20201004
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>再録・日本語教師日誌ニジの授業(1)日本語学イントロ
春庭の日本語教師日誌再録を続けています。日本語教師養成講座「日本語教育研究」のうち「概論」の授業実況。
日本語教育と国語教育の区別もついていない、最初の授業で、まず、日本語教師志望の学生に日本語教育とは何かを伝えます。
もっとも、日本語教師になりたいと思って受講する学生は受講生のうち1割もおらず、「卒業単位に組み込めるって聞いたから」「楽に単位がとれそうだから」という学生のほうが多かったのが実情です。しかし、科目に興味のない学生であっても、容赦なく授業に巻き込んでいくのが、春庭のActive Learningです。
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2008/05/23
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(1)ジャンボ
毎年、最初の授業は、どんなふうに始めようか、工夫をする。
特に、日本人学部生の授業、学生の興味をひいて、日本語学や日本語教育について、「おもしろそう」と、感じてもらうためにはどうしたらよいか。
今年は「ニジの授業」を試みました。
最初は例年通り「じゃんぼ!」の挨拶から始めます。
「じゃんぼ!ジナラング、ハルニワ。ジナラコニニ?」
どぎまぎして答えない学生には、にっこり笑いかけて、もう一度繰り返します。
黙っているときは深追いせずに次へ。
感のいい学生がいると、なんどか繰り返されている「ジナラング、ハルニワ。ジナラコニニ?」の意味を推測する人があらわれます。
「ジ、ジナ、え~と、ジナラング スズキ」と、返答あいさつができる。そしたら、拍手、拍手。
「今、みなさんは、はじめてスワヒリ語をききました。ジャンボという挨拶は聞いたことがあるかもしれないね。でも、自己紹介のスワヒリ語は、初めて聞いたと思います。
それでも、鈴木さんは、自分の名前を言うことができました。ジナは名前、ジナラングは、私の名前、ということです」
次に挨拶を受けた学生は、にこにこと「ジナラング、たなか」
教師「ニメフラヒツタオナナ!お会いできてうれしいです」
「このように、まったく知らない言語であっても、何度かきいているうちに、状況から考えて、意味が分かります。今、私はスワヒリ語だけをつかって、鈴木さん、田中さんにスワヒリ語の自己紹介をしてもらうことができました。日本語教育も、この方式で行うことが基本です。
もちろん、わかってもらうための工夫はさまざまにあります。今の場合は、名前を言っているのだということが、学習者に推測がつくという例でしたが、ほかの文型でも、いろいろな「意味をわからせる工夫」があります。
中国語や英語で単語の意味を説明したりすることもありますが、原則、日本語だけで、にほんごを教えていきます。
「今、教師はスワヒリ語だけを発話して、学生が自己紹介が言えるようになりました。これと同じように、日本語だけを使って日本語を教え方を、直接法・ダイレクトメソッドと、いいます。直接法については、またあとで詳しく説明します」
「今日、みなさんはスワヒリ語の聞き取りができました。次に、日本語のききとり、リスニングができるかどうかのテストから始めたいと思います。日本語だから、できるよね」
「え~、私は日本語を話すロボットです。この日本語ロボットは、性能がまだよくないです。日本語をいうから、ノートに書き取ってください。どんなふうに書いてもいいです。注意深く聞いてね。3回いいます」
「に、じ。 ni、 ji。ニ、ヂ、、、、」ロボットの発音、たどたどしいです。
学生たちに、書いたものを発表させます。どんなふうに書いてもいいと言ったので、「にじ、にぢ、ニジ、ニヂ、2じ、2時、二時、二次、2字、二字、二児、虹、niji、 nizi、 nidi、
さまざまな表記が出てきます。ここから日本語学のイントロダクション授業を始めます。
<つづく>
2008/05/24
春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(2)ニジ、にじ、niji、虹と二時
スワヒリ語について、興味をもつ学生がいると、この言語が東アフリカ地域の共通言語として、ケニア、タンザニア、ウガンダなどで使われていることばであることなどを紹介します。私にとっては、ケニアは青春の9ヶ月をすごした思い出の地であることなどを話したり。ケニア第1日目に迷子になり、親切に道案内してくれた日本人と結婚してみたら、日本ではまったく親切じゃなかった、という「まいどおなじみまいご話」をしてみたり。
