大女優であることを自他ともに認めている……いや、ギャグではなくて大女優とはそんな尊大で傲岸で、そしてそのことが魅力となっている希有な人種。岡田茉莉子は、もちろんその一員なのだが、どうにもその範疇から逸脱している。
美貌の人気俳優の子として生まれ、だがそのことを父親の映画を初めて見るまで知らされなかった……これが本当なのかはわからないが、岡田時彦の娘という出自が、くじけそうになった彼女を鼓舞したのは確かだろう。
しかしここからが変わっている。なぜ彼女が(鉄壁の製作体制にあったメジャーのなかにいたにもかかわらず)プロデューサーを兼務することになったのか。まわりから頼まれて、と軽くこの自伝でふれているけれど、どう考えてもそんなはずはないのである。
ヒントはこの自伝で“ふれられていない”ことの方にありそうだ。彼女の夫は松竹ヌーベルバーグの雄、吉田喜重。となればもうひとりの代表者である大島渚と、やはり女優の妻である小山明子に何らかのエールがあっても不思議ではない。でも、この長大な書には一行も彼らについての言及はない。こんな強力なプライドのために、女優として監督のコマという位置にとどまっていられなかったのだろうな。だから後年は(ひとりで背負って立つことのできる)舞台中心の活動になったのだろう。
やはり、希有な人種による希有な書だというしかない。圧倒的な面白さなので映画ファンならずともぜひ。「秋津温泉」「人間の証明」「浮雲」だけの人ではないことがよくわかります。
ちなみに、わたしはテレビの「男は度胸」(NHK)で絵島を演じたのが彼女を意識した最初でした。派手な顔!