対象)が、「もともとの意味から意味の拡大」をしたゆえに、このような「形容矛盾」が矛盾でなく、可能になった。

 もともとは黒く塗られていて黒板という名が付けられた名詞。黒以外に「濃緑」などの色を塗られるようになっても「濃緑板」とは呼ばれずに「黒板」という名称のまま呼ばれた。それゆえ「緑色の黒板」という表現ができる。この場合、黒板は、「黒い板」を指し示す名詞ではなく、「学校などで使用される、文字を書くための板」を意味するので、「黒」という語は、直接色を示す意味を持たなくなっている。
 
 「みどりの黒髪」については、04年01月03日の、日本の伝統色名「白黒赤青」のところを参照。このばあいの「みどり」は「緑色」ではなくて、「つやつやとして生まれ出たばかりのように輝いている」という意味。
 
 と、ここまで考えてきたが、やはり私の気分としては「青い紅玉」は、ひっかかるタイトルだ。ブルー・ガーネットの翻訳、今ならそのまま「青いガーネット」か「ブルー・ガーネット」としてタイトルにされるだろう。阿部知二が最初に翻訳したころは、ガーネットという宝石は一般には知られていないことばだったのかもしれない。なぜ「青いざくろ石」ではなく「青い紅玉」にしたのかをたずねてみたいところだ。

 言葉は送り出す側と受け取る側のコード(規約、基準、ルール)が同じ土俵にのっていないと、さらりと同じ意味を共有できない。誤解も生まれる。
 同じひとつの言葉を、異なる意味で二人の人が話していて、双方誤解に気づかないということも起こる。
 言葉には多義語もあれば、譬喩や含意という使い方もある。また、言葉の意味は常に変化する。

 動詞の内容も変化するし、形容詞も変化。変化の方向は、意味がずらされたり、拡大したり、縮小したり。
 現代「あの方、あわれよね」と表現したとき、普通は誉め言葉ではない。「あの人は哀れだ」といえば、「かわいそうな同情すべきみじめな存在」と受け取られ「あの人はものごとの情趣を深く感じる人だ」とか「かわいらしく恋しい人」と受け取る人はいない。

 名詞の「指し示す物」の内容も、時代につれて変化する。
 白墨、黒板は、元の意味から指示範囲が広がった例。黒ではなく、緑色に塗られていても、「黒板」と言う。「黒板」という語が指し示す範囲が拡大したのだ。
 拡大する語のほうが数が多いが、意味が縮小する語もあるし、元の意味からずらした意味の方が一般的になる場合もある。

 「房」は、家の中の一つの部屋。部屋を賜って仕事をする宮中の女官や貴族の屋敷で働く女性を意味した「女房」が「部屋を与えられている女」を意味するようになり、やがて家庭の部屋で生活する「妻」を意味するようになった。

 現代では「うちの女房がさぁ」と、話し出したら、それはその人の結婚相手の女性をさししめすのであって、その人のために働いていて個室を与えられた女性を意味するのではない。
 あなたが、妻以外の女性に個室を与えていて、彼女があなたのために働くとしても(主として夜間営業)、一般的にはその人をあなたの「女房」とは呼ばない。「うちの女房がさぁ」と話し出したら、個室の女性ではなく、妻の方を指していると、「世間コード」では受け取るのである。
 一方春庭は、団地2DKに住み個室もなく、台所一室でご飯を食べテレビを見てパソコンして食事テーブルで試験の採点までやっている。それでも世間からみると「女房」の部類。「女」はもうどっちでもいいけど「房」は欲しいよ。できれば書斎と書庫と寝室と化粧室とお納戸の「房」が。ハァ、無理でしょうねぇ。

 意味範囲拡大の例。もともとは武家屋敷の奥の間に居住していた正夫人を「奥方」と呼んだ。公的部門を扱う「表=おもて」に対して、私的部分を取り仕切る「奥」の代表者として存在していた人が「奥方」「奥様」。
 「奥様」と呼ばれる方は、大きなお屋敷の奥の方に住んでいなければならなかったのだ。安普請の家に住んでいて家事雑事をやらせる使用人も使っていない人を「奥様」などとは呼べなかった。

 現在では、私のような、奥も表もない2DKに住まいしていようと、八百屋さんから「奥さん、大根安いよ」と声かけられるようになっている。
 「奥様」「奥さん」の意味する範囲が広がり、「夫を持つ女性」さらに「若くない女性で、既婚者と思われる年代の女性に対する呼びかけの語」へと拡大した。

