破天荒な天才である父親に翻弄される娘……わたしは新藤兼人の「北斎漫画」を見ていることもあって、葛飾北斎の娘が主人公とくればそういう展開になるのだろうと勝手に思っていた。
違いました。全然違いました。
映画「北斎漫画」においては北斎は緒形拳、娘は田中裕子が演じ、長命だった北斎の生への執着が描かれたが、こちらのアニメ版は娘のお栄の意志的な表情に代表される、ひとりの女性が世間に立ち向かうさまがメイン。
百日紅(さるすべり)は長く花が咲くことで有名。北斎の長命さと、「人生は長い祭りじゃ」とするお栄のどちらをも象徴しているのだろう。
原作の漫画は杉浦日向子。NHK「お江戸でござる」に出ていたあの上品な女性です。うちの娘の名前は彼女からいただきました。若くして亡くなったのが惜しまれる。
監督は「オトナ帝国の逆襲」「河童のクゥと夏休み」の原恵一。さすが。
目が見えない末娘と正面から対峙できず、人間的な弱さも見せる北斎の声は松重豊、お栄は杏。これがね、いいんですよ。声優は他にもまことに豪華で、濱田岳、高良健吾、美保純、筒井道隆、立川談春、そして矢島晶子。しんちゃんです。傑作です。制作はProduction I.G.