2024年最初のヒメボタルの観察は、初訪問の中部地方の生息地にて行ってきた。
ヒメボタルは、すでに高知県などでは5月上旬から発生しており、関東東海でも例年通り6月上旬から7月中旬にかけて様々な場所で発生すると思われ、今年も毎年訪れている生息地にて、生息環境や発生状況の確認、更にはこれまで訪れたことのない場所でも観察を行いたいと思っているが、今年最初のヒメボタルの観察は、初訪問の中部地方を選んだ。カメラマンは勿論、地元の方の鑑賞者も誰一人来ない所である。
ヒメボタルの生息地は、標高およそ50mで、市街地からさほど遠くない所にある山のふもとの雑木林である。近くには畑や竹林もあり、かなり広範囲に飛翔する。深夜型であり、概ね23時から翌2時頃まで活発に発光飛翔する。現地では18時から環境を細かく調査し、日の入りを待った。20時になると、広範囲で5頭ほどだが、開けた場所の木の下、雑木林の茂みの下草の葉の上で発光するヒメボタルが現れる。ただし、時折短く発光するだけで飛ぶことはない。深夜型であっても20時頃から発光を始めるのは、他の深夜型が生息する場所でも同じである。
その状況が、そろそろ乱舞するであろう23時を過ぎても変わらなかった。訪れた日は、日中は晴れで気温が31℃まで上がり、夜も気温が高く風もない。それは良いのだが、月齢10の月が1時54分に沈むまで雑木林を照らすという悪条件の夜。ただし、夕暮れから薄曇りになる予報は的中し、直射の月明かりを遮ってはくれたものの、空を見上げれば、かなり明るい。街明かりを反射し拡散する夜の曇り空は、月明かりよりも明るいのである。
ちなみに、満月に照らされる地表の明るさはおよそ0.2ルクス(暗い場所で人工的な光の影響を受けない場合)だが、半月の明るさは約10分の1の約0.02ルクスである。晴天で月のない夜は、0.0003 ルクスであるが、夜の曇り空の照度は、市街地からの距離などでも違いがあるが、市街地に近ければ1,000ルクスほどあると言われている。1,000ルクスは、2020年から新型車に搭載されているオートライトが点灯する照度である。ホタルの仲間は、発光を繁殖行動のコミュニケーションツールとしており、0.1ルクス以下でないと行動が阻害される。知人の話では、前日は晴れで半月より大きい月が輝いていたが、それでも23時から発光飛翔が始まり2時過ぎまで光っていたという。この日は23時を過ぎても、発光する個体は増えず、飛翔もしない。ヒメボタルのメスは、地面を歩くことしかできず、自らの存在をオスに知らせ、オスも発光しながら群飛することでメスに存在を知らせるためには、"暗さ"というものが必要だ。
観察を続けていると、23時半頃から飛翔する個体が出初め、0時を過ぎた頃から一気に発光飛翔する個体が増加した。その数はどんどん増え始め、1時を回ったころには数百というヒメボタルが、いたるところで乱舞するという状況になった。照度計を持参しなかったので何とも言えないが、月がかなり傾き、更には深夜になったことでビルや家の明かりが消えたことで"暗さ"が増したことによると考えられる。月のない晴れた夜ならば、体内時計によって23時頃から発光飛翔を始めるが、わずかな明るさの違いでも活動が抑制されるのである。いかに"暗さ"が重要であるかということが分かる。
私は、午前2時半に引き上げたが、その様子は3時半頃まで続いていたようである。まだメスが見られなかったことから、この撮影日に数日後が発生のピークであろう。ただし、次第に満月となり、高度は30度であるが深夜に照っているため、繁殖を阻害しないかが心配である。
以下には、ヒメボタルの写真5枚を掲載した。私の場合は、観察がメインで、写真撮影はその場の記録を残すという目的で行っている。環境やヒメボタルの飛翔ルートや範囲が分かるように写すことで、ヒメボタルの行動の証拠になり、保全にも役立つ。他の大多数のカメラマンが撮るような、光の玉ボケを入れたり、点景となるような人工物をわざわざ添えたり、光で埋めつくすような「作品」は目指していないし、撮るつもりもない。とは言っても、短時間の露光カットを重ね合わせることで、生息環境のどの部分に集中して発光飛翔しているのかが分かる場合もある。また、悲しいことに一般の方々に感動を与える写真は、光で埋めつくされた写真であり、ブログを訪問下さる方々はそのような写真を期待されているのも事実であることから2時間相当の多重写真を1枚掲載した。
勘違いして頂きたくないのは、あくまで数時間という長い間に飛び交ったヒメボタルの"光"を、たった1枚に凝縮したものであり、写真は見た目とはまったく違うということである。また、感動は、暗闇の中で黄金色の光を放ちながら懸命に飛び交うヒメボタルを実際に見た時である、ということをお分かり頂きたい。
最後になったが、今回、ヒメボタルの生息地をご案内いただいたI氏に心から御礼申し上げたい。
以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。
東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます