映画「モリのいる場所」を観た。
http://mori-movie.com/
熊谷守一という95歳の画家のある一日を描いた作品である。最初に画家のアトリエらしき部屋が静かに紹介されるが、部屋の主は現れない。ただフクロウが目をぱちくりしているだけである。画家は今日もいつも通り庭の探索に向かっている。どれだけ探索してもまだまだ新しい発見がある。
木を見て森を見ずの反対で、彼は昆虫や葉っぱのひとつひとつの変化から、そこに何かしらの真実を見つけ出す。全体を概念で片付けるのは簡単だが、画家の目に概念は意味を成さない。とことん細部にこだわっていくと、いつしか時間も空間も変化し、時はゆっくり流れ、巨大な蟻がスローモーションのように足を運ぶのが見える。石は何時間眺めていても飽きることはない。庭はどこまでも広い未知の世界だ。子供の頃のように世界は期待に満ち溢れている。彼は言う「生きることが好きなんだ」
ラストに近いシーンで妻の秀子が「学校」と呼ぶ場所こそが、冒頭に紹介されたアトリエらしき部屋であることがわかる。画家はそこがあまり好きではない。絵を描くことは復習みたいなもので、新しい発見がないからだ。フクロウだけが目をぱちくりさせている。
長い年月を生きて喜びも悲しみも乗り越え、こだわりもわだかまりも捨てて無心で生きる夫婦の姿を、山崎努と樹木希林という名人芸の二人が淡々と演じる。水墨画のような奥深さを感じた映画であった。