「ロボコップ」「トータル・リコール」「スターシップ・トゥルーパーズ」……ポール・バーホーベンの映画はいつも“過剰”だった。ハリウッドのコードから簡単に逸脱するというか。
「氷の微笑」もそうだった。この「ELLE エル」との相似が語られるのは題材からして仕方のないところだけれど、出来の悪いミステリにおさまらない何かがあの映画にはあったではないか。まあ、シャロン・ストーンのお宝を一般映画のなかで披露するという禁じ手も含めて。
「エル」もまた、ファックシーンから始まる。覆面をかぶった男によるレイプ。このシーンは作品のなかでヒロインの妄想も含めて何度も変奏される。予告篇では、この犯人がいったい誰なのかをめぐる謎が中心であるように意図的にミスリード。これも「氷の微笑」の影響か。
しかし話は次第に薄ら寒いものになっていく。ヒロインのエル(イザベル・ユペール)の過去、レイプされたのに不用心なままの館(もんのすごい豪邸)、地下室、友人の夫との不倫などが静かに語られ、観客は次第に不安になっていく。この女はいったいなんだ?と。
Wikipediaによれば、この役にはニコール・キッドマン、シャロン・ストーン、シャーリーズ・セロン、マリオン・コティヤールなどが想定されたらしいが、ここはイザベル・ユペールで大正解でしょう。60歳をすぎてここまで盛大に脱いでくれるのも立派なら、局部からの出血、マスターベーションや、
「わたし、年齢のわりには締まりがよかった?」
などの過激なセリフをこなすのは彼女以外に思いつかない。「バルスーズ」(きんたま、って意味)のチンピラねえちゃんが「天国の門」「ピアニスト」(実はストーリーはこの映画に近い)を経過してここまで来たか。
そしてこんな作品が許されるのは、バーホーベンやユペールが放つヨーロッパの香りのおかげだろう。彼らの過剰さとは、ハリウッドが漂白されていることを逆に証明している。