御射鹿池の四季と題して、この10年間に撮影した四季折々の光景の中から12点を一つの記事としてまとめてみた。
御射鹿池は、長野県茅野市の奥蓼科温泉郷に通じる「湯みち街道」沿い、標高およそ1,500mにある小さな農業用ため池で、その名は、諏訪大社に伝わる神に捧げるための鹿を射るという神事「御射山御狩神事」に由来する。湖面に映り込む自然の美しさはまさに一幅の絵のようで、私の叔父の友人であった東山魁夷画伯の「緑響く」(1982年制作)という名画のモデルにもなっている。
東山魁夷画伯は、御射鹿池について次のように語っている。 一頭の白い馬が緑の樹々に覆われた山裾の池畔に現れ、画面を右から左へと歩いて消え去った・・・そんな空想が私の心のなかに浮かびました。 私はその時、なんとなくモーツアルトの「ピアノ協奏曲23番の第二楽章」K488の旋律が響いているのを感じました。 おだやかで、ひかえ目がちな主題がまず、ピアノの独奏で奏でられ、深い底から立ち昇る嘆きとも祈りとも感じられるオーケストラの調べが慰めるかのようにそれに答えます。 白い馬はピアノの旋律で、木々の繁る背景はオーケストラです。
私が御射鹿池を初めて見たのは20年ほど前。奥蓼科の明治温泉に家族旅行で行った時であった。「何て美しい池なんだ」その時の印象は今でも消えない。しばらく訪れる機会がなかったが、2010年の6月、意を決して撮影に臨んだ。(写真1~3) まずは、画伯の「緑響く」を意識する。ただし、こちらは絵画ではなく写真。「創作」ではなく「写実」であり「記録」である。レンズを通して見たものがそのまま写る。「緑響く」には、木々の緑が一番美しい時期、時間帯と天候を読み、更に無風である時を選ばねばならない。また、定番構図であっても、自然とじっくり対峙して得られる「感性」や「感情」がなければ、写真と言えども「作品」にはならない。この時は、千葉県の鴨川でホタルの観察と撮影を終えた後そのまま向かい、深夜から池の縁で待機した。 午前4時。うっすらと明るくなり、これまで漆黒の闇に包まれていた御射鹿池が、姿を現す。池面や背後の木々には朝霧が立ちこめているが、時間ととも、その美しさが増し、刻々と変化する色彩に胸がどきどきした程だ。様々な色調が重なり背景の木々を鏡のように池面に映し、神秘的なまでに静謐な美しさをたたえ、画伯が描いた「心の静寂」と「祈り」を感じることができた。ただし、私にはモーツアルトの「ピアノ協奏曲23番の第二楽章」の旋律ではなく、マーラーの交響曲第5番の第4楽章「アダージェット」が響いていた。
御射鹿池の美しさに魅了され、その後は緑の時期だけではなく秋や冬にも訪れた。中秋の名月と月明りに照らされる光景も撮った。画伯の絵画を超えることはできないが、「美しい被写体の一番美しい瞬間を、美しく撮りたい。」今後は、「御射鹿池と水鏡に映る輝くカラマツ霧氷」の1枚を加えるのが目標である。
ちなみに、御射鹿池は、以前は存在を知っている写真家しか訪れない池であったが、2008年頃に女優 吉永小百合さんが出演したシャープAQUOSのCMに使われてからは徐々に有名になり、その後インターネットやSNSで情報が広がると、数年前には大きな駐車所が出来て、今では大勢が訪れる観光スポットになっている。池の周りに柵が設けられてからは、時期や時間を選ばないと撮影の場所取りが大変なようである。そんな中では「心の静寂」と「祈り」を感じることはできないかも知れない。
まずまずの天気の今週末。撮影できる昆虫が少なくなる昨今、近場の里山に行けば、それなりの成果を挙げることができるだろう。昆虫写真は観察記録にもなるが、「今年も同じカットを撮りました」では、自身の写欲を満たすだけで進歩がない。次の3連休は、天候によって奥日光の自然風景、または和歌山遠征で自然風景とチョウの撮影を予定してる。場合によっては、両方に行くことも考えている。御射鹿池の撮影でもそうだが、「一期一会だから・・・」は結果が出せなかった時の言い訳。目標達成のために、準備と覚悟をもって臨みたい。
以下の掲載写真は、1024×683ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。
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行ってみることのできない素晴らしい景を
家にいて見せていただけて…ありがたく
ただただ感謝あるのみです。
ありがとうございます。
いつも、ご覧頂きありがとうございます。
この池の美しさを嘘偽りなくお伝えしたく撮ってまいりました。
また、違う表情を収めたいと思っております。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。