数十年前の農村では、どこの農家でも牛を飼っていた。牛乳はもとより、運搬や田を耕す仕事のほか、牛舎に稲藁を敷いておけば、糞は自然に有機堆肥になるし、実に有能な動物であった。
しかし、耕運機の出現によって、あっという間に農家から消えていった。牛舎が、農機具置き場に変わったのである。
さて、牛の鳴き声は、草食動物らしく春昼の居眠りを誘うように、実に長閑である。四方に牛小屋のある田園風景が想像される。
今でも丹那盆地のような乳牛をたくさん飼っている農村に行けば、何処かで牛が啼いているのを聞くことができる。