映画監督の才能とはいったいなんだろう。高邁な理論をとうとうと披露しても、いっこうに作品がはずまない人もいれば、なんでもない風景や動きだけで観客をわくわくさせてくれる御仁もいる。
クリント・イーストウッドやハオ・シャオシェン、マキノ雅弘などは、どうカメラを振っても魅了してくれる。そしてわたしにとって、スティーブン・ソダーバーグもそんなわくわく組のひとりだ。
「アウト・オブ・サイト」「エリン・ブロコビッチ」「トラフィック」「コンテイジョン」……役者との関係性、編集の妙などが影響しているんだとは思うけれど、ソダーバーグマジックという気すらする(そう言いながら、わたしはオーシャンズ11、12、13をあまり高く評価はしていない)。
さて、そんな才人がなぜか引退を表明し、4年ぶりのカムバック作。
予告篇ではその面白さがいまひとつ伝わってこなかった。ジェームズ・ボンドじゃないダニエル・クレイグをはしゃがせ、どう見ても演技がうまそうじゃないチャニング・テイタムと、「フォースの覚醒」で全然美男じゃなくてこれから大丈夫なのかと思わせたアダム・ドライバーが主演。うーん。
ところが、微妙な間(ま)のやりとりや、画面のどこかに必ず動いている物体があるなど、こんなに躍動してる映画だったとは!
画面に横溢するのはアメリカ、アメリカ、アメリカ。典型的なプアホワイトである兄(テイタム)と、イラク戦で左手を失った弟(ドライバー)が、爆破のオーソリティであるクレイグを脱獄させ、カーレース会場から大金をまきあげる……計画は考えてあるもののけっこうずさんで、こんなんで成功するわけない……あ、でも“ラッキー”だから……ところが最後の最後にもうひとつひっくり返して客を驚かせる。こういうタイプの映画を待ってたんですよ。
もっとも損をしたのは誰か、もっとも得をしたのは誰かなど、徹底的に客をだましてくれる。スピリチュアルが入ったカーレーサーのエピソードがやけに長いのはなぜかとか、テイタムの傷を治療するボランティア団体が「寄付に頼っているのよ」なんてセリフが挿入されているのまで計算づく。
しかもエンドロールでは
And Introducing Daniel Craig as Joe Bang(役名が今回もJ.Bなのね)
とかます悪ノリぶりもうれしい。拾いもの、という表現はソダーバーグに失礼だが、もう引退するなんて言わないでこれからもいっぱい撮ってください。せっかく映画の神様に愛されているんだから。