事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「田舎でロックンロール」 奥田英朗著 角川書店

2015-10-20 | 音楽

中学生のころ、同級生が酒田でいちばん大きなレコード屋(死語)に行き「バングラデシュ・コンサート」をレジのお姉さんに渡したら、

「坊っちゃん育ちだの」

と言われたと怒っていた。LP三枚組、確か6000円近くしたはずなので、彼にとっては清水の舞台から飛び降りるような決断だったのだが。

この本は、1959年10月生まれの奥田英朗が、岐阜県の各務原ですごした中学高校での音楽をめぐるエッセイ。奥田も、LPを買うのにさんざん苦労している。

それにしてもわたしと共通点ありまくり。

・わたしは1960年2月生まれなので同学年

ソニーのラジオを買ってもらったことでオトナになった

・コンサートなどほとんど行われない田舎で育つ

・73年1月のホノルルにおけるエルビスの生中継ライブに(悪い意味で)気が遠くなった

なにより、聴いていた音楽がほとんどかぶっている。BTO(バックマン・ターナー・オーバードライブ)やウィッシュボーン・アッシュ、ビョルンとベニー(アバの前身ですよ)など、もう誰も思い出さないような名前のつるべ撃ち。そりゃ、若い読者は敬遠するし、1959年2月生まれの山田詠美は絶賛するはずだ。

奥田少年が特異なのは、興味の対象が短期間に変わっていくところ。天地真理や南沙織などのアイドルに半年で見切りをつけ、フォークに走らず、徹底して洋楽一本やり。

ポップスとロックの区別もつかなかったのに(当時は厳然とこのふたつは相いれない曲調だった)、ハードロックにめざめ、ギターは速弾きが命だとリッチー・ブラックモアに傾倒し、名古屋にやってきたクイーンの最初の日本公演を堪能、そして……

「ラバーソウル」に始まり、「ホテル・カリフォルニア」「エイジャ」で終わったとする、ロックの熱い時代に十代を過ごせたことは幸せだったとの述懐は渋い。わたしはその後の産業ロックもまた好きなのだけれど。

「バングラデシュ~」を買った同級生は三年前に病気で死んでしまった。でも若いころにジョージやクラプトンのギターを聴いた思い出は、確実にあいつの財産になっていたはず。音楽が好きでよかった。ロックが好きでよかったなあ。

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明細書を見ろ!2015年10月号 標準報酬制

2015-10-19 | 明細書を見ろ!(事務だより)

2015年9月号「人事院勧告2015」はこちら

前年度に予告していたように、今年、公務員についての最大のイベントは「年金一元化」です。その手始めとして、この10月1日から公立学校共済組合員も厚生年金に加入しました(期限付職員は前から厚生年金加入者)。

と言っても保険証が変わるわけでもなく、先月までと同じ生活がつづいているので何が何だか、なのが正直なところでしょうが、本日よりあなたの生活に直接の変化があらわれています。

その変化とは、さあ明細書を見てください。中段にあたらしく「標準報酬」という欄がもうけられています。そこに「等級」「月額」とあり、それぞれ数字が印字されています(期限付の場合は教育事務所経由で決定されているからか印字されていません)。

これはなに?

先月までは、月々の掛金は給料月額に比例して支払うシステムでした。しかし今月からは、給料だけでなく、実際に受け取っている各種手当も加味してランキング。そして該当する等級(30級まであります)に応じた掛金を払う方法に変わりました。これが、標準報酬制と呼ばれるものです。

理屈はわかったけれども、実際に掛金はどうなったか。気になるのはそこですね。わたしも知りたかったので職員全員の掛金をエクセルにぶちこんで前月の分と比較してみました(ひまなのか)。そうしたら、意外な結果が出たのです。

