晴徨雨読

晴れた日は自転車で彷徨い、雨の日は本を読む。こんな旅をしたときに始めたブログです。

のび逃走始末記-付録 1/31

2020-01-31 | Dog

2020.1.31(金)曇り、雨 獣道
 獣道(けものみち)とは野生の動物が山中に造る彼らの生活道である。身体の大小によって、トンネル状の小さなものから地形を変えてしまうほど掘り込まれた立派な道もある。登山技術としては「獣道に迷い込むな」と教えられてきて、注意毛嫌いしてきた。それは人間の造った登山道がある事が前提である。けものみちとはまっとうな人間の歩く道でなく、裏街道的な意味合いがあり、松本清張の小説などにも取り上げられている。
 上林(かんばやし)の山々にもかつては登山道も峠道もあったのだが、人が山に入ることがなくなった今、心ある方々が整備した登山道が一部あるばかりだ。林道、作業道も残っているが、ここ数年の災害で崩壊が激しい。発電施設を背後に抱えるこの地では、送電線の保守道が多く、これは整備保守が行き届いていて歩きやすいが目的が登山ではないので、とんでもないところへ導かれてしまう。
 これらの道が無い大部分の地域では、獣道があるのみである。のびの捜索で歩き回った尾根はすべてが獣道だった。もちろん尾根筋などは作業用の山道があったのだろうが、今はその面影もない。獣が主役になっているわけだ。つまり分け入ってはいけないという獣道を4日間歩き回ったわけだが、そこで意外なことに気づいた。獣道には一定の法則が有り、実に合理的に出来ているということだ。
 のびが山中を走るのを目撃したのは、古気良谷で取り逃がした後の数秒だけである。道路脇の石垣から竹林に登り、竹林の中を疾走したわけだが、わたしから離れようとすると竹林を直上するはずなんだが、実際には竹林に入ったすぐのところをトラバースしたのである。

この竹林に飛び込んで、右方向に水平に獣道を疾走した。
 後で竹林に入ってみるとすぐに解るが、それは獣道だったのだ。非常な興奮状態で緊急の事態でも獣道を走るということは、落ち着いたら余計獣道を歩むのではないかと考えた。以降獣道が捜索の対象となったわけだが、そこで様々な発見があった。獣道は稜線、尾根筋には必ず有り、ほぼ直線的に走っているが、障害物や岩場、崩壊地などは実に上手に避けている。斜面の獣道はほぼ水平にトラバースするものが多く、やや斜めに登り下りするものもあるが、垂直に登っているものはない。絶妙なのは平地から尾根に取り付く方法で、まず谷を詰め水が涸れる辺りから緩やかな傾斜で尾根の末端方向へ登り帰しているのだ。それは尾根に取り付くために実に安全で効率的な方法である。尾根の末端は概して急傾斜となっている、谷から登り帰す方法だと距離は長くなっても少ないエネルギーで上り下りができる。そして水場への最短距離となっている。

①尾根、獣道は谷(水はない)から尾根末端方向へ斜めに登っている。末端は急傾斜。
 この尾根への取り付き方法が、人間の造った峠道によく現れる。最後まで水が得られるように造られたのかと思っていたが、どうも本来の獣道を峠道に作り替えたのではあるまいか。大栗峠志古田道の最後に尾根に取り付く部分や和知側の旧取り付きなど典型的である。野生動物の知恵が人間の世界にも活かされているのかとつくづく感心する。

コメント
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