眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

風とポメラ

2020-10-28 04:42:00 | 短い話、短い歌
風を受け書き出せば今日実になった
一首は君を示す全文
(折句「鏡石」短歌)


 扇子からは特別に優しい風が送られてくる。
「なんて優しい風でしょうか」
「特別な紙を使っておるからな」
 風の送り手は言った。
「どんな紙なんですか」
「風と親交の深い紙を特別に折ってある」
 秘密は紙の周辺に隠れているようだ。
「どう親交を得るのです? どう折るのですか?」
「何が知りたいのだ?」
「風のことです」
「根ほり葉ほりきくなー!」
 そう言って送り手は、扇子を振りかざした。
 優しかった風は厳しくなり、僕を押し戻した。


膝の上にあった
pomeraはまだ少しあたたかい
短い旅を終えて
ふりだしに戻る
このまま風化して行くの
化石となった手のひらを
誰が掘り起こすだろう


もう眠ったの
威勢はいいけど
構想がないのねいつも
おやすみ 
私も眠ろう
膝の上
少しあたたかい


風下に風の便りが満ちた時
行こうみんなの知らない街へ
(折句「鏡石」短歌)

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Aボタンのリクエスト

2020-10-26 20:25:00 | 短い話、短い歌
 Aボタンを押すとジャンプ。
 ジャンプ、ジャンプ。
「飛べ! 飛べ!」
 飛べー! 
 ばかになった?
 主人公はかたまっていた。
 凹んだままのAボタンが、ゆっくりと戻ってくる。
「もっと押して! もっともっと!」
「飛べ!」
 主人公は眠り込んでいる。
「凝ってるの私」
 このバカコントローラー!
「そうそう! もっともっと!」


Aボタン
押してはなして
真夜中の
E少年は
明日の代表

(折句「エオマイア」短歌)

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抱き合わせ調査員

2020-10-06 07:46:00 | 短い話、短い歌
「充電か? 何パーセントだい?」お父さん、それは私の個人情報


「こんにちは、国勢調査を語る者ですが」
「はい、どうぞ」
「どうも。おひとりでお住まいでしょうか」
「はい、そうです」

「涼しくなりましたね」
「今くらいがちょうどいいですね」
「本当ですね。座右の銘を教えてもらっていいですか」
「果報は寝て待てです」

「なるほど、いいですよね。因みにiPhoneですか、アンドロイドですか」
「今はiPhoneです」
「私もなんですよ。今ちょうどキャンペーン中でして、うちのネット回線に切り替えていただけると、本日より快適にご利用していただけます。早速ですが、こちら必要書類にご記入お願いしてよろしいでしょうか」
「いいえ、それは結構です」

「えっ? 何かご不満があったらお聞きしますが、何か……」
「こいつは抱き合わせじゃないか!」
「はい?」

「おしゃべりと契約の抱き合わせだー!」
「その通りでございます」
「もう帰れー!」
「失礼しましたー!」
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詩のシャワー(おやすみ)

2020-10-05 06:16:00 | 短い話、短い歌
 心ない一言が胸に突き刺さったまま抜けない。やさしいものたちを忘れた時。好きだったものを忘れた時。自分の中にあった大切なテーマを見失った時。ささくれほどのものがどこまでも存在感を増していくそんな夜は、すべてを置いておやすみよ。回復のための「詩のシャワー」をたっぷりとあびて、ゆっくりおやすみ。


空色の光沢をみせカナブンが
修理を終えたコインパーキング

(折句「そこかしこ」短歌)

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凶悪不倫事件

2020-10-04 10:12:00 | 短い話、短い歌
 裁判員に選ばれた。事件は凶悪な連続不倫である。そう聞いただけで気が重かった。いや面倒くさい。行きたくない。しかしこれという事情もなく、行かなければ自分の身が心配だ。
「国外追放が妥当でしょう」
 気づくと私の体は激しい議論の中にあった。
「前例はそうではないでしょう」
「前例?」
「時代が違うんだよ、時代が」
 裁判ではまず前例が重視されるはず。私の認識も既に古い可能性があった。口を開くのが恐ろしい。できることなら何も言いたくない。(早く帰りたい)