・程度の差はあれ、多くの職員の掛金は下がっている

・管理職はほぼ同額

・行政職は増額

・教育職のなかにも増額になった人がいる

そしてそして

・T島の職員は壮絶に増額になっている

……これはいったいどういうことか。実は、稼働初年度である今回に限り、今年の6月の報酬だけで判断されたため

・行政職の場合は、残業が多い月の翌月だったので時間外勤務手当が影響した

・部活動を5月にがんばった人の特殊業務手当が高額になったことが影響した

……ということだと思います。T島の場合は、もちろんへき地手当や準へき地手当などのせいでしょう。しかしこんなことだと、報酬を判断する月(来年からは4、5、6月)が高額な人は損じゃないか!と怒る人もいると思います。でも物事はそう簡単ではありません。

「掛金が高ければ、受け取る年金額も高くなる」

というのも事実だからです。いずれにしろ、全国4千万人のサラリーマンはこのルールでやっており、共済組合もそうせざるをえなかったというところでしょうか。

画像はぴちょんくん号
フォルクスワーゲンユーザーとしてはクルマの話はさけたいところ。でも、先日わたしのうしろにこの車がついたときは本当にたまげた。ダイキンの営業車らしいです。オリジナルは全国に3台しかないとか。いい経験でした。にしてもなにやってんだVW。

2015年11月号「え、“今年”は差額は出ないの?」につづく

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ほりぃ散歩Vol.08 台町ほろ酔いはしご酒2015

2015-10-18 | まち歩き

Vol.07「目の前が日本海」はこちら

きのうは台町ほろ酔いはしご酒というイベントが港座も協賛して行われましてよ。1000円払えばワンドリンク付きでその店自慢のお料理が味わえる。

ま、素人さんには敷居の高いディープな飲み屋街である台町に、どうやって彼ら彼女らを引っ張り込もうかという深謀遠慮が(笑)

メニューはこうなっていた。

居酒屋wark……から揚げセット

韓国家庭料理「仁川」……チヂミセット

スナック バイタル……芋煮(庄内風)セット

酒田倶楽部……揚げせんセット

小鍋屋おざき……つまみ3種類セット

スナック ラボンヌ……三店盛りセット

焼酎バー 如香(じょか)……モツ煮セット

RJ……たこ焼きセット

UNIONJACK COLLECTOR……フィッシュ&チップスセット

OVERFLOW……おにぎりセット!

……モツ煮セット

ボストンクラブ……串カツセット

季の花(ときのはな)……ベトナム風カレーとパンセット

NEW シャム……揚げじゃがセット

Mischievous Boy……お蕎麦セット

居酒屋かなりあ……芋煮(山形風)セット

おおおお、壮観だなあ。

港座上映会を終え、さあ参戦するぞ。まずはお腹がすいていたので「如香」でモツ煮。先月痛風で苦しんだというのに。天狗櫻という芋焼酎がたいそうおいしい。



第二弾は萩。またしてもモツ煮。痛風はどうなってもいいのか(T_T)あ、写真撮るの忘れた。

第三弾は初めて入った「かなりあ」なんと90年代初頭の浅野温子がお店をやっていたとは!



そして〆はユニオンジャックコレクター。フィッシュ&チップスすごくおいしかった。わたしの前世はイギリス労働者階級ですから。焼肉を食べるときは韓国人、パスタのときはイタリア人になるんですけど。


とても満足。次回はみなさまもぜひ。どの店も、ちょっとずつプラスアルファの違ったサービスをしてくれているんです。さすが、飲み屋の街でございます。

Vol.09「白ばら閉店」につづく

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極私的朝ドラ史PART25 さらに低迷期

2015-10-17 | テレビ番組

PART24「ちりとてちん」はこちら

めちゃめちゃに面白かった「ちりとてちん」だったが、視聴率の低迷はつづく。というより、ここから本格化したのである。

2008年前期は榮倉奈々と西田敏行で「瞳」、後期は三倉茉菜・佳奈の「ふたりっ子」姉妹を再起用した「だんだん」、2009年前期は、わたしの大好きな多部未華子で「つばさ」とどんどん下がり続け、ついに2009年後期「ウェルかめ」(主演倉科カナ)で平均視聴率13.5%まで降下。


