天皇陛下をお慕いする日本人の根底にあるのは、ある種の神聖感だといわれる。「天皇と神道と日本人」をテーマにした林房雄との対談(『林房雄対談集日本の原点』に収録)で、葦津珍彦は独自の天皇論を展開した▼葦津は「人間の精神には、自分の生理的、官能的欲望その最たるものは、生命保全の本能だと考えますが、そういう官能的欲望をこえる高貴なものがある」との見方を示すとともに、「俗な欲望に絶えず動かされていることを、人間は自ら知っているからこそ神聖を欲するのです。ここにあらゆる民族が、あらゆる人間が宗教を求める根源がある」と指摘したのだ▼固定的な教条に縛られないのが日本人の特徴なのであり、天皇の存在意義の一番大切な点として、葦津は「日本人は、精神文化でも実に多様多彩な意欲をもっている。そこで特定の教条や、特定の神学をもたない神聖なる天皇という存在をもつことによって、はじめて、日本人は民族の神聖感を保ちえたんだ」と主張したのである▼いよいよ御譲位が迫ってきているが、アメリカに押し付けられた憲法にこだわり、開かれた皇室を叫ぶことは、皇室の権威を貶めることにほかならず、断じて容認することはできない。とくに我が国は今危機に直面しており、「日本人の忠烈の精神を燃え上がらせる」ためにも、日本人の神聖感を回復することこそが急務なのだから。
応援のクリックをお願いいたします