 自分を指し示す語の意味変化の例。貴人のしもべ、下僕として存在し、自分が心身を捧げて働く人の前で、へりくだった意味で使っていた一人称「僕」。
 現在では「一般的に男子が自分を指し示して使う一人称」になっている。成年男子でも「ぼく」を使う人は多い。別段まちがいではない。自分はあなたの「下僕」である、という気持ちで使っているのかどうかは知らねども。

  私は、教師の前で一人称を「僕」という男子学生に対して、心の中で「お前は女王様のしもべよ、オーホッホッホ」と思うことにしている。

 春庭、教室で心ひそかに女王様気分を味わったのちは、近所の八百屋で「奥さん、奥さん」と、住まいの奥深いことを讃えられつつ、「ちょっとぉ、その大根一本200円は高いよぅ。二本買うから、二本350円にしなさいよ」なんぞと、「奥」の仕事を仕切るのである。

 そして帰宅すれば、大根を千切りにしながら、息子へ大声を上げる。ゲーム三昧を続けていて、宿題を提出しようとしない息子に、母はついに切れたのだ。もう、千切り乱切りである。

 「翻訳本さがしてきてやったのに、なんで宿題やらないのよぉ」「はぁ、翻訳を読むことは読んだよ。ストーリーは日本語で理解した。でも、英語の質問に英語で答えるなんてトリビアなことがらに時間を費やすより、ボクは日本史のある時代のみ深く追求することに決めた」
 息子は「信長の野望」「太閤立志伝」の時代に関しては、トリビア博士である。

 結局のところ、「青い紅玉」はこれでいいのか悪いのか。「鋼玉」のうち、青いものがサファイア、赤いものがルビー。ルビーを「紅玉」と呼ぶのが一般的。しかし、ざくろ石=ガーネットを「紅玉」と呼ぶことも可。ガーネット属宝石類の中には緑色もあるから、「青い紅玉」も不可とはいえない。というところなのですが、どっちにせよ英語の宿題を投げた息子、私がホームズを読んだ意味もまったくなし、という結末となりました。
 中3息子、中高一貫男子校だから高校進学が決定していて、だらけきっています。4月に高校生になったあと、「独立行政法人化の影響で授業料が値上げされるかも知れない」という噂もあるのだから、なんとか留年せずにいてほしいという母の願いもむなしゅうなりそう。
 
 「おっきくなったら、お母さんにダイヤモンド買ってあげるね。お母さん宝石ひとつも持っていないから、ボク買ってあげる」なんて、かわいい約束をしてくれたころが花でしたね。今じゃ、ちょっとこずかい貯まるとゲームソフトを買いに走り、ダイヤのダの字もありゃしない。青いダイヤでも青い紅玉でもいいから、買って!!
 あ、先日常磐炭田のボタ山見学をしたとき、「黒いダイヤ」と呼ばれていた大きな石を拾ったんだった。首にでもぶら下げておくことにします。
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20220226
 青いカーバンクル。納得しました。そして、コナン・ドイルが最初に考えたのは、「青いダイヤモンド」だった、ということもわかりました。
 その上の謎は。青いカーバンクルを見つけ出した人に「賞金1000ポンド」が与えられる、という記述。娘とシャーロック・ホームズの時代に1000ポンドはものすごい大金だと思うけれど、だいたいの金額は現代の価値になおすといくらくらいになるのだろうか」と話はすぐにお金問題に。

 物価変動その他の要素を考慮して、ホームズのころの1ポンドは5万円~10万円相当になるらしい。とすると1000ポンドは5000万円~1億円くらいの価値になる。カーバンクルを飲み込ませたガチョウから取り出してホームズに預けた「荷物運搬人(今なら宅配業者?)」が1億円もらったのかどうかは、テレビドラマでは描かれていませんでした。

 願うらく、青いカーバンクルを正直にホームズのもとへもっていった荷物運搬人が、1億円をギャンブルなんぞに使い果たさず、奥さんとささやかでも幸福な生活を送ることができたことを。

 さて、私も、ダイヤか、せめてガーネットでもいいから、飲み込んだ魚か何かを買いたいな。

 青いカーバンクル、画像見つかりませんでした。かわりに、2021に63年ぶりに新誕生石として追加されたタンザナイトの青いきらめきを。

 タンザナイト、タンザニアの希少宝石。ダイヤモンドより高価だとか。
 タンザナイト飲み込んだ魚が手に入りますように。あ、半額引きになった切り身しか買わない生活では無理か。

<つづく>
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