もちろんこれにはさまざまな要因がからまっている。素人でも予想できるのは

・もう昔のように専業主婦が8時15分にテレビの前にしっかりすわって見てくれる時代ではなくなった(女性の就業率のアップ)

・テレビ全体の視聴率が、ネットやゲーム、ケータイにおされて低下している影響をもろにうけた。

・お昼の再放送だけでなく、朝や夜にBSで放映されるために、総合テレビの視聴率が相対的に低下した。

・かつて視聴者の王様だったF1層(20才から34才までの女性。購買力が強いのでスポンサーは彼女たちを中心に番組をつくってほしいと思っている)が、物理的に数が減り、かつてのF1層が高齢化しただけの視聴者分布なので、女性の一代記などの王道ドラマが好まれない(彼女たちは月9好きだった)。

……NHK自身が誰よりも危機意識をもっていたはず。大河ドラマと朝ドラは、受信料獲得のために“みんなが見ている”存在でなければならないからだ。

ここでNHKは大きな賭けに出た。放送時間を変更したのである。8時15分から8時ジャストへ繰り上げ。だいじょうぶかNHK。以下次号

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極私的朝ドラ史PART24 ちりとてちん

2015-10-16 | テレビ番組

PART23「低迷期」はこちら

ただし、次の2006年後期「芋たこなんきん」もオーディションなしで女優は選択されたけれども視聴率はさらに下降した。その女優とは藤山直美(笑)。47才の朝ドラ単独主演はいまに至るも破られていない。

つづく2007年前期の「どんど晴れ」はまったくおぼえがなく、これで朝ドラとは無縁になっていくのかと思っていたところにいきなり「ちりとてちん」登場!

これまで、東京制作と大阪制作では歴然と大阪の方が質的にも視聴率的にも数段落ちた(怒られそうだな)。だから今回も、大好きな落語のお話とはいえ、なにも期待していなかった。ちらちら眺めていても、相手役の男はおよそ美男子とはいえず、塗箸がどうしたのと辛気臭い話だなあと。

ところが、「この1冊」の読者たちがすでに“発火”していた。ここでリプライズ。

普通の勤め人ならばNHKの朝ドラを毎日チェックなんて無理かも。でも私はBSで朝7:30~と夜7:30~の再放送を毎日欠かさず見ています。 最初、私と子ども2人がはまって見ていましたが、今では夫も必ず出勤前に見て行きます。一家でお気に入りの番組です。

見ていない人は、途中からでもいいのでぜひ見た方がいいです。脚本が絶妙に面白く、毎日必ず笑えるツボがあり、それでいて泣ける場面もあり、朝からウルウルくることも……。

ヒロイン・貫地谷しほり(スウィングガールズ・上野樹里の友人役)の演技も好感もてます。こんなにおすすめの「ちりとてちん」ですが、視聴率がいまいちとか。従来の朝ドラとはタイプが違う面白いドラマなのに……。「ちりとてちん」を知らないのは損!視聴率がわるくても盛り上がらないと!!
「わたしのお気に入りBookmark4」より

……この読者が言うように、大阪制作では視聴率最低を更新。しかしその後DVDの売り上げが過去最高を記録するなど、大人気。妻も

「この、そうそうさんがいいのよ」

と徒然亭草々を演じた青木崇高と、ヒロインの母親役の和久井映見を激賞。わたしも「新選組!」での密偵山崎役が印象的だった桂吉弥が出ていてうれしかった。日本でいちばんの美人、江波杏子も出てるしね。

