三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「イコライザー2」

2018年10月07日 | 映画・舞台・コンサート

 映画「イコライザー2」を観た。
 http://www.equalizer2.jp/

 このシリーズはデンゼル・ワシントンの静かで無駄のないアクションが見処の映画である。今回も同様であったが、少し見飽きた部分があるのと、悪役のスケールが小さくて若干の拍子抜けがあった。
 その代わりに、同じアパートに住む若い男との交流がある。視野が狭くて価値観が定まらず、ともすればグレそうになる彼を勇気づけ、悪から救い出す。そのときに言う台詞が、置かれた環境や黒人差別のせいにするなという言葉である。アメリカ合衆国は依然として、黒人差別の国であり、格差社会の国であるということが、この台詞からわかる。単なる勧善懲悪の映画ではない複雑な背景があるのだが、そのあたりは観客の想像に委ねられる。
 CIA時代の元上司の白人女性は、こちらが黒人でも分け隔てなく接してくれた。その女性上司が殺されたことは、主人公にとってはアメリカの良心が踏みにじられたに等しい。湧き上がる凄まじい怒りを抑え、冷静に犯人をあぶりだしていく。
 もう少しアメリカ社会の構造的な歪みを描くことができればもっと奥行きのある映画になったと思うが、商業的にはアクション主体の勧善懲悪劇が求められていたという、いわゆる大人の事情があったのだろうと推察する。
 それなりには楽しめる作品だが、権力中枢にいる巨悪が登場したり主人公が社会全体から追い詰められたりしないので、やや中だるみがあったのは確かだ。


映画「日日是好日」

2018年10月07日 | 映画・舞台・コンサート

 映画「日日是好日」を観た。
 http://www.nichinichimovie.jp/

 一期一会。利休以来の茶の湯の真髄を示す言葉だ。その日その時その場所での邂逅を喜び、堪能するのがお茶の心であり、それはとりもなおさず人生の楽しみでもある。この言葉は映画の中の台詞にも出てくる。
 諸行無常。平家物語の最初に出てくるこの言葉は、時代の移り変わりと人の栄枯盛衰をたった四文字でいみじくも表現している。さすがにこの言葉は台詞としては出てこないが、登場人物それぞれの物語ひとつひとつを語る黒木華のナレーションには、諸行無常の響きがある。
 この作品には、二つの四字熟語をひとつのドラマで描いたような、深い味わいがある。茶道の映画だけあって、シーンの大半は茶室が舞台であるが、二十四節季に合わせて掛け替えられる掛け軸と、気候に合わせて供せられるお茶菓子のひとつひとつには、見るたびにハッと気づかされるような繊細なセンスがあり、それぞれのシーンの楽しみにもなっている。唯一変わらないのが「日日是好日」という書で、決して掛け替えられることはない。掛け替えのない言葉なのだ。
 世の中では、茶室がその後茶の間と呼ばれて家族が季節を愛でたり気持ちを交わしたりする部屋となったが、いつの間にかテレビを見る場所になり、そして今では茶の間という言葉さえ死語になりつつある。それこれも諸行無常だが、日日是好日という一期一会の感性は、これからも受け継がれていくだろう。

 樹木希林の演技は、もはや何も言うことがない。芭蕉にとっての松島のように、映画の樹木希林は、樹木希林なのであった。
 黒木華は、決して美人ではないが大和撫子らしい奥ゆかしさと清々しさがある主人公を十分に演じた。先に形を作って後から心を入れていけばいいという、とても分かりにくい師匠の教えを、鵜呑みにもしなければ頭から否定もしない。答えを出す代わりに、年月を経て彼女なりの所作、彼女なりのお茶を見つけていく様子が、美しい四季の映像とともに描かれ、心が洗われるように涙が止まらなかった。
 大森立嗣監督は、三浦しをん原作の「光」でその独特の世界観を披露していた。不協和音の演出は賛否両論だったが、多分どうしても心の中のカオスを表現するのに必要だったのだろう。本作品でも海に浮かぶ父親のイリュージョンに対して絶叫する不思議なシーンがあった。大和撫子の心の中にも闇はあるのだ。
 嗚咽して号泣して涙と一緒に闇が流れたとき、再びお茶を楽しむ日常が戻ってくる。日日是好日。本当に素晴らしい映画だった。