ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

野川に生きるホタル

2024-06-01 21:02:04 | ゲンジボタル

 野川に生きるホタルを今年も観察し、写真と動画を撮ってきた。水面に光が映る様子を残すという目的は達成できた。

 野川は、東京都調布市、小金井市、三鷹市にまたがる都立野川公園の北地区を流れており、ゲンジボタルが生息している。元々は、隣接する野川公園自然観察園内で発生していたが、今ではホタル自ら生息範囲を広げて野川の本流でも発生するようになった。野川は、冬季に渇水することがあるが、年々、ゲンジボタルの生息に不可欠な物理的環境が整い、ゲンジボタルの飛翔数も増加している。西日本型のゲンジボタルではあるが、優雅な光景に心から癒される。
 私の自宅から車で20分ほどで行ける場所で、昨年は5月28日に訪れた。今年は29日に訪れたが、すでに発生のピークに達していた。野川のゲンジボタルは、発生が都内で一番早い自然発生地の1つであり、例年5月下旬に見頃を迎える。4月16日のブログ記事「ほたる出現予想(2024)」で、当地の発生予想として、出現開始日を5月29日、ピーク日を6月7日としたが、これが大ハズレ。野川自然観察園ボランティア有志の皆さんによる調査では、5月10日に1頭の飛翔を確認されており、5月24日には、ピークに達したようである。
 調査によれば、年々、発生が早くなっている。これは上陸後の気温が毎年高くなっていることで、羽化までの期間が短くなっているのであるが、それだけではない。「ほたる出現予想(2024)」の記事で、まだ上陸が行われていないと書いたが、実は上陸条件が合致した3月28日29日、4月9日に上陸が行われていたようなのである。それならば、5月中頃に多くが発生するのも、うなずける。東京の多摩西部では、ブログ5月15日の記事「ゲンジボタルの幼虫上陸(東京)」に記述したように4月下旬頃からGW期間あたりが上陸時期であるが、都心に近い野川は、それよりも一か月早いのである。千葉県では、やはり3月下旬から4月上旬に上陸するから不思議ではない。

 さて、今年も野川のゲンジボタルについて、観察は勿論の事、写真と動画も撮影してきた。気温21度、晴れで微風。月明かりはなし。野川公園の駐車場に車を止めて、徒歩5~6分の野川に18時から待機。川岸に生える桑の木を下から覗くと、あちこちの葉裏にオスのゲンジボタルの成虫が止まっている。また足元の草むらもよく探せば止まっている個体を見つけることができる。
 その後、19時近くなると葉の上にいた個体が静かに発光を始めた。明滅ではなく弱い光を放ち続けるという発光である。19時半になると発光飛翔が始まり、20時を過ぎると発光飛翔の個体数もかなり増えた。今回は前回と違う、流れがとても穏やかな場所にカメラを設置した。水面に光が映る様子を残すことが目的である。写真では分かりにくいが、動画では光が移動するので水鏡になっていることが分かると思う。

 今年も昨年同様に平日に訪れたので、鑑賞者は思ったほど多くはなかった。ここは広い遊歩道もあり夜でも真っ暗ではない。それでも懐中電灯をホタルに向けたり、スマホの明かりを向ける方がいるのは残念だ。その他、年配のグループが多かったのが印象的で、ご婦人方が歓声を上げると男性は幾つになっても格好つけだがるものである。内容までは書かないが、知ったかぶりとマナー違反は恥ずかしい。また、家族連れも何組かおられたが、1組のお子さんが、片っ端からホタルを捕まえては虫かごに入れており、30頭以上が虫かごの中で光っていた。その子の気持ちはよく分かる。50年前の私もそうだったからである。もしかしたら、将来、ホタルの研究者になるかもしれないが、ここは優しく「帰る時に放してあげてね。」と言うしかなかった。ちなみに、少し離れた所で観賞していたご婦人からも同じ言葉をかけられていた。30歳代くらいの父親は、息子に対して「10日くらいしか生きられないのだから放してあげよう」と言ってくれていたのは嬉しい。ただし、今日初めて地上に出てきて飛び出した個体なら、運が良ければあと10日くらいは生きられるだろうが、すでに何日も飛び回っていた個体ばかりなら、家に持ち帰っても1日~2日の命だろう。それに、この短い命の中での一番の目的は、子孫を残すことである。雌雄がお互いの光によって出会いを果たし、無事に交尾を終えて産卵しなければ絶滅してしまうのである。このお子さんが30頭のオスを持って帰っただけでは絶滅することないが、100人のお子さんがそれぞれ持ち帰ったらどうだろう。翌年は、まだ同じように発生するが、毎年繰り返されれば5年で絶滅してしまうだろう。
 この野川は、まったくの自然発生である。養殖した幼虫を毎年放流するようなことはしていない。このように多くのゲンジボタルが舞うのは、豊かな自然環境が維持されているからに他ならない。カワニナと幼虫の放流に頼って、毎年それを繰り返しているだけの所は、放流を止めた途端にホタルは飛ばなくなってしまう。飛ばないことが怖くて放流を止められないのだ。幼虫を放流するならば、卵からふ化したばかりの1齢幼虫がよい。3月に上陸間際の大きな終齢幼虫を「元気に大きく育ってね」と放流する園児や小学生の姿が新聞やテレビで報道されるが、不思議でたまらない。

 野川に生きるホタルは、都心に近い所にも関わらず、ホタル自らが懸命に生きている姿を誰でも安心して観察したり観賞できる貴重な場所である。ホタルが舞う光景がいつまでも続くように、どの生息地でも訪れる方々におかれては、ホタルがなぜ光っているのかを理解して欲しい。曖昧な知識は間違いの選択肢を選ぶ一番の要因となってしまう。細かな生態は知らなくても、100の曖昧な知識より10の確実な知識を持って訪れて頂きたい。

昨年のブログ記事/野川のホタル

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画も 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/30秒 ISO 5000(撮影地:東京都小金井市/野川 2024.05.29 18:54)
ゲンジボタルの飛翔風景の写真
ゲンジボタルの飛翔風景
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 5秒 ISO 400×1分相当の多重(撮影地:東京都小金井市/野川 2024.05.29 20:44~)
ゲンジボタルの飛翔風景の写真
ゲンジボタルの飛翔風景
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 10秒 ISO 400×約3分相当の多重(撮影地:東京都小金井市/野川 2024.05.29 20:12~)
野川に生きるホタル
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