そしてなにより貫地谷しほり!他の朝ドラヒロインとは真逆に、ついくじけてしまうビーコ役が泣かせた。斉藤由貴につづく、日本のコメディエンヌ誕生である。以下次号

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「近代日本の政治家」 岡義武著 岩波書店

2015-10-15 | 国際・政治

伊藤博文、大隈重信、原敬、西園寺公望、犬養毅……さすがにこちらも年齢を重ねたので、彼らを単純に“偉人”というくくりではとらえていない。それぞれに政治的、性格的弱点をかかえながら、近代日本の剣ヶ峰を“しのいだ”あるいは“殺された”経緯を叙述したこの歴史書はひたすら面白い。

当時から為政者は壮絶な批判を受けてきたわけで、それも故なきことではなかったのだろう。それにしたって大隈重信はボロクソに言われています(笑)

彼らの時代を、大河ドラマで真正面から描くのはまだまだ無理だろうか。背後に、山縣有朋という巨魁がいて、彼の意向が歴史を大きく動かしたことは確実である以上、彼を主役に……あ、無理か。彼には宮中某重大事件という微妙な問題があるからなあ。

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極私的朝ドラ史PART23 低迷期

2015-10-14 | テレビ番組

PART22「こころ」はこちら

2003年後期の「てるてる家族」は、なかにし礼の原作をドラマ化。モデルになっているのは彼の奥さん姉妹だ。なかにし礼の奥さんって……石田ゆりだ。ゆり子じゃないですよ、ゆり。いまの若い読者は知らないだろうなあ。いしだあゆみの妹で、なかにし礼と結婚したときは、うわー騙されちゃったんだろうなと思ったものでした(笑)。

ゆりは四人姉妹の末っ子で、若草物語でいえばエイミー。朝ドラでは石原さとみが演じた。次女ジョーがいしだあゆみ。SPEEDでは“美人担当”だった上原多香子というなるほどのキャスティング。三女べスが上野樹里。おだやかな長女(のちにグルノーブルでフィギュアスケートの日本代表になる)を宝塚のトップだった紺野まひる。母親に浅野ゆう子、父親が岸谷五朗。なかにしであろうと思われる男性に錦戸亮がふんしている。

……なんか、面白そうじゃないですか。脚本も気鋭の大森寿美男だし。「64(ロクヨン)」と「クライマーズハイ」(TV版)を書いたひとなんだから……しかし平均視聴率が初めて20%を切るなど、人気は低迷。しかし熱狂的なファンがいたとか。逆に、だからこそ朝ドラとしてはしんどかったのかもしれない。同様のことが、ほぼ十年後の「純と愛」でも起こるのだが、それはそのときに。

以降も低迷はとどまるところを知らず、「天花」(主演藤澤恵麻)、「わかば」(主演原田夏希)「ファイト」(主演本仮屋ユイカ)、「風のハルカ」(主演村川絵梨)とつづく。

女優もなかなかブレイクしない。「スウィングガールズ」でペットボトルを吸いつぶした本仮屋ユイカもいまひとつ。ただし次の「純情きらり」で少し人気を持ち直す。

主演は、NTTドコモ東北のCMで東北人にはおなじみだった、というかすでに「NANA」でブレイクしていた宮崎あおい。わたしはこのあたりで、まっさらのど新人に近い女優の起用はそろそろ朝ドラはやめたらどうだと思っていた。リスクが大きすぎる。

それは体力的、精神的にもまだ女優になりきれていない若い女性に半年以上の拘束はきつすぎるからだ。その点、宮崎は子役時代から芸能界には慣れていたし……ただ、以降も朝ドラの低迷はつづく。以下次号

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港座通信 台町ほろ酔いはしご酒2015

2015-10-13 | 港座

今年もやりますはしご酒。10月17日(土)、17時から20時までの間、協賛する各店で、おつまみとドリンクのセットメニューが1000円でお楽しみいただけます。それぞれのお店が工夫をこらしていますのでぜひ参加を。

