岸田森、という役者を知らない人も多くなったかも。まずはアウトラインを。
・劇作家にして文学座の創設者のひとりだった岸田國士の甥として、ということはつまり岸田の娘である今日子のいとことして1939年(昭和14年)に生まれる。年齢は今日子のほうが九つ上。
・1960年に文学座の研究生となる。
・1963年に、杉村春子中心の体制に不満を持った芥川比呂志、神山繁、岸田今日子、仲谷昇らが文学座を大量脱退。しかし森は66年まで残る。
・1964年に悠木千帆(いまの樹木希林)と最初の結婚(68年に離婚)。
・1966年にNET(いまのテレビ朝日)「氷点」で、内藤洋子の血のつながらない兄役でテレビドラマ本格デビュー。
以降、数々の名作問題作に出演し、1982年に食道がんで死去。享年43。
「岸田森 夭逝の天才俳優・全記録」は、武井崇というライターが、愛してやまない岸田森のことを徹底的に調べ上げて自費出版し、その増補改訂版が洋泉社(宝島社の子会社)から出版されたもの。全717ページの大冊。彼が出演した映画やドラマのあらすじまですべて紹介してあるという充実ぶり(狂気とも)。読み終えるのに一週間かかりました。
わたしにとって岸田は「怪奇大作戦」「帰ってきたウルトラマン」「傷だらけの天使」(岸田今日子がボスである探偵事務所の部下)の人で、彼が出ているだけで画面が豊饒になるのが子ども心にも理解できた。
彼が俳優仲間やスタッフに愛されていたこともこの書で理解できる。特に水谷豊(傷だらけ~で共演)の傾倒は感動的。
まことに意外だったのは、彼が頭髪関係で悩んでいたことで、「傷だらけの天使」でカツラをとって土下座するシーンをまだ覚えているくらいなのに、まったく気づきませんでした。岸田森はあくまで岸田森だとだけ考えていた。そういう存在。
「知らなかったなあ。岸田森って、死ぬまで三田和代と同棲していたんだね」
「そんなことも知らなかったの!?」
と妻にあきれられるぐらいの知識しかなかったのがお恥ずかしいですけど。