問題は裏口です。以前は毎日のように猫の糞がありましたが、ガーデンバリア設置後はほとんどなくなりました。しかし猫の糞の代わりにときどき人糞があるそうです。その場所はフェンネル畑にしようとしていた場所で、地面から50センチ高い大きなプランター状態になっています。駐車場と建物の間の細長いスペースです。周囲の家からも見えますし、車が止まっていないときは道路から直に見えます。そんな場所で50センチ高い場所に上がってお尻を出して大便をするのは相当に大胆な行為ですし、かなり勇気がいると思います。おまけにフェンネルを植えていたときに猫の侵入防止策のひとつとして茨をたくさん周囲の土に差しています。お尻を下ろすと確実に刺さります。従って、もしその場で大便をしたのだとしたら、たくさんの茨を抜いてから大便をして、その後で抜いた茨を元に戻したということになります。時間はかかるし誰かに見られる恐れもあります。そんな危険を犯さないだろうと考えれば、別の場所でした大便を持って来て捨てた可能性が高いと、店長は推測しています。
店長の話から、斜向いの猫を飼っている家のお年寄が犯人ではないかとずっと思っていたのですが、最近少し気になる出来事がありました。朝、店長が店の周囲を掃き掃除しているときに隣の家のおばさんに挨拶したところ、十年間一度も挨拶を返してくれなかったそのおばさんが、はじめて口を利いたそうです。
「ここの植木がいつも私の家の方にはみ出しているけど、いつになったら切ってくれるの?」
その植木はビルが管理しているもので、定期的に刈り込みを行なっています。店舗の従業員が勝手に切ることはできません。しかし、゛ビルの管理会社に言って下さい゛と言ったら気分を害するでしょうから、
「わかりました。植木はビルの所有物で管理もビルが行なっていますから、私から連絡しておきます」と店長は答えました。
おばさんは肩透かしを食らったように不満そうでしたが、言い返すこともできずに帰りました。そして数時間後にまたやって来て、言いました。
「私、見たわよ。そこでウンチしている人」
店長はフェンネル畑に人糞があることは百も承知なので、「知っています」と答えました。するとおばさんは、何故か怯んだような表情を見せました。そしてすぐに帰ってしまいました。それを見た店長は、(おばさん自身が犯人ではないか)と直感したそうです。
わざわざ言いに来たのに、そそくさと帰ってしまったのは、店長の「知っています」を゛犯人を知っている゛という意味に捉えたからではないかと店長は推測しました。だから顔色を変えて逃げたのだと。
しかし料理長はまだ、斜向いの猫を飼っている年寄りを犯人だと思っているようです。監視カメラがある訳ではないので、真相はわかりませんし、わかったところで解決策がある訳でもありません。これからも近隣の人々とは上手に付き合っていかねばなりませんし、糞の件がなくなっても、形を変えた嫌がらせが継続するかもしれず、なるべく事を荒立てずに済ましたいところです。
悩んでいるところに町内のまとめ役をしている老夫婦が来店されたので、店長は思い切って相談してみました。ひと通り話を聞いたご主人は、「商店街も不景気の波でどの店も調子が悪い。そんな中でお宅の店だけが流行っているから、やっかみがあるのかもしれない」と言いました。そしてその日の夕方に、「もし使うようであれば」と、センサーライトを持って来てくれました。前に3個買って、その内2個はセットして残り1個はずっと余っていたとのことで、そもそも買った理由というのが毎晩のように庭に侵入された跡があったからでして、センサーライトをセットしてからはピタッと侵入が止まったそうです。店長は有難く頂戴し、早速気になる裏口にセットすることにしました。ガーデンバリアといい、センサーライトといい、機械警備のようですが、果たしてどこまで効果が望めるのか、今後の成り行きを見守っていきます。