ということでほろ酔い前に港座で映画もどうぞ。

「野良犬」は、黒澤明が初めて犯罪映画にいどんだ意欲作。拳銃を盗まれた刑事(三船敏郎)と、盗んだ若者(木村功)の相克。

「不運は人間を叩き上げるか押しつぶすかどっちかだ。君は、押しつぶされる気か?」

先輩刑事(志村喬)はそう三船を叱咤します。これは、戦争という不幸から日本人が立ち直れるのか、という陰のテーマを象徴しています。

「黄金狂時代」The Gold Rushは、文句なくチャップリンの代表作。飢えのために靴を食べるシーンで、途中から至福の表情になる演技は、チャップリンの喜劇俳優としての凄みを感じさせます。

さあ、映画がはねたら、台町でほろ酔いを。

10月17日(土)

大劇場 12:00 15:00 「野良犬」

小劇場 12:00 15:00 「黄金狂時代」


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「探偵・竹花 帰り来ぬ青春」 藤田宜永著 双葉社

2015-10-12 | ミステリ

60代の竹花シリーズはこちら

1980年式のスカイラインGTに乗り、身の危険も顧みず事件にのめりこんでいく私立探偵。いかにも、いかにも。

でもこの竹花が他の探偵と違っているのは、62才という年齢だ。ハードボイルドの主人公としては異例に高齢。でも、現在の日本ではどんぴしゃの設定といえるかもしれない。少子高齢化の世の中ですし、日本の高齢者はめちゃめちゃ元気ですしね。竹花の恋人も若いです。うらやましい(笑)

美術品強盗のお話に見せて実は……このツイストは、しかし読者としてよく理解できないところだった。なぜ急に○○のお話になったんでしたっけ?

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またまたまたまた赤ひげ

2015-10-11 | 邦画

PART4はこちら

心中をはかった長次の一家。赤ひげや保本は必死で治療する。しかし長次の母親(菅井きん)は言う。

「みんなでそれでいいって決めたんです。どうして助けるんですか」

それでも二人は医師として懸命の治療をつづける。おとよや賄いの女中たちは、死の世界から呼び戻せるという言い伝えを信じて、井戸の中に向かって長次の名を呼ぶ……

貧困と無知とのたたかいという作品のテーマにぴたりとあったエピソード。すばらしい。特に子役のふたりのからみは絶品。泣かせていただきました。

保本は自分を裏切った女性を許し、彼女の妹と内祝言をあげる。ここにすごいキャストが用意されている。保本の父親が笠智衆、母親が田中絹代。妻となるまさえに内藤洋子、その父親が(シラノ・ド・ベルジュラックで高名な)三津田健、母親が風見章子である。なんのお祭りですかってくらいの豪華出演陣。

この映画には他にも志村喬、土屋嘉男、柳永二郎なども出ていて、なにしろ杉村春子がコメディリリーフで登場するのだからぜいたくなことだ。

全体的に演劇的なセリフ回しが最初は気になるけれども、三船敏郎、加山雄三という東宝二枚看板が、活動写真としての味を見せてうれしい。

各エピソードはこのように“小さいお話”だ。だから小津のように静かに静かに描くことももちろん可能だったろう。しかし黒澤はそうしなかった。雨は叩きつけるように降り、風は風鈴をいっせいに鳴らす。小さな話を大きく描いたのである。若いときはそのことへの反感が少しあったかもしれない。

しかし、二年という長期間の撮影で、これだけの豪華キャストがみごとな演技を見せたのだから文句のつけようがない。こんなに何度も特集したのは、終映後に座席で呆然とするくらいに感動したからです。

ただひとつ残念なのは、これ以降、黒澤映画に三船敏郎は出演できなくなり(三船プロの経営のため)、製作費を集めることに黒澤は汲々としなければならなくなったこと(赤ひげのためにも黒澤は自宅を抵当に入れたのだが)。ぜいたくな映画づくりの、最後の作品だったのである。

また黒澤映画が上映される機会があったら、何をおいても駆けつけるぞ。たとえわたしが、杖をつく年齢になったとしても。

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