こんなクレームがありました。60過ぎの男性からです。
自分は愛煙家。いつでもパイプを咥えている。ショッピングセンターだろうが何だろうが関係なく、もちろん火はつけないが、パイプを咥えている。自分にとってオシャブリのようなものだ。その日もショッピングセンターの中にあるお宅の会社の店に、パイプを咥えたまま入店した。すると、お宅の従業員が「火はつけないようにお願いします」と言う。一体誰に向かって言っているのか? 60を過ぎた自分が40代くらいの小僧にそういう口の利き方をされる覚えはない。第一、火をつけていた訳ではない。にもかかわらず何故言うのか? 店員は「念のため」と言う。何が念のためだ! 客を馬鹿にしているにもほどがある。自分はスーパーバイザーの経験が長く、客あしらいがどういうものか、十分に心得ている。あの店員の接客はまったくなっていない。客を威圧するような坊主頭も客商売として相応しくない。お宅の会社はあれを是としているのか?
電話がかかってきてすぐに、電話代を負担いただく訳にいかないのでこちらから掛け直す提案をしました。多くの方は自分の名前や電話番号が知られるのが嫌なので、そのままでいいと言います。名前も電話番号も伝えてくれるのは、正々堂々と意見を述べようとしている場合と、クレーマーで何か要求したい場合と、同じくクレーマーだが単にストレスのはけ口として言いたい放題を言いたい場合と、それから電話代のことを本当に気にしている場合とがあります。この方は提案を受け入れてくれました。
掛け直した電話の第一声からクレーマー気味の人だなという印象でした。私の立場と名前を聞いてきます。苦情を言うことに慣れた人の常道です。それでもお客様。最後まで話を聞き、理不尽だと思いつつも謝罪しました。ただ、店舗の従業員の立場もあるので、必要と思われる一言だけは言いました。
「最近は嫌煙権を主張するお客様は非常に厳しく、禁煙の店内で喫煙するお客様がいるとすかさず注意されます。喫煙するお客様に直接注意するのではなくて、立場の弱い従業員を注意するのです。多分そうなることを恐れたのだと思います」
すると少しだけ、トーンが下がりました。必ず厳しく指導して改善することを約束して、ひとまず納得はしていただきました。
実際に応対した店舗の従業員にどういう状況だったのか確認すると、次のような報告でした。
そのお客様は60代くらいのご夫婦で、ご主人がパイプを咥えてライターでカチカチと火をつけようとしながら入ってきました。ショッピングセンター内はテナントショップも含めて全館禁煙ですので注意しようとしましたが、自分が注意する前に別のお客様が「ここは禁煙なんだよ!」と大声で言ったものですから、ご主人は逆上してそのお客様に対して罵声を浴びせはじめました。これはまずいと思ってすぐに割って入り、ご主人にパイプには火をつけないようにお願いしました。ご主人が火などつけていないと仰るので、お気持ちをなだめるために「念のために申し上げました」と言いました。もちろんそれくらいで納得するような簡単な相手ではなく、今度は矛先がこちらに向いて怒鳴り散らされましたが、興奮なさっていて何を言っていたのか分かりません。席にもつかずにお帰りになりました。
という報告でした。どちらが本当なのかはわかりません。このお客様は60を過ぎていて仕事は一旦リタイアしているだろうし、性格もしつこそうです。ヒマで執念深いとなれば、必ずもう一度店舗に来て確認するに違いないと予想できます。店に電話をして、多分もう一度来店されるので、応対した本人か、いなければ店長、両方いたら二人できちんと挨拶して、先日の非礼を詫びて丁寧に接客するように指示しました。
すると案の定その数日後に店に行ったようで、お客様本人から今度は報告だといって、電話がありました。店長と二人で誠意のこもった謝罪をしてもらった。納得した。後世に残してやれるのは我々の経験しかない。スーパーバイザーの経験を生かして今後とも目に付くところは指導していきたいという決意表明さえしてくれました。
60歳は孔子によれば「耳順」になります。貝原益軒は「老いては子に従え」と書いています。しかし最近では、老いてますます元気一杯のお年寄りが増えました。
ヤレヤレ。