Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、192

2017-05-29 00:01:37 | 日記

 「もしかしたら君の姉さんは、だら(馬鹿)じゃないのか?」

結婚してからこの方、常々疑問に思って来た事を、彼はこの機会に思い切って妻の身内に尋ねてみるのでした。

「私の父からは女学校での成績が1番の娘と聞いていたが。本当は如何なんだい。」

彼は不安そうに妻の弟に尋ねるのでした。

義弟は父さんがそんな事をと一寸意外な顔をしましたが、酷く物が言いにくそうな顔をして黙ってしまいました。

しかし、遂に彼は思い切ったように口を開きました。

 「確かに自慢できる姉ではない事は確かです。でも、姉の成績の事は知らないので僕の口からは何とも言えません。

しかし、僕の小さい頃に勉強など見てくれたのはあの姉でした。」

そうか、それではそう頭は悪くも無いのだなと蛍さんの父は安心しました。

ほっとする彼の顔を見て義弟はちょっと皮肉っぽく笑うと、

「まぁ、成績1番は上からとは限りませんからね。」

と言うと、首を振り振り、

「僕にしても、義兄さんの事は、お父さんから言うと姉と丁度いい夫婦だと聞いていました。

姉と義兄さんとはどっちもどっちだと。どっちも家の厄介者…。」

言いにくい事をズバリと言ってしまうと、義弟は寂しそうに笑みました。そして急に義弟は立ち上がり、

「じゃあ僕はこれで失礼します。僕の姪のホーちゃんも大丈夫そうだし。」

そう言うとその場から立ち去ろうとしました。

 「一寸君ね、言っておきたいんだけど。」

真顔になった蛍さんの父は、義弟にここまで言われたのならと、並んで立ち上がると彼に言葉を掛けました。

自分もここ何年か思って来た事を、この機会に彼にはっきり言って置こうと思ったのです。

 「僕だって確かに世間に自慢できるような身の上じゃ無いというのは分かるよ。商売が確りできる訳じゃないからね。」

蛍さんの父は続けました。

「でもね、僕は確りした大学に入ってちゃんと卒業したんだ。僕に何か言いたいならね、僕と同じ大学か僕以上の大学に入ってからにしてくれないか。」

そう彼が言うと、義弟は分かりましたと頷きました。


ダリアの花、191

2017-05-28 11:19:49 | 日記

 蛍さんの父は廊下に出て行き、扉の陰に蹲ると可笑しくて仕様がありません。

クックックと忍び笑いをすると涙が出てきてしまいました。

すると不意に、

「兄さん、そんなに可笑しいかい。」

と声がして、すぐ隣の病室から義弟が姿を現しました。

どうやら彼はその部屋に隠れて、後から出てきた姉をやり過ごしたようです。

「あんな人でも僕の姉さんなんですから、仕様が無いでしょう。」

そう言う義弟に父は涙をためた笑顔を向けると、

「いやぁ、それでも可笑しくてね、あの年まであんな言葉1つ知らないなんて…、君は知っているんだね。」

そう彼が言うと、義弟はええと頷きました。

 「家の者は誰も教えなかったのかい。」

蛍さんの父が重ねて尋ねると、まさかと蛍さんの叔父は言います。そして義兄の隣にしゃがみ込みました。

「とうの昔から、母だって、兄や姉だって、僕自身だって、姉にちゃんと言いましたよ。」

「では何故あんなに物を知らないんだ。」

と父が問うと、叔父は言うのでした。

「姉は、思い込みが激しくて、一旦こうと思ったり覚えた事は、こちらが後から変えようとしても変わらないんです。」

「本当に?そんな人間がいるのかね?」

父は不思議そうに半信半疑でもう1度義弟に尋ねるのでした。

「わざとじゃないのかい?内に来てからは母や父の言う事を聞いて、物事はきちんとしていたようだったが、

それでも時折不思議に感じていたんだ。そんな時はわざと間違えているんじゃないかとも考えていたんだが、

こんな言葉を知らないとなると、これは相当驚いてね、しかもこっちの方が知らないと思われるとは、心外だったなぁ。」

父は可笑しくてしょうがないという風に、あんな姉を持って気の毒な事だと憐憫の情を込めて義弟の顔を見守ります。

 「医者でも何度か説明されただろうに、ずーっと誤解して来ている事の方が無理なんじゃないのかなぁ。」

蛍さんの父は如何にも母という人間が不思議で仕様が無いのでした。


草むしり

2017-05-28 11:02:37 | 日記

 除草ですね。除草剤を撒くとよいのでしょうが、殺虫剤と違い、除草剤は今一つ気が向きません。

ご近所で使ってある場所を見ると、てき面に土だけという効果でその凄さを目の当たりにするのですが、

それだけに怖いですね。

 草むしりは腰に来てしまい、草を抜く腕にも負担です。近年は除草シートなどで影を作り、

草むしりしなければいけない場所を減らしています。

それでも、矢張り草むしりはやる気と元気が無いとできません。苦手ですね。


ダリアの花、190

2017-05-26 17:44:50 | 日記

「そうよ、食間の薬ですもの。」

食事の間に飲ませるに決まっているじゃないの。そう妻が当たり前のように言うので、夫はあんぐりと口を開けて

『矢張りな。』と思うのでした。

「それで、お前自分の時も食間の薬は食事に混ぜてとるのかい?」

母はムッとしたような顔をして父を睨むと、そんな事する訳が無いじゃないのと反発します。

「ちゃんと食事の間に一服して、薬だけ飲みますよ。その後続けて食事をするに決まっているじゃないの。」

