秩父のヒメボタルは、数年後には絶滅するかもしれない。
秩父のヒメボタル生息地には、2010年から訪れている。当時、秩父にヒメボタルが生息していると言う話を聞き、長年の勘で生息していそうな場所を夜間に一人で探索したところ、農家の庭先で発光している数頭のヒメボタルを見つけた。その付近を歩いて探していると、何も植わっていない単なる草地で無数のヒメボタルが乱舞している所を発見。時刻は、午前1時を過ぎていた。それまでは、東京奥多摩の山奥の杉林でしか見たことがなく、「森のホタル」と言われていたヒメボタルが開けた草地で飛び交う様に驚いたものである。
その後、毎年訪れては観察と撮影をし、メスの形態、特に前胸部の赤斑が特徴的であることも分かった。(参照:ヒメボタルの生態と生息環境)その頃は、カメラマンは勿論のこと、地元の方々すら誰も見に来ていなかったが、2012年に私が撮影した写真をブログにて「ヒメボタル(秩父2012年)」と題して公開したところ、私の写真をプリントアウトし、それを持って秩父市内で聞き込みを行った方がいた。その方は、自身のホームページで場所の詳細を公開し道順まで記した。いつの間にか、近くの広場にはヒメボタル生息地という看板まで立ち、瞬く間にカメラマンで溢れかえってしまったのである。路上駐車が多く、駐車禁止の看板と共に駐車場まで整備された。
2016年に訪れた時には、あまりのカメラマンの多さにうんざりし、その後訪れていなかったが、2022年に生息地の様子と発生の状況を確認したくなり、再び訪れてみると、相変わらずカメラマンと鑑賞者で溢れかえっていた。三脚を据えて椅子に座ってスタンバイしているのはいいが、足元のヒメボタルのメスを踏みつけても何も思わない。ほとんどのカメラマンがそうだ。レンズの先で発光するオスを写すことしか頭にない。今更ながら、2012年のブログ記事に「秩父」と記載したことが悔やまれる。
このブログでは、昆虫類の写真撮影地は県名までの表記にしており、種によっては保全のために無記載にしているが、今回、表題を「秩父のヒメボタル」としたのは、絶滅の坂を下り始めていることが分かり、その事実を広く知っていただきたいからである。
ヒメボタルが生息する場所は様々であり、手つかずの原生林の他は、山奥の杉林は勿論、神社の境内や河川敷の竹林等々、ある程度人の手が入って間伐や下草狩りがされており、そのことでオスの飛翔空間が生まれ、飛ぶことのできないメスが、オスとの出会いに成功しているが、今回訪れた秩父の生息地は、公園の竹林はまったくの放置状態で、2年前よりさらに竹藪と化し、道は竹が何本も倒れたままで塞がれており、ヒメボタルの飛翔空間がない状態であった。
竹林近くのくぼ地では、2年前には乱舞していたが、隣接する木を何本も伐採し、土が見えるまで草も刈ってしまったため、乾燥化で幼虫も死んでしまったと思う。成虫は1頭も飛ぶことはなかった。ヒメボタル生息地という立派な看板を立てておきながら適切な保全管理をしないのは無責任と言わざるを得ない。
生息地は、少し離れた私有地(農地)にもあり、どちらかと言えば私有地の方が乱舞する。カメラマンが増えてから、農地に無断で入り込む者が後を絶たず、地主さんが「ヒメボタル生息地につき立ち入り禁止」として周囲にテープを張ったのは良いが、これまで乱舞していた草地は膝の高さ以上、場所によっては腰の高さまで草が伸び放題。これでは飛び回るオスはメスを見つけることができない。家も立ったが、私有地内のことに他人が口出しする筋合いはない。
今回は、15時から周囲の環境を細かく調査し、18時からどの程度の発生があるのか写真と動画で記録を撮った。以下には、2010年と2012年、そして今回2024年に撮影した写真と動画を掲載した。
天候は快晴で月はなし。昼間の気温は27℃であったが、日暮れと共に下がり23時には17℃まで低下し肌寒さを感じた。ヒメボタルは、20時になると草むらで1頭が光り出したが飛翔はしない。20時半には2頭が発光しながら飛翔。その光は、フラッシュ
発光ではなく、まるでヘイケボタルのようであった。22時を過ぎると発光する個体が増えるが、飛翔する数は増えない。22時半になるとカメラを据えた周囲で一番の暗がりであった10坪ほどの木陰で、10頭以上が発光をはじめ、草地にも飛び出してくる
ようになり、23時を過ぎると本格的に発光飛翔するようになった。
腰まで伸びた草の上を飛ぶヒメボタル。私の目線と同じである。やはりメスを見つけることができない。飛び方も活発ではなく、ゆっくりである。気温は17℃に下がったが、以下の2012年に写した写真と動画では、17℃の降雨時でも活発に発光飛翔していたので、気温の低さだけが影響しているとは思えない。かつては午前2時でも活発に発光飛翔していたが、この日は午前0時を過ぎると林の中に戻ってしまった。かつての光景は、今はない。
このままの状態が続くとすれば、毎年、確実に発生個体数が減り、数年後には絶滅するかもしれない。私有地の地主さんには望めないが、せめて公園整備を進めた埼玉県には、県のレッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類と位置付けているヒメボタルの貴重な生息地を適切に保全管理をする責任がある。そうしなければ、ここに掲載した光景は、これが最後の記録となってしまう。
以下の掲載写真は、横位置は1920×1280ピクセルで、縦位置は683×1024ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。
東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます