
20241123
ぽかぽか春庭アート散歩>2024アート散歩みのりの秋(10)わたしの言葉をあなたに届ける展 in 目黒美術館
目黒美術館、開館記念日無料公開の日に出かけました。「わたしの言葉をあなたに届ける」展。
「静かに無言で絵を見る」という美術館のありかたを変えてみようという試みを含む展示でした。
見る人が感想を即時に発することを試みた双方向性や、絵のモチーフの契機となった音楽を聴きながら鑑賞するなどの企画。私が観覧した日は、絵のそばのスピーカーから、その絵をどう受け止めたか、見た人のことばが朗読されました。絵を一方的に展示するのではなく、「見た人の気持ちを届ける」というコンセプトでしたが、私は参加せず、ただ黙って見てまわりました。双方向という美術館側の企画はよいと思いましたが、その作品について、見てすぐにいまその場で述べたいということがなかった。私は、写真をとったり絵葉書を買って、家に帰ってからもう一度反芻する方式なので。胃はひとつだけど、脳はぐるぐると反芻する。
目黒美術館の口上
制作されてから何十年、何百年と後の時代に生きる私達に、当時の日常はどのように映るでしょうか。今とそれほど変わらないと感じるものもあれば、新鮮で、どこか特別な風景に思える場合もあるだろうと思います。それらは、日々刻々と変化していく現実のありのままの姿というよりも、作家の目によって捉えられたその瞬間の世界であり、多くのことを語っているのです。 鑑賞する私達は、そうした作品を前に何を思うでしょうか。
例えば、作家の対象への眼差しや、描かれた人物たちの関係性、心の機微や感情などに思いを巡らせることができます。しかし、見方は一通りではありません。美術館では、時が経っても作品の状態が変わらぬように保管していますが、それらを鑑賞する私達の受け 止め方や作品の価値は、時代とともに変化しているはずです。 本展は、そうした変化を視覚化、聴覚化し、自分以外の他者がどのように鑑賞しているのかを知る機会とするために、「静かに見る」 という美術館の鑑賞マナーを緩めてみたいと思います。作品と対峙して感じた言葉を紙に書きとめて壁面に貼り付けていくインスタレーションや、それらを朗読した音源の展示などをとおして、他者の言葉が当たり前にそばにある展示空間を作ります。展示室を介して様々な人が関わり合い、相互に鑑賞を深めていく見方の実験を、コレクション展を通じて試みます。
例えば、作家の対象への眼差しや、描かれた人物たちの関係性、心の機微や感情などに思いを巡らせることができます。しかし、見方は一通りではありません。美術館では、時が経っても作品の状態が変わらぬように保管していますが、それらを鑑賞する私達の受け 止め方や作品の価値は、時代とともに変化しているはずです。 本展は、そうした変化を視覚化、聴覚化し、自分以外の他者がどのように鑑賞しているのかを知る機会とするために、「静かに見る」 という美術館の鑑賞マナーを緩めてみたいと思います。作品と対峙して感じた言葉を紙に書きとめて壁面に貼り付けていくインスタレーションや、それらを朗読した音源の展示などをとおして、他者の言葉が当たり前にそばにある展示空間を作ります。展示室を介して様々な人が関わり合い、相互に鑑賞を深めていく見方の実験を、コレクション展を通じて試みます。
1 身の回りのいつもの風景
2 日常のふとした瞬間
3 細やかな生活感情と親密さ
4 没頭する姿、その時間
5 かたちを探るよろこび
2 日常のふとした瞬間
3 細やかな生活感情と親密さ
4 没頭する姿、その時間
5 かたちを探るよろこび
ささやかな日常の姿、いつも見ている普段の光景なので気に留めずにいた景色が、画家によってどのように受け止められ、観覧者はそれをどう受け止めるのか。
たとえば藤田嗣治(1886-1968)の「静物(インク壺)」。
身の回りにある日常生活で、使いこんできたハサミ、ペン、磁石、インク壺、マッチ箱、鍵などが置かれている。藤田はこれら愛用の文房具に自分を投影して描いたのだという。ペンやインクは筆まめな自分の投影。針やピンを引き付けている磁石は、5回の結婚を重ねた自分の分身でしょうか。いわば自画像のひとつの表現としての日用品。ふむふむ。でも、封筒を押さえている手は何?石膏かなんかの手形なのでしょうか。
藤田嗣治「静物(インク壺)」1926-1928(画像借り物)

第1次世界大戦の間、日本からの仕送りが途絶え極貧時代も経験した藤田。大戦後のベルエポック時代に急速にFoujitaの人気が高まり、絵も売れるようになりました。1925年にはフランスからレジオン・ドヌール勲章、ベルギーからレオポルド勲章を贈られました。Tsuguharuという本名がフランス式だとhが消え、「つぐある」となってしまうのを嫌い、Tsugujiと名乗る。周囲の人たちはFoujitaから「Foufou(お調子者)」と呼び、藤田は時代の寵児になりました。
銅版画インク壺は「私が描けば、日常のつまらぬ文房具でさえ芸術なのだ」と、有卦に入っていた藤田がおかっぱ頭をなでていたかもしせん。
この「静物(インク壺)」は、100枚限定プリントされた銅版画です。当時の値段はいくらくらいだったのでしょう。百年たった今、オークションでは200万-300万円くらいだって。手に入るような機会があったら、買っておきましょう。100年後には1000万になるかもしれないので、子孫のために。と、思って買っても、あなた、それ高精細プリントの複製品ですからね。(byなんでも鑑定団)どうしても値段で鑑賞してしまうHALなので、感想を書いてくださいと美術館に言われても、「お金があれば、本物買いたい」くらいしか書けない。買えないけど。
藤田嗣治「接吻」1904