歌って踊れる教師ハルニワ、元ミュージカル女優。
調子にのると、ここらでスワヒリ語の歌「マライカ(私の天使)」を歌いたくなるんですけれど、今年は、教室では歌いませんでした。スワヒリ語の話から、日本語の発音へと話をすすめます。
「私は日本語を話すロボットです」。ロボットは、わざとロボット風な音声で「に、じ」と発音します。性能がよくないので、ことさらに平らなアクセントで発音しているのです。
そのため、二時また二次と書いたり、虹と書く学生が出てきます。
ひらがなやカタカナで書く学生のうち、私の「五十音図」の授業を受けたことのある学生だと、微妙な発音の差をききとって、「にじ」「にぢ」をかき分ける学生もいます。
平安時代まで「じ」と「ぢ」の発音は別々だったのに、鎌倉時代中期から混同がはじまり、室町時代の末には、「じ」と「ぢ」の発音の区別はなくなりました。
一部の方言には残されていますが、現代標準語では、区別はありません。
文字表記の区別はありますが、発音の区別はないのです。
という文字と発音の講義を聞いたことのある学生は、「じ」「ぢ」の発音をわざと言い分けた私の「に、じ。に、ぢ」を、文字に示したのです。
日本語は、時代によって、発音も文法も変化してきたことを話します。授業で扱うのは、現代日本語。
古典日本語については、ときどき「日本語史」として扱うけれど、中心は、現代使われている標準語です。
次に、「虹、二時」の聞き分けができるかどうかのテスト。こん度は、高低アクセントをつけて発音する。そうすると、意味のちがいを聞き取ることができる。
教師:「このテストでわかったこと何?最初のロボットの発音で、なぜ、虹と書いた人と2時と書いた人がいたのでしょうか。そうね、日本語は、音を高く言ったり、低く言ったりすることによって、同じ、ニジでも、意味が変わるよね。
はじめて、日本語を習う学習者にとって、日本語と同じアクセントシステムを持っている母語の人なら、むずかしくないけれど、高低アクセントじゃない、たとえば、英語のように強弱アクセントの人だと、雨と飴、箸と橋のちがいをききとるのが難しい、と感じる人がいるかもしれないね」
<つづく>
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>再録・日本語教師日誌ニジの授業(1)日本語学イントロ
春庭の日本語教師日誌再録を続けています。日本語教師養成講座「日本語教育研究」のうち「概論」の授業実況。
日本語教育と国語教育の区別もついていない、最初の授業で、まず、日本語教師志望の学生に日本語教育とは何かを伝えます。
もっとも、日本語教師になりたいと思って受講する学生は受講生のうち1割もおらず、「卒業単位に組み込めるって聞いたから」「楽に単位がとれそうだから」という学生のほうが多かったのが実情です。しかし、科目に興味のない学生であっても、容赦なく授業に巻き込んでいくのが、春庭のActive Learningです。
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2008/05/23
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(1)ジャンボ
毎年、最初の授業は、どんなふうに始めようか、工夫をする。
特に、日本人学部生の授業、学生の興味をひいて、日本語学や日本語教育について、「おもしろそう」と、感じてもらうためにはどうしたらよいか。
今年は「ニジの授業」を試みました。
最初は例年通り「じゃんぼ!」の挨拶から始めます。
「じゃんぼ!ジナラング、ハルニワ。ジナラコニニ?」
どぎまぎして答えない学生には、にっこり笑いかけて、もう一度繰り返します。
黙っているときは深追いせずに次へ。
感のいい学生がいると、なんどか繰り返されている「ジナラング、ハルニワ。ジナラコニニ?」の意味を推測する人があらわれます。
「ジ、ジナ、え~と、ジナラング スズキ」と、返答あいさつができる。そしたら、拍手、拍手。
「今、みなさんは、はじめてスワヒリ語をききました。ジャンボという挨拶は聞いたことがあるかもしれないね。でも、自己紹介のスワヒリ語は、初めて聞いたと思います。
それでも、鈴木さんは、自分の名前を言うことができました。ジナは名前、ジナラングは、私の名前、ということです」
次に挨拶を受けた学生は、にこにこと「ジナラング、たなか」
教師「ニメフラヒツタオナナ!お会いできてうれしいです」
