「もしかしたら君の姉さんは、だら(馬鹿)じゃないのか?」
結婚してからこの方、常々疑問に思って来た事を、彼はこの機会に思い切って妻の身内に尋ねてみるのでした。
「私の父からは女学校での成績が1番の娘と聞いていたが。本当は如何なんだい。」
彼は不安そうに妻の弟に尋ねるのでした。
義弟は父さんがそんな事をと一寸意外な顔をしましたが、酷く物が言いにくそうな顔をして黙ってしまいました。
しかし、遂に彼は思い切ったように口を開きました。
「確かに自慢できる姉ではない事は確かです。でも、姉の成績の事は知らないので僕の口からは何とも言えません。
しかし、僕の小さい頃に勉強など見てくれたのはあの姉でした。」
そうか、それではそう頭は悪くも無いのだなと蛍さんの父は安心しました。
ほっとする彼の顔を見て義弟はちょっと皮肉っぽく笑うと、
「まぁ、成績1番は上からとは限りませんからね。」
と言うと、首を振り振り、
「僕にしても、義兄さんの事は、お父さんから言うと姉と丁度いい夫婦だと聞いていました。
姉と義兄さんとはどっちもどっちだと。どっちも家の厄介者…。」
言いにくい事をズバリと言ってしまうと、義弟は寂しそうに笑みました。そして急に義弟は立ち上がり、
「じゃあ僕はこれで失礼します。僕の姪のホーちゃんも大丈夫そうだし。」
そう言うとその場から立ち去ろうとしました。
「一寸君ね、言っておきたいんだけど。」
真顔になった蛍さんの父は、義弟にここまで言われたのならと、並んで立ち上がると彼に言葉を掛けました。
自分もここ何年か思って来た事を、この機会に彼にはっきり言って置こうと思ったのです。
「僕だって確かに世間に自慢できるような身の上じゃ無いというのは分かるよ。商売が確りできる訳じゃないからね。」
蛍さんの父は続けました。
「でもね、僕は確りした大学に入ってちゃんと卒業したんだ。僕に何か言いたいならね、僕と同じ大学か僕以上の大学に入ってからにしてくれないか。」
そう彼が言うと、義弟は分かりましたと頷きました。