事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ソルト」 SALT (2010 SONY)

2010-08-14 | 洋画

Saltposter1  スパイ映画は、マット・デイモンがジェイソン・ボーンを演じる「ボーン・アイデンティティ」によって違うステージに引き上げられてしまった。

 余裕綽々な態度で美女と戯れ、蛮族をひきいる謎の組織とたたかう……なんて幸福な時代は過ぎ去ってしまったのだ。格闘はあくまで“痛い”し、華麗さは度外視して相手を無力化することを目的とする。主人公はみずからの存在意義にとまどい、国家への忠誠は二の次に追いやられる。

 おかげで、能天気なスパイ映画の代名詞だった007も、「カジノ・ロワイヤル」以降のハード路線への転換を余儀なくされている。ある意味、仕方のないことだ。

 ハード路線への転換期において、ちょっと毛色が変わっていたのは「ミッション・インポッシブル」シリーズ。なにしろTV「スパイ大作戦」の映画化なのだから、小粋なアクションと小道具で楽しませてくれるかと思ったら、トム・クルーズが中途半端にシリアスなものにしてしまったので、観客はどうにもとまどってしまった。

 そして、そのトム・クルーズ向けの作品だったはずの「ソルト」は、トムが違う作品を選択したためにアンジェリーナ・ジョリーに主役交代。なんか、すごいですな。

 しかしこれは正解だっただろう。トムが演じたとすれば、いったいどこがミッション・インポッシブルと違うんだということだし、お気楽な変装合戦は、トムが主演ではないからこそ臆面もなくやることができたはず。

 にしてもちょっと脚本は粗い。ジョリーがある扉を開ける手段など、ナポレオン・ソロじゃないんだからと苦笑。ストーリーもチャールズ・ブロンソンの「テレフォン」(監督ドン・シーゲル!脚本はピーター・ハイアムズとスターリング・シリファント!)のいただきだしね。

 でも見せる。

 冒頭の北朝鮮の拷問シーンからアンジェリーナ・ジョリーの肢体見せまくり。陸上部出身者のように走る(わかりますね)ジョリーの活躍のおかげで、どんでん返しが機能していないことなど忘れさせてくれる。すっかりひねくれてしまった観客のほとんどは、あの偽装に気づいてるぞ。

 この「ソルト」が、007シリーズがMGMの経営破綻によって続編の撮影に苦しんでいる現状の突破口になるかは興行成績次第。みんな見てくれよ。なんつってもスパイ映画って面白いじゃないですか。それがハードでも、ぬるくても。

コメント (2)
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日本の警察~その34「同期」今野敏著 講談社刊

2010-08-14 | 日本の警察

51jzg0vwibl_sl500_aa300_ その33「巡査の休日」はこちら

懲戒免職になった同期の公安刑事が、連続殺人の容疑者に。「教えてくれ。おまえはいったい何者なんだ」男たちの前に立ちはだかる最も高い壁―組織の論理。その壁を突破するのは、刑事たちの誇りと絆。現時点での集大成ともいえる最新警察小説、登場。
(「BOOK」データベースより)

警察小説が現代の捕物帖であるとは何度も言ってきたこと。娯楽として、安心できる読み物でありつづける。佐々木譲の警察小説が西部劇を志向しているのはその意味で必然だ。

で、今野敏の場合は、登場人物の考えをすべて地の文で解説しているので親切きわまりない。前半はその親切が仇になってどうにもくどいし、主人公の刑事がワトソン以上ににぶいのでイライラ。同期の公安の失踪について、まずはじめにアンダーカバーとして潜ったのだとなぜ考えないのだろう。

しかし後半は、その公安と刑事警察の違いがストーリーにちゃんとからんでくるのでホッ。警察小説をこれから読み始める人には確かにおすすめだけど、そろそろ今野は“登場人物が何も語らない”作品を書くべきときなのでは?

次回は「リンゴォ・キッドの休日」(矢作俊彦)

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