「このように、まったく知らない言語であっても、何度かきいているうちに、状況から考えて、意味が分かります。今、私はスワヒリ語だけをつかって、鈴木さん、田中さんにスワヒリ語の自己紹介をしてもらうことができました。日本語教育も、この方式で行うことが基本です。
もちろん、わかってもらうための工夫はさまざまにあります。今の場合は、名前を言っているのだということが、学習者に推測がつくという例でしたが、ほかの文型でも、いろいろな「意味をわからせる工夫」があります。
中国語や英語で単語の意味を説明したりすることもありますが、原則、日本語だけで、にほんごを教えていきます。
「今、教師はスワヒリ語だけを発話して、学生が自己紹介が言えるようになりました。これと同じように、日本語だけを使って日本語を教え方を、直接法・ダイレクトメソッドと、いいます。直接法については、またあとで詳しく説明します」
「今日、みなさんはスワヒリ語の聞き取りができました。次に、日本語のききとり、リスニングができるかどうかのテストから始めたいと思います。日本語だから、できるよね」
「え~、私は日本語を話すロボットです。この日本語ロボットは、性能がまだよくないです。日本語をいうから、ノートに書き取ってください。どんなふうに書いてもいいです。注意深く聞いてね。3回いいます」
「に、じ。 ni、 ji。ニ、ヂ、、、、」ロボットの発音、たどたどしいです。
学生たちに、書いたものを発表させます。どんなふうに書いてもいいと言ったので、「にじ、にぢ、ニジ、ニヂ、2じ、2時、二時、二次、2字、二字、二児、虹、niji、 nizi、 nidi、
さまざまな表記が出てきます。ここから日本語学のイントロダクション授業を始めます。
<つづく>
2008/05/24
春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(2)ニジ、にじ、niji、虹と二時
スワヒリ語について、興味をもつ学生がいると、この言語が東アフリカ地域の共通言語として、ケニア、タンザニア、ウガンダなどで使われていることばであることなどを紹介します。私にとっては、ケニアは青春の9ヶ月をすごした思い出の地であることなどを話したり。ケニア第1日目に迷子になり、親切に道案内してくれた日本人と結婚してみたら、日本ではまったく親切じゃなかった、という「まいどおなじみまいご話」をしてみたり。
歌って踊れる教師ハルニワ、元ミュージカル女優。
調子にのると、ここらでスワヒリ語の歌「マライカ(私の天使)」を歌いたくなるんですけれど、今年は、教室では歌いませんでした。スワヒリ語の話から、日本語の発音へと話をすすめます。
「私は日本語を話すロボットです」。ロボットは、わざとロボット風な音声で「に、じ」と発音します。性能がよくないので、ことさらに平らなアクセントで発音しているのです。
そのため、二時また二次と書いたり、虹と書く学生が出てきます。
ひらがなやカタカナで書く学生のうち、私の「五十音図」の授業を受けたことのある学生だと、微妙な発音の差をききとって、「にじ」「にぢ」をかき分ける学生もいます。
平安時代まで「じ」と「ぢ」の発音は別々だったのに、鎌倉時代中期から混同がはじまり、室町時代の末には、「じ」と「ぢ」の発音の区別はなくなりました。
一部の方言には残されていますが、現代標準語では、区別はありません。
文字表記の区別はありますが、発音の区別はないのです。
という文字と発音の講義を聞いたことのある学生は、「じ」「ぢ」の発音をわざと言い分けた私の「に、じ。に、ぢ」を、文字に示したのです。
日本語は、時代によって、発音も文法も変化してきたことを話します。授業で扱うのは、現代日本語。
古典日本語については、ときどき「日本語史」として扱うけれど、中心は、現代使われている標準語です。
次に、「虹、二時」の聞き分けができるかどうかのテスト。こん度は、高低アクセントをつけて発音する。そうすると、意味のちがいを聞き取ることができる。
教師:「このテストでわかったこと何?最初のロボットの発音で、なぜ、虹と書いた人と2時と書いた人がいたのでしょうか。そうね、日本語は、音を高く言ったり、低く言ったりすることによって、同じ、ニジでも、意味が変わるよね。
はじめて、日本語を習う学習者にとって、日本語と同じアクセントシステムを持っている母語の人なら、むずかしくないけれど、高低アクセントじゃない、たとえば、英語のように強弱アクセントの人だと、雨と飴、箸と橋のちがいをききとるのが難しい、と感じる人がいるかもしれないね」
<つづく>