マダラヤンマ Aeshna mixta soneharai Asahina, 1988 は、ヤンマ科ルリボシヤンマ属である。ルリボシヤンマ属は、国内には以下の4種が生息しており、2種については既に紹介しているが、今回はマダラヤンマについて、先日、かなり近距離での長いホバリングとやはり近距離での静止、そしてオスと同じ瑠璃色の腹部斑紋をもつメスを撮影できたので、過去に撮影した写真と合わせてまとめた。
マダラヤンマは、体長約65~70㎜とルリボシヤンマ属の中では小型だが、成熟したオスは腹部斑紋と複眼が瑠璃色となり、とても美しい。メスは、地色は淡い褐色で胸部と腹部には黄緑の紋があるが、本州に生息するものには、複眼と腹部斑紋がオスと同じ瑠璃色となる個体もいる。
日本特産亜種であり(原名亜種はヨーロッパからシベリアにかけて分布)、北海道西南部、東北地方全域と関東地方の一部、石川県、長野県に分布しており、カンガレイ、ヌマガヤ、フトイ、ヒメガマ、ヨシなどの抽水植物が繁茂する池沼に生息するが、生息地は極めて局地的である。成虫は、7月下旬から8月中旬の間に羽化し、その後、未熟な個体は羽化場所を離れて林などで生活し、およそ一ヵ月で成熟すると池沼に戻ってきて繁殖行動を行うため、池沼は産卵基質であるヒメガマが豊富に生育し、未熟期間を過ごす林(長野県においては、果樹園)に近いことが、生息環境の必須条件となっている。
環境省RDBで準絶滅危惧種として選定されており、埼玉県、群馬県では、絶滅危惧Ⅰ類、岩手県、山形県、新潟県、富山県、石川県で絶滅危惧Ⅱ類に、栃木県、長野県では準絶滅危惧種に選定している。また、栃木県や長野県では、市の天然記念物に指定している所もあり、ある時期に水を抜いて池干しし、幼虫(ヤゴ)の外敵となるフナを駆除する等の保護・保全活動が行われている。
マダラヤンマは、地域差もあると思うが、午前7時頃から活動を開始し、成熟したオスは、抽水植物群落の内部や外縁に沿って静止飛翔(ホバリング)を交えた飛翔をしながら探雌する。ホバリングは、長いと1分近くにも及ぶ。メスを見つけると交尾態となり、その後メスは、水際の枯れたヒメガマ等に産卵する。
午前9時を過ぎると、葉上に静止する個体も出てくる。通常ヤンマ科は枝等にぶら下がる姿勢で止まるが、マダラヤンマは葉上に身体を水平に近い角度に保って止まるのが特徴である。
活動時間と行動は、その日の天候や気温によって変わるようである。晴れて暑い日は、午前10時を過ぎると抽水植物群落の内部に隠れて姿を現さなくなり、夕方近くになると、再び活動を開始する。曇りで気温の変化の少ない日は、午前の活動時間が長くなるようである。
関連記事:「マダラヤンマの産卵」では、オスのホバリングと静止写真のほか、交尾態と産卵の様子も撮影ているので、本記事と併せてご覧いただきたい。
特記事項:当ブログでは、すべての記事において保護・保全上、撮影場所は明記しておりません。本種の場合は、撮影場所は私有地であり、地主様のご厚意により立ち入りが許可されておりますが、マナーの悪い撮影者もいるため、今後、撮影や観察ができなくなる可能性もあります。また本種は、生きた個体や標本が数万円で取引されており、採集が絶えません。絶滅危惧種であるマダラヤンマの保護・保全のためにご理解いただきたくお願い申し上げます。
以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。
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いやー、マダラヤンマの交尾態の写真素晴らしいですね、眼福です。
ところで1つお願いしたい事が有り、「マダラヤンマの標本が数万円で取引されている」という記述を見たのですか、そのソースを明らかにして頂けないでしょうか?
当方、採集と標本の作製も嗜んでいるのですが、今までマダラヤンマの標本が数万円で取引されているのを見た経験が無く、標本が取引されているのも、個人コレクションの処分等で安価(1頭1500円程度)に引き払われているのを2度見た程度です。
そして「数万円で取引されている」という事実が有るのならば、個人の楽しみの範囲を越えており、商業的な採集行為がされていると思えます。個人的にもそのような人間が居るのならば許せないですし、採集家界隈の中でも、その人物を探しだし注意せねばなりません。
また、仮にこのような事が有ったという証拠が無かったのならば、上記の通り金銭目的での採集家がいるとの誤解を招いてしまい、世間からの採集家に対するイメージダウンに繋がりかねません。
と長くなってしまいましたが、以上のような理由が有りますので、どうかソースを明らかにし、その事実を公表して頂くようお願い致します。
言葉では表せない位に美しく
ホバリングしている姿を撮られているのを
見て感動いたしました。
飛んでいる姿を見て素晴らしい様子を
写真に撮るだけで十分で
採集したり、標本を作るなんて論外と思いますが・・・
拙いブログをご覧いただき、
またコメントまで頂戴しましてありがとうございます。
さて、ご要望の件につきましては、
記述は簡略しておりますが、事実の内容でございます。
しかしながら、違法性が認められないため、当ブログでは、第三者の情報の公開及び提供は、差し控えたいと存じます。
様々なご意見やご指摘は、真摯に受け止め対処対応して参る所存でございます。
今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
コメントをありがとうございます。
私の専門のホタルで言えば、販売目的の乱獲が絶えません。
しかしながら、条例のない地域では、乱獲しても違法ではありませんし、高値で販売しても違法ではありません。
このようなケースはどうすることもできません。
販売目的ではないとしても、一匹だけならいいだろうという考えのもとで観賞用に持ち帰っても、
千人が同じことをしたら、その場から千匹いなくなり絶滅してしまうかも知れません。
他の昆虫、特に絶滅が危惧されている昆虫も同様であると思います。
研究のためだから・・・と言って千人の研究者が1匹ずつ捕獲したら、千匹いなくなります。
採集の目的が、販売、研究、個人のコレクションであれ、その場から採集された分だけ減少するのです。
写真のマダラヤンマの美しさは、生きているからこその美しさです。
これはこれは こんなきれいなトンボがいるとは知りませんでした。
コメント頂きありがとうございます。
昆虫の中には、「動く宝石」とも「飛ぶ宝石」とも言われる種がいます。
このマダラヤンマは、ご覧のようにとても美しいトンボです。
チョウの中にもそのような種がたくさんいます。
少しでも、ご興味を持っていただければ幸いです。
先日はお世話になりました。
マダラヤンマ、なんと美しく撮られていることでしょう…。溜息が出ました。
自分は交尾シーンは見られず、ちょっと残念です。もう少し早出しないと無理でしょうか。
コメントありがとうございます。
そして、先日はお疲れさまでした。
この日は、朝7時過ぎには交尾態が観察できました。
オスも朝から探雌していますから、
活動時刻から張り込めば、チャンスも多くなると思います。
Part
http://www.tokyo-hotaru.com/blog/
にも色々と掲載しておりますので、
ご参考になれば幸いです。
また、どこかにご一緒しましょう。