日本も嫌な時代を迎えた。象徴天皇制を悪用して、日本共産党までもが皇室に対して口を挟むようになった。三島由紀夫がもっとも恐れた事態が進行しつつある。「時運の赴くところ、象徴天皇制を圧倒的多数を以て支持する国民が、同時に、容共政権の成立を容認するかもしれない。そのときは、代議制民主主義を通じて平和裡に、『天皇制下の共産政体』さえ成立しかねないのである」(『文化防衛論』)▼このままでは三島が守ろうとした文化概念としての天皇は崩壊し、政治的な象徴として利用されるか、さもなければ利用された後に捨てられるだろう。文化共同体の国民の統一を象徴するのが天皇である。いかに政治的な国家が敗れよとも、文化共同体が維持されれば、日本人は日本人であり続けることができる。それを死守するために三島は、あえて自らの命を差し出したのではなかったか。現在の日本はゾルレンとしてのあるべき天皇制から逸脱し、あらぬ方向に向かおうとしている▼それを防ぐ手立てとして三島は「天皇と軍隊を栄誉の絆でつないでおくこと」を主張した。三島にとっては「平和勢力と称されるものは、日本の国家観の曖昧模糊たる自信喪失をねらって、日本自身の国家否定と、暴力否定とを次第次第につなげようと意図している。そこで最終的に彼らが意図するものは、国家としての崩壊と、無力化」(『同』)であるからだ。日本の国柄が重大な危機に直面しているのは、戦後の占領政策によって「菊と刀との永遠の連環」が断たれたからであり、それに対抗するには栄誉の大権を今こそ自衛隊に与えるべきなのである。
←応援のクリックをお願いいたします。