赤坂のACTシアターでミュージカル「生きる」を観た。
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主人公の渡辺勘治は鹿賀丈史と市村正親のダブルキャストで、この日は鹿賀丈史が演じる日だった。黒澤明の映画でお馴染みの作品だが、ミュージカル仕立てというのは興味深い。演出は宮本亜門。
鹿賀丈史の歌は味があってとてもよかったが、出色だったのは新納慎也(にいろしんや)。180センチの偉丈夫で、長身の鹿賀丈史と並んでも舞台映えは遜色ないし、何よりも歌が抜群にうまい。
ストーリーは、来年には定年で退職という市役所の冴えない市民課長が、余命半年を宣言されたのをきっかけに、開発で失われた市民公園を再び作ろうとして、役人たちの役人根性や役所の機構、それに政治家の思惑などによる様々な妨害に遭いながらも、諦めずに東奔西走してなんとか公園の完成にこぎつけるが、病魔は待ってくれず・・という悲喜劇である。
30年間働いてどうだったのかという部下の問いに、忙しくて、そして退屈だったと正直に本音で答えるのだが、人生を嘆くその姿がなんとも切なく、悲しい。人は人生で大したことを成し遂げられる訳ではないが、成し遂げたことの大小は比較されるべきではない。誰もがノーベル賞を受賞できるわけではないし、受賞しない人生を否定されることもない。
郊外の街で役人としての一生をひっそりと終えたとしても、その人生を否定してはいけない。どのような人生も、ひとつの人生として尊重されるべきなのである。日本国憲法第13条にも「すべて国民は、個人として尊重される」と書かれている。
時代のパラダイムによって人を裁く、狭量な正義の味方たちが幅を利かす現代にあって、この芝居の上演は立派な価値がある。宮本亜門の演出は小技がたくさん効いていて、舞台に厚みがあった。いい芝居だった。