最初の妻登美子はフジタの留学のため別居。その間フジタは月に5通も手紙を送ったそうです。しかし、留学延期のため登美子と離婚。フランスでフェルナンド、リシュー(ユキ)、マドレーヌなどと華やかな女性遍歴を続けた最後に、フジタ50歳のときに迎えた5番目の妻、25歳年下の君代(1911年 - 2009年)。戦後、日本を離れてフランスに定住して晩年をすごした藤田に、最後まで連れ添った君代は、フジタの死後、夫の作品と名誉を守り抜きました。
「君代のプロフィール」1938 (出会って間もないころの君代のスケッチ)

藤田と31年間連れ添い、藤田が81歳で亡くなったあと、君代は、98歳まで生きて藤田の絵を守りました。大勢の画家が戦争協力の絵を描いたのに、自分一人に戦争責任を負わされた藤田は、フランスに帰化し、終生日本にこころ開きませんでした。自分亡き後、君代夫人が少しずつ絵を売って生活していけるよう、晩年は、売りやすい小品をたくさん描いて残したそうですが、藤田を知る君代夫人は、藤田の絵が日本に戻されることを嫌い、「君代コレクション」として日本に流出させませんでした。藤田の絵が日本で再評価され知られるようになったのは、夫人の死後のこと。
最近売買された藤田の絵は、何でも鑑定団で10億円という評価がついた、と買い取った似鳥美術館が価格こみで展示していました。今年3月に小樽へ行ったとき、値段のお知らせつきで公開されていたのを見ました。
小樽芸術村似鳥美術館「カフェにて」

写真撮影OKの第5展示室には池田満寿夫(1934-1997)の作品が特集されていました。
著作権が切れていない画家の作品が多かったので仕方ないのでしょうが、館所蔵作品なのだから、練馬区立美術館が野見山暁治展の展示のほとんどを撮影OKにしたように、もう少し撮影OKの作品を増やしてほしいです。フラッシュ禁止スマホ撮影音禁止にして、混んでいない平日に受付で住所氏名提出した撮影希望者に、撮影許可の腕章かリボンをつけさせるなどの処置をすればよいと思います。どうしても写真を撮りたい、記憶にとどめておけない婆の願い。
「真珠の耳飾り」といえばフェルメールを思い出し、「大波」と聞けば『神奈川沖浪裏」を思い出すことはできるけれど、池田満寿夫の「日光浴をする貴婦人たち」と聞いても、あれ?どの絵だったかなって、思い出せない。写真とっておきたい。
図録買えよ、無料入館の日に来たのだから、とは思うものの、「シルバーパス+無料入館」の高貴幸齢者行楽を追及している身としては、一日のお出かけがゼロ円ですむと達成感が得られる。(単に貧乏&ケチ)
池田満寿夫「日光浴する貴婦人たち」1962 「飾り窓の中」1963


池田満寿夫「黒い女」1964 「夏Ⅰ」1964


「ベッドに横たわる女」1964

今回展示の中でいちばん大きな画面は、草間彌生(1929~)のアミアミ点々絵画。畳3枚弱の大きさ、3枚組190×390cm。
草間彌生「無限の網B」1964

後年、自己模倣かと思う絵も量産された中、1964年の制作はバリバリ「前衛の女王」としてアメリカを闊歩していたころの作です。 「形を探る」というテーマの第5室に、どど~んと迫力の展示でした。細かい網目が無限に広がっていきます。1986年に目黒区美術館が購入。
1973年に体調を崩して帰国した直後は、「前衛の女王」どころか「へんな絵を描く頭のへんな画家」という評価だったという学生だった頃の記憶があります。当時は統合失調症を患ったことへの偏見が大きかったのだと感じます。
このころ草間の絵をもらったとしても、たいしてありがたくもないと思ったでしょうから、ようやく評価が高まってきたころとはいえ、開館1年前の1986年の時点で草間の購入を決めたのは、開館に向けて絵を収集していたころのスタッフのお手柄。今じゃ、とても区立美術館なんかじゃ手に入れられないと思う。エッチングなどのプリント類でも数百万円、アクリル画には5億円のねだんもついている。あ、やっぱり値段で絵を見るHAL鑑賞法。
「わたしの言葉をあなたに届ける」という企画にその場では応じられず、家に帰ってからの数点の絵の感想を書くとして、値段のことばかり。こんな鑑賞しかできない老婆にも無料の展示公開、ありがとうございました。
権現坂下から目黒駅までシルバーパスで1停留所だけですが、乗車。行きは目黒駅から下り坂だから歩けるけれど、帰りは上り坂になるので、シルバーパスありがたい。
雨もよいの一日でしたが、よい時間をすごすことができました。
<おわり>