PART3はこちら。
WEの、実はもっと大きな問題点を考えてみます。「そりゃ、へりくつだろー」と思われるかもしれませんが、まあ聴いて。
100人の社員がいる会社を想定します。ひとりの社員が8時間に行う仕事量を「1」、そしてそれに対する報酬も「1」とします。ですからこの会社の一日の仕事量は「100」そして人件費も「100」です。ところが、ある日この会社は「110」の仕事を受注しました。
すると100人で110の仕事を行うことになりますから、報酬も多く払うことになる。報酬も110でしょうか?違いますね。8時間をこえる労働ですから、加えられた10の仕事については1.25を乗じた報酬が与えられなければならない。となると人件費は「100+10×1.25」ですから112.5になります。休日や深夜勤にまで及べば1.35や1.5を乗ずる形になりますから人件費は加速度的に上昇する。
ここで社長は考える。こんなことを続けているぐらいなら、いっそのこと社員を増やした方がコストが安いんじゃないのか、と。ここに「雇用」が生まれます……自分で言ってても笑ってしまうぐらいの単純化ですが、時間外労働の割増率の増加が雇用を創出するのは基礎中の基礎。あらまし当たっているはず。現実には、パート労働者の期限付雇用や、仕事自体を外注することで解決する事例の方が多いわけだけれど。
ここに、WEが導入されるとどうなるか。
110の仕事が舞い込んだとしても、報酬は基本的に100のままなのですから、人を増やそうなどと考えるはずがありません。それどころか、パート労働者などの首を次第に切っていくだろうことが予想されています。
つまり、雇用が増えるどころか失業者が増えていくのです。正式に雇用されていたとしても、社員は過重な仕事をかかえ、過労死や労働災害が……
※前号までにお伝えしたように、労働者の条件がここまで悪いなかで、それでも国際競争力がないとすれば、いったい無能なのは誰なのか?問題はここにあります。
最悪のパターンにすぎない、とお考えかもしれません。しかしWEが、いったい誰にとって得するシステムなのかを考えるうえでは参考にしてもらえるのではないでしょうか。
でも、この法案は国会に提出されないことになったのだから、とお思いかもしれません。ところがどっこい、こんな談話が報じられています。
法案提出を見送ったのは名前が悪かったから――。
一定条件の社員を労働時間規制から外す「ホワイトカラー・エグゼンプション」を巡り、導入を推進してきた経済界でそんな「敗因分析」が広まっている。「高度専門職年俸制」(経済同友会の北城恪太郎代表幹事)といった名称変更案も出てきた。(1月17日)
……ほらね。こんなおいしいシステムを、財界があきらめるものですか。今回提出を断念したのは、単に参院選があるからにすぎません。7月以降にどんな動きになるか、事務職員として注視していきましょう。ほんとに、他人ごとではないのですから。だいたい、除外されている教員をいつも見ていて“自律的に勤務時間を決め、家庭生活と仕事のバランスをとっている”ように見えますか?
【White Collar Exemption おしまい】