その妻の返事を聞いて、夫はこれは困った、と、可笑しさを通り越してしょんぼりしてしまいました。

 彼が沈んだ顔で唇を震わせていると、それを見た妻は夫が食間という言葉を知らなかったのだと思いました。

常から世間知らずだとは思っていたけれど、そこまで物を知らない人だなんてと思いました。

「あなた、食間と書いてあるんだから間違えようが無いでしょう。あなたはいつ飲んでいるんです。まさか食後じゃないんでしょう。」

食事を終えてしまっては、食事の間に飲む効果が無いじゃないですか。そう妻に言われて、夫はえっと驚くのでした。

妻はこれはまさに夫の図星を突いたと思うと可笑しくてたまりません。

「あなた、まさか食事前に飲んでいたんじゃないでしょうね。食事の前の薬は食前よ。」

「文字を見れば分かるでしょう。あなたが文字も読めない人とは思わなかったわ。」

そう言って彼女は如何にも可笑しいと、ハハハハハと、夫の間の抜けた顔を見て笑うのでした。

 「楽しそうだねぇ、姉さん。」

姉の笑い声につられたように、蛍さんの母の弟がにこやかに病室に入って来ました。

そして何を笑っているのかと、姉の愉快な笑い声の理由を尋ねるのでした。

蛍さんの母は、いえね、実はこの人がこれこれ云々で、と今までの話をすると、

「食間を知らなかったのよ。」

と、また涙を流して笑いだしました。その話を聞いた蛍さんの叔父は、顔は笑顔でしたが声も無く無言で、義兄とベッドの上の蛍さんの顔を交互に見やるのでした。

  「それで、姉さん、ホーちゃんには食事の間に薬を飲ませたの?」

 「ええ飲ませたわよ。」

「どうやって?」

そう叔父が姉に聞くと、蛍さんの母は

「食事に混ぜて食べさせたわよ。あの子が薬だけ飲むはずがないじゃないの。まだ小さいんだもの。」

子供と犬は同じだって妹が言っていたと母が言うと、叔父は姉さんがと直ぐ上の姉の名前を言うのでした。

「そうよ、あの子が子供も犬のしつけと同じで厳しくしないと駄目だって言ってたわ。」

と蛍さんの母は言うのでした。母の妹の叔母は保母であり保育園に勤務していました。子供の扱いには慣れていたのですが、

躾と世話の話が犬と子供の間で、如何いう訳か母の中では誤解されて理解されているのでした。

「確かに、犬に薬を飲ませる時には食事に混ぜるけれど。」

叔父は絶句しました。

 暫くして

「姉ちゃん、子供は犬とは違うぞ。」

そう言って顔を曇らせた弟に、姉は言うのでした。

「あら、お前の時だって何時も食間の薬はそうやって取らせてあげたのよ。姉ですもの、今更気にしてくれなくてもいいけど。」

にこやかに弟の謝辞を期待して、蛍さんの母は叔父に笑顔を向けました。その途端。

ぱしん!

眉を吊り上げた叔父が姉の頬を叩くと物も言わずに廊下に飛び出して行ってしまいました。

 一瞬吃驚して、笑顔を引っ込めた蛍さんの母でしたが、夫や娘の手前、直ぐにその場を取り繕うように再び笑顔を取り戻しました。

「あの子ったら照れて、照れ屋なのよ。」

そう言うと、彼女はするすると後ずさりするようにして戸口に向かい、廊下に出ると弟の後を追いかけるように姿を消してしまいました。

 「いやあ、これは見ものだったの。」

父は蛍さんに向かってそう言うと、赤い顔をしてにこやかに笑い、如何にも溜飲が下がったという感じです。

「近代稀に見る絶景というやつだったな。」

と父は嘆息するのでした。彼は可笑しくてしょうがないという感じ満面に笑みを浮かべるのでした。


アリアの花、189

2017-05-25 23:07:52 | 日記

 「お父さんだって不味そうだったじゃないの。」

蛍さんが抗議を込めた目で父を見詰めると、父は目の下を赤くして澄まして黙りこくっていましたが、

とうとう根負けしたように笑顔になると、そうだなぁ、確かにこの飯は不味いなぁ。そう言うと、布団の上に置かれた薬袋に目を止めました。

彼は袋に書かれた服薬回数や、服薬時などを読み、中の薬紙を数え始めました。

 「やはり1個足りないか。」

そう言うと父は廊下に出て、丁度来合わせた看護婦さんに、

「薬紙が1つ足りないようです。家の家内が貰って来たんでしょうか?」

そんな事を尋ねていました。

看護婦さんは薬袋を受け取り、日付や、服薬回数、中の薬の数を数えて、確かに1個足りませんねと不思議そうでした。

「昼食が済んで、次の食事までの間に飲むんですから、まだ飲まれていないんでしょう。おかしいですね。」

薬の担当は殆ど間違いをした事が無い人なんですけど、と言うと

「申し訳ありません、下で確認してからお持ちしますね。」

そう言って階下へ降りて行きました。

 「食間の薬を食事に混ぜたのか。」

あれのやりそうな事だと思うと、注意しておかなければいけないと父は思うのでした。

彼は妻が食間の服薬と書かれているのを、食事の間に薬を混ぜて飲ませる事なのだ、と勘違いしているのだと思ったのです。

 暫くして蛍さんの母は病室に戻ってきました。

蛍さんの父は自分の妻に向かって聞いてみました。

「お前、食間の薬はいつ飲むか知っているのか?」

「知っているわよ、当たり前でしょう。」

幾つだと思っているんです。私だって人生経験は長いんですからね、そう言うと、夫からそっぽを向いてプンと澄まして見せました。

そこで夫は、

「お前、蛍の食間の薬を食事に混ぜたんじゃないのか。」

と笑いを押し殺して落ちついた声で尋ねてみました。