トビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea (Burmeister, 1839)は、ヤンマ科(Family Aeshnidae)トビイロヤンマ属(Genus Anaciaeschna)のトンボで、成虫はオスメスとも体の地色は赤褐色で、和名の「鳶色」はここに由来する。性成熟したオス成虫の複眼は淡青色で、同属種のマルタンヤンマの深い青色の複眼とは違った魅力がある。日本では沖縄諸島以南の南西諸島に分布し、平地から山沿いの抽水植物が繁茂する湿原や、水田などに生息している。
昨年は、日の出前に目前で数十頭が飛んでいる様子を見ながら、証拠にもならない飛翔写真1枚しか撮れなかったトビイロヤンマ。その悔しさから、今年も沖縄に行くことにした。昨年も3泊4日であったが、初日と最終日は東京と沖縄間の移動のみ。また、ホタルが撮りたかったためにホテルを那覇市内にしたため、沖縄北部との移動にも時間を要し、思うような探索ができなかった。その経験とロケハンを生かして、今年は十分に活動できるスケジュールで臨んだ。ちなみにホテルは名護市内のグリーンリッチホテル名護にした。主要な場所へは、いずれも30分ほどで行ける場所である。
5日。那覇空港に11時過ぎに到着し、早速レンタカーで北部を目指す。昨年、生息を確認した場所には15時過ぎに着き、周囲を散策しながら夕暮れを待った。那覇には妹夫婦が住んでいるが、昆虫に詳しいわけではない。他に親しい知人がいるわけでもないので、すべて自力で環境を見ながら「ここならいるだろう」という勘で見つけた生息地である。
トビイロヤンマは、黄昏飛翔性が強く朝より夕方の方が活発に摂食するという。その情報を頼りに待ったが、日が暮れても1頭も飛んでこない。かなり風が強かったからか?確かにエサになる小さな虫も飛んでいない。風が強ければ、風上に向かってホバリングすることを期待したが、結局、20時を過ぎても1頭も現れなかった。
発生時期の狭間なのか、あるいは生息数そのものが減少したのか、幸先の悪さを感じながら、レンタルしたホンダのNワゴンで車中泊。(ホテルの宿泊予約は、もともと2日間だけ)昨年は朝5時から飛んでいたので、翌朝は3時半に起きて4時から探索開始である。日の出は5時40分。本来なら、まだかなり暗い時間なのだが、満月から3日目の明るい月があり、自分の影が見えるほどであった。5時半になっても、まったく出てこない。月明かりの影響なのか、やはりいないのか?
5時50分。やっと出てきた。2頭のオスが高速で目の前を飛び回る。とても撮影どころではない。太陽も当たってきた。昨年の経験では、太陽が当たる時刻にはあっという間に姿を消してしまう。1頭を注意深く目で追っていると、茂みに下りて行くのが見えたので、慎重に近づいてみると、枝先に止まっているではないか!このチャンスは二度とないかもしれないと思いながら、カメラを向けた。これぞトビイロヤンマという写真を残しておきたい。まるで沖縄のサンゴ礁の海のような複眼の色。わずか1分程度で飛び去ってしまったが、前日と合わせて7時間も汗だくになりながら、ただひたすら待った甲斐があった。ホバリングや交尾、産卵といった生態写真ではなく図鑑的写真だが、特徴がよくわかるものを撮れたと思う。尚、トビイロヤンマは、初撮影の種で、ブログ記事「昆虫リストと撮影機材」「蜻蛉目」で107種類目となる。
トビイロヤンマは、環境省版レッドリストで絶滅危惧ⅠB類に選定されており、絶滅の危険度が極めて高い。その原因は水田の減少であると言われている。沖縄では、明治末期には9,000ha近くあった水田が、1985年以降は871haとピーク時の1/10以下まで減少し、次々とサトウキビ畑に変わっているのが現状である。トビイロヤンマの複眼は、水色の涙で染まっているのかも知れない。
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