「被告は当時4日もろくに寝てなかったのですよ」
「責任能力を問えるのか?」
「問えるでしょう」
「あなたいつも寝てるんでしょう」
 かなり踏み込んだ議論だ。
「私はもっぱら昼寝でして」
「昼夜逆転ですか」
「それは罪深い」
「それのどこが罪なんです?」

「ところで、あなた……」
 あっ。気づかれた。
 やっぱり何も意見せずに済むということはない。

「あなたはどういう立場ですか?」
 あー、えーと、えーと、えーと。
「一旦話を整理しましょう」
 そうだ。少し論点がずれているじゃないか。

「そうですな」
「犠牲者は何人でしたか」
「えーと、現在わかっているのは……」


アンテナを芸能面に尖らせた
うちの国では不倫がニュース

(折句「揚げ豆腐」短歌)
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パーカーが欲しい(スーパー・ドクター・カー)

2020-09-30 08:55:00 | 短い話、短い歌
何もかもがぼんやりとしている

つかむことができないのは
世界の輪郭

いつになっても
認めることができない

きっと
認められないのは
自分の方だ

自分が認められないから
未だ世界が目覚めないのだ

さまよった末にみつけた
希望の端くれは
もう

夕暮れの中に溶け始めている

あれからずっと


 どうも冴えなかった。頭の中が思うようにまとまらない。まとまったとしても動けない。動いたようでずれている。届かない。あてが外れることばかりが続いていた。時間に弄ばれている。1時間が過ぎたはずと思っていると、時計の針は止まっている。けれども、次の瞬間にはもう闇に包まれているではないか。もはや自分だけの力ではどうすることもできない。
 思い詰めて家を出た23時。街を行くドクター・カーに飛び乗った。

「いったい何事ですか」
「ずっとぼんやりとしてるんです」
「ふーん。いつくらいからですか」
「よくわかりません」
「お口開けて。腕を上げて。そんなに上げなくていい」

「深い寝起きですね」
 どうも根本的な治療はないらしい。
(私で駄目ならもう医者なんてあてにならないということだからね)

「スープを出しときましょう」
「ありがとうございます」
「餅とアジカンも出しときましょう」
「はあ、どうも」
「ゆっくり聴いてください。夏が暑かったからね」
 寝ぼけ眼のまま私はドクター・カーを降ろされた。
 アジカンを頭に流し込みながら、夜の街を歩いた。
 もう10月だ。パーカーが欲しい。


アジカンをショートショートに振りかけた
落書きは名医の処方箋

(折句「アジフライ」短歌)

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できるかな(作業員の逆襲)

2020-09-24 04:47:00 | 短い話、短い歌
「これだけやって5円か」
 私たちの仕事は下請けだ。
 製品に欠かせないかけらの何かを作っている。
 それは何か? それを知る者はいなかった。
 発注に従って寸分の狂いもなくそれを作る。
(世界の大事な何かしらを作っている)
 私たちの手に自負はあった。
 私たちはいつも未来を作っているのだ。
「夢がある仕事ですね」
 響きのいい言葉。だけど、その目はどうも疑わしい。

「今を作ってみないか?」
 工場長は唐突に切り出した。
(一つの世界を作ってみよう)
 それは薄々皆が秘めていた想いだったが。
「そんなことはやったことがない!」
 心からの反対ではない。恐れからくる疑問だ。
「私たちにできるのでしょうか」
(神さまみたいに大きな仕事)

「できるに決まってんだろ!」
 工場長の言葉には寸分の疑いもなかった。
(自分たちの手をよく見ろよ)
 皆が我に返ったように自分たちの手を見た。
 これまでの作業はすべてここにくるためにあったのかもしれない。
「そうか……」
 あらゆる部品を作り、あらゆる部分を生み出す間に、それぞれの手の中に途方もない技術が培われていた。
「できないはずがない」
 確信の笑顔が工場の中に広がっていく。
(私たちの今がはじまる)

