三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章」

2024年05月26日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章」を観た。
映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』 公式サイト

映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』 公式サイト

2024年春全国劇場公開決定![全2章全国公開!! 前章3.22FRI・後章5.24FRI]豪華スタッフ集結!浅野いにお作品 初アニメ化決定!デデデデは終わらない。

映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』 公式サイト

 前編で暴走したカドデがどのように収拾したのか、その訳が明らかになる。かなりSF寄りの設定だが、理解はできる。カドデとオンタンの人格が劇的に変化したのかと思っていたが、そうではなかったという話だ。考えてみれば、人間の世界観は変化していくが、人格はそう簡単には変わらない。

 前編で登場しなかった人物が何人も登場するが、話はカドデとオンタンを中心に展開するから、散らかっている雰囲気はなく、人生の広がりを感じさせる。登場する政治家、活動家、部活の先輩、LGBT、それに元侵略者は、ふたりの世界観が広がっていくのを助ける役割を担っていると思う。

 人類の暴力性を冷徹に描いている作品で、それはとりも直さず人類の愚かさの表現でもある。共同体を司る大人たちも、かつてカドデの読み順を替えていじめていた小学校や中学校のいじめっ子たちと同じレベルなのだ。文明は軍事技術を先頭に発達してきたが、人類の精神性は文明の発展に追いついていない。子供に銃や爆弾を持たせるようなものだ。自分だけよければ、いまだけよければ、それでいい。そういう指導者たちと、そんな連中に投票する有権者に対する痛烈な批判でもあると思う。

 とても面白かった。

映画「関心領域」

2024年05月26日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「関心領域」を観た。
映画『関心領域 The Zone of Interest』オフィシャルサイト

映画『関心領域 The Zone of Interest』オフィシャルサイト

監督・脚本:ジョナサン・グレイザー  原作:マーティン・エイミス 撮影監督:ウカシュ・ジャル 音楽:ミカ・レヴィ 出演:クリスティアン・フリーデル、サンドラ・フラー

映画『関心領域 The Zone of Interest』オフィシャルサイト

「住めば都」という諺の通り、人は住み慣れた場所に愛着を覚えるようになる。それは場所だけではなく、仕事も同じで、慣れてしまうとその仕事が好きになる。脳は作業興奮を覚えるから、もっと仕事が上手くいくように工夫したり、新しい方法や設備を試したりする。

 ナチ党政権を支えていたのは、勤勉な役人たちで、その真面目な仕事ぶりが、ユダヤ人の大量虐殺を生み出したと言われている。アウシュヴィッツの職員も、日本の入管の職員も、基本的に真面目で、自分の立場が悪くなることを最も恐れている。一方で、あわよくば昇進して、権限も給与も増えて、生活レベルが向上することを密かに夢見ている。

 本作品の主人公のひとりルドルフ・ヘスは、ナチ党の役人の典型的な人物だ。効率的に仕事を進めるのが好きなようで、大量の死体を処理する性能のいい焼却炉に感心し、早速取り入れる。極めて事務的である。保身にも余念がなく、地域=ゲマインシャフトに受け入れられるように、環境を大切にするように指導したり、SS隊員が不適切なことをしないように警告する。「東方生存圏」というナチ党の理念を信じている。または信じているフリをしている。日本の「大東亜共栄圏」と同じ幻想だ。

 もうひとりの主人公である妻は、夫の権力を笠に着て、おそらくユダヤ人と思われる家政婦たちを顎でこき使う。ときには八つ当たりの対象にもする。お前なんかルドルフに焼いてもらうぞと、脅しの言葉を吐く。心はいつも荒んでいる。
 ここはいいところだ。住めば都である。自分で家や庭を整備した愛着もある。時折聞こえてくる、タン、タンというピストルの乾いた音にも、もう慣れた。春夏秋の草花を大事にして、色や香りを楽しむ。冬の寒さは、セントラルヒーティングが和らげてくれる。

 ふたりとも、今日と同じ明日がずっと続くと信じて生きている。しかし不安がまったくないわけではない。リンゴの取り合いで川に沈められるのは、慣れたとはいえ、やはりおかしい。明日は我が身かもしれない。妻は毎日聞こえてくる悲鳴と銃声に、知らず知らずのうちに心を蝕まれている。夫は音楽家を招いた華美なパーティでも、効率的に殺す方法を考えずにいられない。

 時折挟まれる黒い画面や白い画面、黄色い画面、それに重低音の不協和音は、ふたりが心の奥に押し隠している不安と恐怖だ。何百万人もの死が隣にあれば、どんな強心臓の持ち主でも、影響を受けてしまうだろう。
 そして殺した者も殺された者も、歴史の彼方に埋ずもれてしまう。我々は歴史から何を学んだのか。そして何を学ばなかったのか。BGMの不協和音は、人類に対する警鐘のようにも聞こえた。