御射鹿池は、長野県茅野市の奥蓼科温泉郷に通じる「湯みち街道」沿いにある小さな農業用ため池で、その幻想的な風景から農水省により「ため池100選」にも選ばれている。テレビのCMにも使われ、今では大勢が訪れる観光スポットになっており、誰もがカメラを向ける美しい池である。
御射鹿池の写真には、定番がある。それは、私の叔父の友人であった東山魁夷画伯が描いた「緑響く」(1982年制作)という名画に似たカットであろう。筆者も何度となく撮ってきた。白い馬こそいないが、緑の木々が池の水鏡に映る様は、感動を呼ぶ。定番は誰でも撮れるしスマホでも撮れる。勿論、光景は一期一会で刻々と変化するから、定番と言えども一番美しい瞬間を、一番美しく見えるように撮るのは簡単ではないが、この御射鹿池で定番を越える光景を撮ろうと思ったのである。それが「月光の御射鹿池」である。
月光の御射鹿池を撮りたい。そう思ったのは今年の春の頃であった。私自身の頭の中にはイメージ図が出来ていた。合成をしない一発露光で月と池を一緒に写す。それには、真夜中では光量が足らず池が写らないから、薄暮の頃に登ってきた満月同等の月で撮らなければならない。ただし、仕事の関係上、遠征しての夕暮れ時の撮影は土曜日のみであるから、チャンスは毎月1回だけ。しかし、雲がなく月が見えなければ意味がない。また更に、風がなく池面が静かであることが必須条件である。
霧氷と同じように、いくつもの条件が合致しなければ撮ることができないので、これまでなかなかチャンスに恵まれなかった。先月に挑戦したときは、晴れてはいたものの東の空に厚い雲がかかり、残念ながら月がまったく見えずに失敗した。記事には、目的が「月光の御射鹿池」を撮ることであった事をあえて記していないが、8月28日付けで掲載したブログ「御射鹿池 夜の幻想」は、その時のものである。ただし、この時の経験は無駄ではなかった。撮影位置、レンズ選択と構図、そして何より露出のかけ方を学ぶことができたからである。
今回の遠征では、新潟、白馬を廻って最後の目標である御射鹿池。天候は晴れ時々曇り。「中秋の名月」の前日でもある。17時半より池畔で待機し、久しぶりの自然風景の撮影に気合を入れる。18時15分。大きくはないが、待ちに待った月が、御射鹿池の向こうの山から輝きを放ちながら顔を出す。無風であり、池は水鏡になっている。目前の光景そのものが自然芸術だ。こちらは、その美しさを写真というものに変換して表さなければならない技術者のようなもの。流れ来るいくつもの雲の切れ間を狙ってシャッターを切り、結果をモニターで確認しながら設定をあれこれ変えて20カットを撮影した。19時頃には空が雲で覆われてしまったため、およそ30分間の勝負であった。以下に月が出る前に撮影した1枚と合成なし一発露光の「月光の御射鹿池」の写真3枚を掲載した。
以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。
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