「我々は誰よりも先を行ってるんだから」


かみさまのかけらをつくる未来より
今に目覚めた下請工場

(折句「鏡石」短歌)
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夢のサイズ変更

2020-09-03 04:10:00 | 短い話、短い歌
 大きくなったら詩人になりたかった。コーヒーカップの中から妖精を引っ張り出す。未知の森に入り木漏れ日をたくさんあびて翼をつける。クジラに乗って異国へ渡る。異なる文化と魅惑の酒と触れ合って絵画をかじる。新しい繊維に身を包んで宇宙に飛び出して言葉を解放したかった。だけど、なりたいものになれるものは稀だ。
 今の私は毎日テレビの前にいる。職業はまわりまわって賢者である。


神さまの
カテゴライズが
実を弾く
一編さえも
詩人になれず

(折句「鏡石」短歌)
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銃身上の自由形式

2020-08-12 12:06:00 | 短い話、短い歌
「どこへ行く?」
「ちょっとコンビニまで」
「だめだ!」
 大きな手にはね返されて部屋の中に押し込められた。
 やっぱり今日もだめだった。だめだと思うほどに募る欲望はある。
 劇場に行って大きなスクリーンで映画を見たい。夏の太陽をあびながら潮の匂いのする熱い砂浜を歩きたい。巨大書店の中を隅から隅までまわって迷い疲れて眠りたい。妄想の先でふと我に返る。

「自分では何も選べないのか」
 進みたい道が私にはたくさんある。
 けれども、ドアの向こうでは奴らが銃を構えて私を脅すのだ。
「どこにも行くな! ここで自由に書け」
(まったく狂っている)
 銃身の向こうに自由を命じるとは……。
 奴らはいったい何をそんなに恐れている。私をいつまでここに閉じこめておくつもりか。だが、私の魂まで縛りつけておくことはできないぞ。

「読者よ」
私の声が届いているか
あなたの魂はまだ自由か
私を救え
声をあげろ
小さくまとまるな
魂に従え
自分たちの力で
未来を変えろ
不条理な物語を
決して許すな


襟のない
独裁勢が
詩をつかみ
首をとらえる
猿の惑星

(折句「江戸仕草」短歌)

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躊躇せぬ人々

2020-07-15 22:32:00 | 短い話、短い歌
 友達はグルメ狂。
 美味しい店に案内してくれるのはいいが、食べ方にまで口を出してくるのは何とも疎ましい。そこを甘受してつきあいを続けるかは、難しい問題だ。

「まずは蕎麦だけを食べて」
 逆らうとうるさいのでここは言う通りにするしかない。
 何とも味気ない感じがした。
「次につゆをつけて食べてみて」
 やはりこの方が格段に旨い。
「めんつゆ旨いだろ!」
「確かに旨い」
 最初にめんつゆを差し引いた蕎麦だけを食べさせることで、めんつゆそのものの旨さを認識させるという高等テクニックだった。
「この店はめんつゆなんだよ」

「大将、ごちそうさん」
 友達は威勢よく声をかけながら、めんつゆを褒めた。
 入り口付近の土産コーナーには、自慢のめんつゆが並び光り輝いていた。


お父さんGoToどこへ行きましょう
私は風邪を運びたくない

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袋麺選挙スペシャル・インタビュー

2020-07-10 01:49:00 | 短い話、短い歌
「みなさんは袋麺と聞いて何を思い浮かべますか?」

「サッポロ一番みそラーメン」
「まあ、そうでしょうね。これは誰でも一度は食べたことがあるのではないでしょうか」

「マルちゃん正麺」
「そうですね。これは出ると思ってました。一時期これは革命的とまで言われた商品ですね」

「揖保乃糸」
「なるほど。そうきましたか。素麺もありということですね」

「出前一丁」
「ああ、それもありましたね。これも袋麺の故郷と言っていいでしょう」

「ベビースターラーメン」
「なるほど。言われてみればそれも袋に入ってますね。これは私も勉強になりました」

「サッポロ一番塩らーめん」
「そうですね。これは最初に同じシリーズの物が出ていますので。塩を忘れては困る、ということでしょうか」

「十割そば」
「なるほど。和そばもありましたか。人が変われば意見も変わると、こういうことでしょうか。なるほど。十割とは徹底されてますね」

「こうしてみると、一口に袋麺と言っても、実に様々な系統があるんですね」

「エースコックのワンタン麺」
「なるほど。まだまだ欠かせないところがありましたか。貴重な意見をありがとうございました」

「藤原製麺のえび塩ラーメン」
「ほー、まだありましたか。これは絶品だという意見です。私も試してみようと思います」

「tabeteのだし麺」
「へー、そういうのもあるんですか。どの味がおすすめでしょうか。ああ、そうですか。食べてみろと。まことにごもっともな意見ありがとうございました」

