売春防止法施行以後に生まれたわたしのような世代にとって、金を払って女性を“買う”という行為は(建前にすぎないとも言えるが)常に違法行為だった。だから為政者に認められた公娼街は歴史の彼方にある。落語や文学、そして映画によって想像するしかない。女性にとって苦界と表現されるように苛烈な場所だったはずだが、だからこそ虚飾としての“粋”が実現された場所でもあったろう。
「さくらん」(’07 アスミックエース)
監督:蜷川実花 原作:安野モヨコ 脚本:タナダユキ 出演:土屋アンナ 椎名桔平 木村佳乃 安藤政信
気鋭の女性写真家(蜷川幸雄の娘でもある)と女性脚本家を起用し、主演は土屋アンナ。加えて音楽は椎名林檎。完璧に正解な布陣。しかしあまりに完璧すぎてあざといくらい。80年代の西武がしかけた“文化臭”みたいなものがプンプンする。画面には、ビードロのなかの金魚が遊女の象徴として常に往来し、着物もアヴァンギャルド。うーん、コンセプトが見え見えすぎて……まるで監督のお父さんの映画のようだ(笑)。
だが後半、世話物ストーリーが佳境をむかえると、そんなことを気にする必要さえ感じない。伏線のすべてがヒロインの死を暗示するが、しかし土屋アンナの魅力がそんなことをどうでもよくしてしまう。好きな作品とはおよそ言えないが、魅力的であることは確かだ。菅野美穂(気合いの入ったベッドシーンを演じています)と安藤政信が作品を締めている。
意外な人たちの特別出演も、なんか西武っぽい☆☆☆★★★
次回の廓話は「洲崎パラダイス 赤信号」を。