大台ヶ原から天の川の撮影を行った。
大台ヶ原は、紀伊半島の南東、奈良県と三重県の境にある日出ヶ岳(1,695m)を最高峰とする台地状の山地である。大台ヶ原山全体が特別天然記念物に指定されている日本百名山のひとつ。日本百景や日本の秘境100選にも選ばれており、吉野熊野国立公園の特別保護地区にも指定されている。4月中旬から山開きされ、11月下旬までの間、四季折々の風景を堪能できる。また、有名な星空スポットであり、満天の星を楽しめる場所でもある。
大台ヶ原から天の川の光景は、以前から一度は行って見たいと思っており、GW頃に計画はしていたもののGW期間中は事情により出掛けることができず、その後も、躊躇していた。まずは、遠いこと。自宅からの距離は550kmほどだが、180kmは一般道を走らなければならず、所要時間は8時間である。更には、駐車場から星空のポイントとなる場所まで徒歩で1時間弱かかる。夜中に歩いて行かねばならないことに一歩を踏み出せないでいた。また、年間降水量が4,500㎜を越える本州の最多雨地で、この多量の雨が湿潤な気象条件を生み出し、曇りや雨は当たり前で霧もよく出る。晴れる方が珍しい場所であることで、今年は諦めかけていたが、5月17日18日は晴れマーク。9日は福島と山形で天の川を綺麗に撮れなかったのでリベンジもしたい。そして丁度ヒメボタルの発生がピークに近いという場所が中部地方にあることから、「大台ヶ原から天の川」とヒメボタルをセットにして遠征することにしたのである。
自宅を17日15時半に出発。中央道、新東名高速、伊勢湾岸自動車道を走り、東名阪道の亀山ICで下り、後は一般道である。ただし亀山ICから針ICの名阪国道は「高速自動車国道に並行する一般国道の自動車専用道路」にカテゴリされ、信号がないので順調に針ICまで進んだ。その後が長い。最後の大台ヶ原ドライブウェイはカーブが多く、真夜中の走行は緊張の連続で、結局、大台ヶ原の駐車場には23時に到着。自宅からは7時間半かかった。駐車場は広く、5~6台が駐車していた。
既に天の川が昇り始めている時間であるが、この日は月齢9の半月より大きい月が1時57分まで沈まない。上空には、月だけでなく薄雲も広がっている。ただし、GPV気象予報では2時頃には綺麗に晴れる予報になっており、月が沈み雲がなくなることを期待しながらしばらく車内で休憩していたが、居ても立っても居られず、23時半に正木峠へ向けて出発した。
ヘッドランプを付けて登山道を歩く。それほどきつい道ではないが、怖いのはクマである。鈴を鳴らしながら、ひたすら歩く。分岐点を左へ曲がると日出ヶ岳へ続き、山頂も星空撮影のスポットであるが、今回は、分岐点を右へ曲がり正木峠だけで撮る予定である。急な木道を上がったところが正木峠である。正木峠は、森林破壊によって、山全体が緑のミヤコザサに覆われた大台ヶ原を象徴する場所である。60年ほど前までは、全国的にも珍しい針葉樹のトウヒが森を形成していたが、1959年の伊勢湾台風が大台ヶ原にも直撃したことで多くの木が倒され、その後繁殖した鹿の食害によって森が失われてしまったという。20年前までは、立ち枯れも多くあったが、昨今では立ち枯れの木も少なくなりつつある。
峠の木道には休憩スペースがあり、ベンチに座ってしばし待機である。気温は9℃。厚着はしたが、風が時折強く吹くと、やはり寒い。先客は一人だけ。話を聞けば、日暮れ時刻からいるという。さぞ、退屈だったろう。30分ほど寒さに耐えながら待機したが、何となく撮影を開始。まだ月があり、雲も晴れないが、月明かりで質感が分かる正木峠の特徴である立ち枯れを入れながら、様々なカットを撮影。午前2時。月が沈み、雲も晴れてきた。風も止んだ。天の川が肉眼でも見えた。
これまで、各地で天の川など星景写真を撮ってきたが、私の経験した中で一番光害がなく星が美しかったのは宮古島で、次が乗鞍高原であった。この大台ヶ原は、ボートル・スケールのSQM(Sky Quality Meter)で表すと、21.81 mag./arc sec2で、優れた光害フリーの土地であり天の川のさそり座といて座の領域が明確な影を投げかける場所である。ちなみに長野県乗鞍高原のまいめの池は、SQMが21.85 mag./arc sec2で、大台ヶ原よりも暗い空であるが、大台ヶ原は見晴らしも良いため、南から北まで、頭上にかかる天の川のアーチもはっきりと見える。月がなければ、美しいアーチも撮れただろう。立ち枯れと天の川を撮ったあとは、正木峠のもう1つの特徴である白い木道を入れての撮影。立ち上がる天の川と木道の位置が時期的に合わず、構図的には良いとは言えないが、撮っておきたい光景であった。
ただ、この素晴らしい天の川の光景を前にしながら、それを思うように捉えられないレンズの性能に限界を感じた。F値が1.8より明るい単焦点の広角レンズが欲しい。
正木峠では3時まで撮影し、下りることにした。駐車場には車が増えており、そこから星空を撮影している方々が多かった。駐車場を4時に出発し、その後、静岡と岐阜でトンボの探索。そして、ヒメボタルの生息地へと向かった。ヒメボタルは深夜型であり、二日連続の徹夜撮影である。
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