「こうしてみると、袋麺だけで私たちの食卓を占めていくこともできそうですね。ところであなたはいつもラーメンを食べていると思うんですが、人気はこれからも続くと約束されるんでしょうか」

「ラーメンもいいけど、健康にも気を配りたいと思います」
「なるほど。わかりました。そういう答え方をするんですね」
「えーっ……、何がわかったんでしょうか?」
「そうですか。ラーメンはいいということがよくわかりました」




笑むほどにごっつ旨かぁマルタイの
袋ラーメン食べて寝るっちゃ

(折句「エゴマ豚」短歌)


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隣の宇宙人

2020-07-03 02:23:00 | 短い話、短い歌
 時々微かな音を聞いた。気配のようなものを感じることはあった。それ以外は常に意識の外にあった。例えばそれは、ずっと遠くにいる野生動物、別の銀河に生存する宇宙人のようなものだった。
(マイクを持った人たちが突然たずねてくる日までは)
「普段から何か変わった様子はなかったですか?」
「いいえ。特にこれと言って……」
 まさかそんな恐ろしいことがあったなんて。
 ああ、かみさま!


犯人は
一本角の
鬼だとか
まさか隣に
住んでいたとは

(折句「バイオマス」短歌)

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振り飛車第五世代

2020-06-17 09:05:00 | 短い話、短い歌
 はじまりと同時に飛車先を一歩一歩伸ばしていく。近頃ではそんな光景は名人戦でも町の道場でもすっかり見られなくなった。「飛車は最初の場所に居座って縦に使うもの」それが王道であった時代は長かった。居飛車は遙か歴史の奥に封じられ、今は振らなければ始まらない。

「大駒は大きく動かすものだ」中飛車、四間飛車、三間飛車、向かい飛車……。そして、もっと新しい振り飛車が、既に将棋バーの片隅で指され始めている。(それはまだ開拓されていないどこか……)
 石田流に構えた新四段が、窓の外に視線を向けた。まもなく空飛ぶ車があたたかい昼食を運んでくるのだ。
「ビーフストロガノフ」


最初からよくはならない振り飛車の出だしは呪い多きメルヘン
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ホット・サイド

2020-05-18 09:46:00 | 短い話、短い歌
「どっこいしょっと」
「でーんと構えたもんだな」
「お前にはこれで十分さ」
「後悔するなよ」

「ふん。あっちに行けよ」
「嫌だね。あっちの方が手強いんだ」
「何だと? 寝言を言うな」
「すぐにわかるさ」

「俺がナンバーワンだ」
「どこの?」
「世界のさ」
「どこの狭い世界だ?」

「つべこべ言うな」
「仕掛けちゃうぜ」
「どっからでも来やがれ」
「抜かれてから吠え面かくなよ」

「一昨日来やがれだ」
「いざ勝負!」


空踏みのからくりを巧みにつけて
イノシシを巻く初夏のウイング

(折句「鏡石」短歌)
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小さなスター

2020-05-04 06:38:00 | 短い話、短い歌
 思ったことを素直に口にすることができたなら……。物心がついた頃から、言葉を呑み込み始めた。何かを伝えることはいつだって難しい。相手は自分とは違う。それは取るに足りないこと? 既に知っていること。余計なお世話かもしれない。自分から発信することを迷い、躊躇い、ほとんどはスルーすることが多い。相手のことを想像すると怖くなる。他人は誰かと似ているようでも、常に未知の存在なのだから。
 肩についたほこりなどを、どうして見過ごせなかったのか。きっとその時の私はどうかしていた。いつもの私ではなかったのだ。完璧な身なりの一点に浮いたそれをわざわざ声に出してまで伝えようとは。
「あの、ちょっとよろしいですか……」
 紳士は無言のままゆっくりと動き出した。
 振り返った刹那、肩が瞬いた。


放熱の冥王星がこびりつく
ロングコートの紳士の肩に

(折句「ほめ殺し」短歌)
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